中小企業において、事業承継は非常に重要な問題の一つである。そして、多くの場合それは世襲となり、社長の子息たちが会社を継ぐことになる。

 

実際、経済産業省が掲載している野村総研のレポートを見ると、全体の6割以上が息子・娘に会社を継がせている。社員に継がせるケースは全体の15%にすぎない。

そこで有能な子息たちが会社を継ぎ、会社をより成長させることができれば全て丸く収まり、万事OKなのだ。

 

だが世の中はそううまくは行かない。

上のレポートにもあるが、親族に会社を継がせるときの問題点で最も多いのは、「経営者としての資質や能力の不足」である。

数値としても4割以上の経営者が、「会社を継がせる子息の能力に不安」を感じている。

 

実際、私もいわゆる「ドラ息子」が会社をかき回している事例を数多く見た。実力はないが偉そうに振る舞う2代目、社員の感情を逆なでするような高級車で会社に来る長男。

そういったことが社員のモチベーションを大幅に減退させることは言うまでもない。

 

もちろん親である経営者は、誰よりもその事をよく知っている。

社員から疎まれていることや、能力の不足は親である経営者が知らないはずがない。「ダメ息子なんですけどね…」というセリフを私は何度も聞いた。

だがそれを知りつつ、なぜ経営者は「出来の悪い息子」に跡を継がせるのだろうか。

 

よく言われる理由は、「やっぱり自分の子供が可愛いから」であるが、これは100%正しいわけではない。血縁に継がせたい、という気持ちがある社長もいるのも事実だが、実際には事情はもう少し複雑だ。

 

実際、事情を知ると「子息に会社を継がせた」という社長は「社内外に子息以外の選択肢がなかった」ということは数多くある。

「そんなことはない、従業員の中には能力の高い人物もいる」という反論もあろう。

 

だが、本質は能力ではなく、「お金」である。

 

事情を知る人にとっては当然なのだが、事業の引き継ぎには莫大なお金がかかる。

その実態は税金である。企業の所有権、すなわち株を社長から他者に渡すには結構な額の贈与税がかかる。何千万、ひどい時には何億円ものお金を税金として納めなければ、株は渡せない。

すなわち、株を受け取るのが一従業員だった場合、彼がそのお金を用意しなければならない。そのリスクを、一従業員が負えるのか?そんな人は稀である。「それなら起業した方がマシ」という人も多いだろう。だから、跡継ぎは必然的に社長の財産を相続する子息になる。

 

現実的には事業を引き継ぐのに必要なのは起業と同様、能力だけではなく「お金」と「覚悟」を必要とする。

「出来の悪い息子が跡取り」というのは、傍目から見る「親バカ」ではなく、苦渋の決断の結果であることもまた、多いのである。

 

 

 

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(Photo:Kim Andre Ballovarre