2017年4月10日に、フィギュアスケートの浅田真央選手が引退を発表しました。
浅田選手に関しては、どういう選択であろうと、本人が決めたことを支持したいというか、関係者でもない僕も、彼女がこれでいろんなプレッシャーから解放されるのではないか、と、なんだか少しホッとしてもいるのです。
本当に「余計なお世話」でしかないんですけどね。
僕にとって、浅田真央さんの演技のなかで、いちばん印象に残っているのは、2014年ソチオリンピックのフリーの演技でした。
僕は前日のショートプログラムを終えて16位という段階で、「もうダメ」だと思ったんですよ。
「メダル至上主義者」じゃないつもりなのだけれども、この状況で、モチベーションを保って、まともに演技をすること自体が難しいのではないか、と。
あれだけ期待され、注目されて、「本番のオリンピック」のショートプログラムで、信じられないようなミスを連発して……いっそのこと、フリーには出ないほうが良いのでは……などとも、考えていたのです。
ところが、浅田選手のフリーの演技がはじまって、「あれ、昨日とは全然違う」と思ったんですよね。
ジャンプも、失敗しそうな感じがしなかった。
6種類のトリプルジャンプをすべて成功させた、素晴らしい演技を見終えたあと、僕は目頭が熱くなってきました。
ああ、すごいものを観た。
人間って、すごいな、って。
そして、浅田選手のインタビューで、あらためて考えさせられました。
-今日は、どのように気持ちを落ち着かせて、立て直していったか
浅田真央:いろいろあったけど、1つずつ今までもクリアしていったので、今回のこの試合もジャンプ1つ1つを、クリアにしていきました。
僕のような外野の人間は、失敗の要因として、「メンタル面」とか「オリンピック独特のプレッシャー」なんていう、漠然としたものを挙げて、わかったような気分になってしまうけれど、浅田選手が「フリーの前にやったこと」は、神頼みでも気分転換でもなく「ジャンプの1つ1つを再確認し、そこにある技術的な問題を改善していくこと」だったのです。
実際には「それしかできなかった」のかもしれないけれど、このインタビューを聞いて、「逆境に置かれたときに、その人の本当の実力が問われるのだな」と、あらためて思い知らされました。
とにかく、できることを、一つ一つ、確実にやる。
そこで、普段のやり方を変えたり、ブレたりしない。
それが、あの演技に繋がったのでしょう。
『逆風に立つ 松井秀喜の美しい生き方』(伊集院静著・角川書店)のなかで、松井秀喜選手が、ヤンキースで同僚だったデレク・ジーター選手をこんなふうに評しています。
松井選手は、2005年のシーズンを述懐する中でジータのことをさらにこう話している。
シーズン終盤からプレーオフにかけて、ジータの活躍には目を見張るものがあった。特にチームが戦意を喪失しそうになる場面でよく打った。
「彼への信頼が、さらに強くなりました。ジータというプレイヤーがよくわかってきました。チームを引っ張るところは勿論ですが、踏ん張れる男なんですよ。死に体に見えても、最後まで踏ん張る男なんです。ミスター・ヤンキースですね」
さらに松井選手は親友をほめちぎった。
「打とうが打つまいが、彼の振る舞いは何ひとつ変わらないんです。自分より常にチームが優先しているんです。自分の影響力の大きさもちゃんとわかってるんです」
松井選手は素晴らしい友を得たものである。
また、昨年で引退された、広島カープの黒田博樹投手について、同僚のクリス・ジョンソン投手が、こう語っていました。
「黒田さんとはいろいろな話をしたけれど、彼がマウンドに立っている姿を見るだけでたくさんのことを吸収できた。得点を許してマウンドを降りてくる姿、ピンチを抑えてダグアウトに戻ってくる姿……まったく同じなんだ。ピッチャーがマウンドに立つには、こうしたメンタルの強さが必要だと思ったよ」
浅田真央、デレク・ジーター、黒田博樹。
この3人のリーダーたちの共通点は、「結果が出ないとき、厳しい状況に置かれているときでも、怒りや無念を露わにすることも、周囲の沈んだムードに流されることもなく、ただ、そこで自分がやるべきことを、いつもと同じように確実にやっていく」ということです。
逆風に立つ 松井秀喜の美しい生き方
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調子が良いときに大はしゃぎして周りを盛り上げたり、いまくいかないときにみんなの前で普段より努力してみせたり、声を張り上げたりするのが「リーダーシップ」だと思われがちなのですが、それは、そんなに難しいことではない。
感情や行動の揺れが大きい人は、いつ、ネガティブなほうに転ぶかわからない。
それに比べて、「どんなときでも、この人は動じない」という存在は、まさに「大黒柱」なのです。
弱気になったときに、ふと振り返ると、いつもと同じ姿の、あの人がいてくれる。
だいじょうぶ、あの人が頑張っているかぎり、自分たちも、まだやれる。
「大黒柱」は、自分が「影響力のある存在」であることを知っているし、だからこそ、自分が苦しいときでも、表に出さないのです。
他人に何かを命令してやらせたり、自分の存在をアピールするのが「リーダーシップ」だと勘違いしている人は、少なくありませんが、こういう「いつも変わらない人」こそが、「苦しいときに頼れるリーダー」なんですよね。
浅田真央さん、本当に、長い間、おつかれさまでした。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
著者;fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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