知り合いにフリーランスの売れっ子エンジニアがいた。いつも複数の案件を掛け持ちしており、引きも切らず仕事の話が来ていた。
しかし、フリーのエンジニアと名乗る人は世の中に数多くいる。なぜ彼に仕事が来ていたのか。当時その方と付き合いのあった会社に理由を聞いたところ、一言「仕事が早いから」と答えてくれた。
仕事が速いだけで仕事が来る、そんなことあるのだろうか。正直そう思った。
その後しばらくして、今度は製造業の会社で、購買部長から話を聴く機会があった。
「取引先の選定条件は、どのようなものがありますか?」
「価格、品質、そして何より、納期だね。」
「納期が一番重要なのですか?」
「価格は最初に合意しておけば何とかなる。品質は価格相応であれば良い。だが問題は納期を守るかどうかだ。納期がキチンと守られない会社とは絶対に付き合えない。機会損失が大きすぎるからね。」
私は「そんなものなのだろうか」と思った。
「課題については、完璧を目指さず、まずはできるだけ早く一通り完成させることが大事ですね。」
その方は大学で有機化学を専門としているが、学生の指導をする際にに必ず上のように言う。
「なぜでしょう?」
「まずは効率面、次にモチベーションの問題、最後に指導する側のやりやすさがあります。」
「もう少し詳しく教えていただけないですか?」
「完璧にやろうとすると期限を守れなくなる事が多い。まずは全体像を決定し、その後から細部を詰める。この方が圧倒的に効率が良いです。
あとはモチベーション、細かいところで引っかかるとどうしても「乗ってこない」ことが多い。最終成果が見えるとヤル気になるものです。
最後に指導する側としても、全体が見えたほうがアドバイスがしやすい。」
「一つ一つ完璧にしてから前に進むのではないのですね。」
「単なる「勉強」は、基礎がわからないと先に進めませんが、「研究」は、やるべきことが決まっているわけではないので、最初に道筋をつけないと迷いますね。」
私は「この人も「早くやれ」と言っている」と感じた。
数年後、自分が仕事を出す側の立場になると、確かに「安心して仕事を依頼できる人というのは極めて限られている」と感じた。
例えば部下に「やっておいて」とお願いした仕事について、完成度が低いのは何とかカバーできるが、「終わっていません」はどうしようもない。
安心して仕事が依頼できる人は社員か外部かにかかわりなく「早いこと」と「ムラがないこと」だ。つまりレスポンスが良く、作業の予想がつきやすい人が、「できる人」だ。
職人であれば「品質か納期か」と言われて「品質」というのかもしれない。
でもビジネスにおいては恐らく「納期」だ。
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