インターネットは、公平だ。だれでも等しく情報発信ができ、だれでも等しく情報を受け取ることができる。インターネットが出現する前には逆立ちしても考えられなかったことだ。
インターネット出現前は、情報の発信にはとてもお金がかかった。インフラを持っているマスメディアに頼るか、既に信用を得ている著名人の力を借り、情報を発信することが一般的だったからだ。
また、情報へのアクセスにもとてもお金がかかった。前職で新人の頃、日本能率協会のマーケティング・データバンクに行って資料をコピーしてきたことを覚えているが、コピーを1枚取る度に、情報量が何十円、何百円か忘れたが、かかったことを覚えている。(もちろん当時にもインターネットはあったが、今とは比べ物にならないくらい貧弱な情報量だった)
当時、基本的には調べ物をするには図書館に行く必要があり、欲しいデータや人の考えていること、貴重な知見などにアクセスすることに大きなリソースを割く必要があった。
現代は違う。貴重な論文もインターネットで読むことができ、著名人のブログを読めば、その人のナマの考え方にアクセスできる。
「情報へのアクセス」が問題ではなく、「情報の取捨選択」が問題となる。そういう世の中だ。
さて、この「公平さ」は何を生み出したのだろうか。
一つは「カネ」の地位の低下だ。ドラッカーが指摘するように、カネは知識社会においては制約条件でしかない。
”今日では、土地、労働、資本は制約条件でしかない。それらのものがなければ、知識といえども、何も生み出せない。経営管理者がマネジメントの仕事をすることも出来ない。
だがすでに今日では、効果的なマネジメント、すなわち知識の知識に対する適用が行われさえすれば、他の資源はいつでも手に入れられるようになっている。”(ポスト資本主義社会 ダイヤモンド社)
インターネットが大量の知識を媒介した結果、かつてカネがなければ何も出来なかった社会は過ぎ去り、「知識」があるところにカネが集まるようになった。
そして、「知識」の発信はほぼ無料でできる。誰でもブログを書くことができるし、誰でも知識の集積体であるソフトウェアを公開することができる。
もう一つが、「権威」の分散だ。
インターネットは権威を失墜させることはなかった。むしろ知識が発信できるようになったことで、それぞれのカテゴリで様々な「権威」が出現し、分散するようになった。その気になりさえすれば、誰でも「権威」になることができる。
そういう意味で、真の「Power to the people」が実現したと言ってよい。
しかし、代償としてわれわれが支払ったものもある。それは、「知識」の恩恵に預かれない人と、恩恵に預かる人との格差拡大だ。
昨日までの一般人が「知識」によって一夜にして億万長者になる一方で、「知識」の活用方法を知らない人々は縛り付けられ、「知らないほうが幸せだった情報」の渦に巻き込まれる。
インターネットは、「人の知識活用能力」を増幅させる装置だ。うまく使える人は自分の能力の何千倍もの力を利用することができる一方で、うまく使えない人はその恩恵に預かるどころか、搾取の対象となってしまう。
ヒラリー・クリントンは、テクノロジーの恩恵は、すべての人々に公平にもたらされるべきだ、という。
世界にはまだインターネットにつながることができない人々が50億人存在すると言われています。
そうした”不公平”な状態は持てる者と持たざる者の間にあるギャップを拡大し,富や機会の一極集中を促進することにつながります。テクノロジの恩恵は可能な限り公平に,平等に世界に拡がっていかなくてはならない─これはヒラリーだけではなく現オバマ政権の方針でもあり,IT企業でもFacebookが「世界の残りの50億人にリーチする」と理念に掲げています。
(出典:公平な世界に必要なのは”オープンインターネット” ─「Dreamforce 2014」でヒラリー・クリントンが語ったこと)
しかし、インターネットを中心とするテクノロジーを使いこなすのは、未だ一部の人々に限られる。
多くの人々は、インターネットを通じて知識を活用するのではなく、単に「消費」するだけにとどまっている。
インターネットは公平だ。誰が発信したとしても、良いものは評価され、悪いものは淘汰される。だから、「ほんとうに良いもの」しか、そこでは生き残れない。
しかし、「ほんとうに良いもの」を作り続けるたゆまぬ努力をし、かつそれを発信する。それをやり続けるのは本当にシビアな競争だ。
インターネットは、「超競争社会」を作り上げたのだ。
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