知人が営業をやっている。
その知人が、「全力を尽くしますが、成果が出る保証はありません。と言ったら上司に怒られました。」という。
彼は普段、ほとんど愚痴を言わない。だが、この件は腹に据えかねるようだ。
「上司は「絶対成果出します!と聞きたかったらしいんです」
と彼はいう。
私は上司の気持ちを想像した。
「単に意気込みが聞きたかったのでは?」と聞くと、
「絶対なんて、ないですよ。」
と彼は答えた。
少し冷静に考えてみる。この場合、上司の意図は2通りあるだろう。
ひとつは、「全力を尽くすが、結果が出る保証はないです」と言った時よりも「絶対成果出します」と言った時のほうが、成果が実際に上がると、上司が考えている場合。
ふたつ目は、上司が猜疑心の固まりになっており、「絶対成果出します」と言わせないと気がすまない場合だ。
まずひとつ目の話について、彼に振ってみた。
「「絶対成果出します」と言ったほうが、成果が実際に出るんじゃない?」
彼は「関係ないでしょう」という。
「実際、無理に「成果出します」なんて言わされても、「アホか」って思うだけですよ。成果を出すのは行動であって、宣誓ではないはずです。」
「ふーむ。」
「疑うなら、「僕は絶対に死にません」って宣言してから、スカイツリーの上から飛び降りてみてください。すぐに嘘だと分かります。」
「ま、そりゃそうだ。」
ではふたつ目の話だ。
「じゃあ、上司は「成果出します」って言って欲しかっただけなんじゃないの?」
「子供じゃないんだから、そんなことに付き合う必要ありますか?」
彼の言うことは正しい。
が、世の中には子供のような上司がたくさんいるということだろう。
「そうだな。上司に「嫌なやつ」と思われてもいいなら、付き合わなくていいんじゃないかな。」
彼はニヤリと笑った。
「もうとっくに思われてますよ。それに「正直でいい」って言う人もいますから。」
その上司とは本当に合わないのだろう。私は少し、彼が気の毒になった。
すると、急に彼は真面目な顔つきになった。
「でも、そんな表面的なことじゃなく、私はもっとマズいことが起きると思います。」
「どんなこと?」
「最近、目標数字が適当になってきていると思うんです。」
「例えば?」
「客観的に見ればこれぐらいに着地するだろう、って言う数字がありますよね。」
「うん。あるね。」
「その数字を報告すると「気合が足りない」って言われるわけですよ。だから皆、とりあえず大きめの数字を言っておく。」
私は想像した。いかにもありそうな話だ。
「ありそうな話だね」
「実際に、そうなってきているんです。例えば私の同僚ですが、実際にできそうな数字の3倍位を、とりあえず宣誓しておく。」
「さすがにそれは適当すぎるだろう。」
「いえ、それが喜ばれるんです。これって、会社として悪い癖がついてきてると思いませんか?」
それは確かに悪い癖だ。だが、適当な目標はいずれバレるのではないか。自分の首を絞めるだけだ。
「それだと、期末に「目標達成していないじゃないか」と言われるだろう」
「いえ、周りが全部目標に行っていないので、怒られません。でも皆「絶対達成します」って言わされるんですよ。でも腹の中では誰も達成できると思ってません。
恐らく、上も「言わせた数字」は当てにしてなくて「裏の数字」を持ってますし、皆も「これくらいだな」っていう、裏数字を持ってると思います。」
「なるほど……。」
そうなってくると、話は別だ。もはや「上司との関係がまずくなる」という表層的な話ではなく、組織の病の話だ。
「最近ウワサでは、数字の帳尻を合わせるために「不正」をしている人もいるとか。粉飾って、こうやって起きるんじゃないですかね。」
彼はそのために「正直に答える」が正義であると言う。
「だから、僕は「全力は尽くしますが、成果は保証できません」っていうんです。正直に。」
さて、読者諸兄はどう感じるだろうか。
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