先日、訪問した会社で「組織づくり」を手伝って欲しいと依頼された。

「組織づくり」とは何をイメージしていますか、とお伺いした所、人によって大分イメージが異なっていた。

例えば、

・理念の話をする人

・組織図、業務分掌や職務権限など、指揮命令系統の話をする人

・教育や育成の話をする人

・目標や評価の話をする人

など、バラバラであった。

もちろんこれらは間違いではなく、大事な話ばかりである。だが、これらはすベて断片的な情報だ。

「組織づくり」を包括的に教えて貰える機会は、人にもよるがそれほど多くないため、こうなってしまうのだろう。新米の管理職が悩むわけだ。

 

必要なのは「組織として機能するために、最低限、何が必要か」を見極めることである。逆に言えば最低限、すなわち下の6つのうちどれがかけていても、それは組織として不十分である。

 

 

1.目標をつくる

ピーター・ドラッカーは

「組織は目的ではなく手段」

「問題は、その組織は何かではなく、その組織は何をなすべきかである」

と述べた。※1

この一言には組織づくりの本質が込められている。

特に小さな部門の管理職であれば、最も重要なのは「組織の具体的な目標」だ。ここを飛ばしてしまうと、後のプロセス設計や施策の洗い出しの時、単に現状を追認するだけで終わってしまうことが多数ある。

なお「売上目標」や「利益目標」は「目標」という名前が着いてはいるが、ここで言う目標とは異なる。売上や利益は目標ではなく活動の結果だからだ。組織の長が考えなければならないのは「何をすれば、結果として売上や利益が得られるか」である。

したがって「何をすれば」の部分を目標とすることだ。具体的には

◎今期は◯◯を◯◯の規模で行う

◎今期は◯◯の活動を行う。

◎今期は◯◯の地域の人々に◯◯を届ける。

参考:大企業でもないのに売上を目標にしている会社は、今すぐにそれをやめたほうが良い

という形で、目標を設定する。

 

また、目標はパフォーマンスを正確に測定するために

・組織全体の目標

・プロジェクトの目標

・チームの目標

・個人の目標

と、階層単位で設定する。

※1

 

2.仕事のやり方をつくる

さて、もちろん目標を決めただけでは「組織づくりができた」とはいえない。次に必要なのは「仕事のやり方」だ。組織づくりがなされている企業と、なされていない会社の大きな違いの一つは「属人性の有無」にある。

「この人しかできない」

「あの人に聞かないとわからない」

という仕事は極力発生しないようにするのが組織だ。この作業により「社員の入れ替わり」に耐えうる組織が出来上がる。

属人性を排除するのに必要な「仕事のやり方」には以下の項目を含む。

・業務フロー

・KPI

・様式

・マニュアル

・データの形式

・緊急対応、例外対応の方法

・記録の方法

・チェック、テストの方法

逆に言えばこういったものを整備せず、常に「優秀なリーダー」、「スーパー営業」や「卓越したクリエイター」が必要とされる組織は、それがいかに大きい集団であったとしても、組織とは呼べない。

 

3.仕事の改善のしくみをつくる

目標と、仕事のやり方は決めた。組織であればこの2つは必須の条件と言ってもよい。そして次に必要とされるのは「改善活動」である。

改善活動は以下の活動を含む。

・パフォーマンスの測定

・測定結果の報告

・報告されたデータの分析

・改善活動の立案、実施

・改善活動の効果測定

これらのプロセスを、仕事を実施する中で動かす。

これらには「機械化」「システム化」などによって、2人でやっていたことを1人でできるようにする、4日かかっていたところを1日でできるようにするなどの大きい改善から、様式を見直したり、仕事の手順を改善したりすることなどの細かい改善活動までが含まれる。

組織として機能していない状態では一人ひとりのノウハウが個別に運用されているだけだが、「組織」は誰か一人の良いやり方が全体に共有される。この仕組みを作ることが「組織づくり」においては重要だ。

 

4.キャリアパスをつくる

人材育成は「組織づくり」の一つのテーマだ。そして「育成」というと教育や研修のことを思い浮かべる方も多いだろう。だが、組織づくりの最初に必要なのは教育や研修ではなく「キャリアパス」だ。

キャリアパスには以下のことが含まれる。

・階層

・階層に応じた、必要とされるスキル、パフォーマンス基準の明確化

どのような人材を目指すのか、何ができれば一人前で、何ができたらリーダー足りうるのか、組織はそういった基準を必要としている。さもなくば組織の不透明さに対しての不満が高まるだろう。

逆にキャリアパスが存在すれば、必要な技能に応じて適切な教育や研修を適用できるようになり、人材育成もスムーズに運ぶようになる。特に技能の未熟な新卒や若手を多く採用するような組織は、キャリアパスの存在が非常に重要だ。

 

5.評価方法をつくる

ここまで来ると、組織に必要なことはほぼ作り上げたことになるが、肝心なことを一つ残している。それは「評価」だ。

ここまで紹介した「目標、仕事のやり方、改善のしくみ、キャリアパス」

を持つ会社は、ようやく「データに基づく評価」を行うことができるようになる。逆に、以上の4つが作られておらず、上司の恣意性が大きく反映される評価は属人性が高く、「組織づくり」の過程において排除すべきことの一つである。

評価についてはよく「うちの会社の評価は、結局上司の好き嫌いだから」という声が聞こえてくるが、それは単なる部下の愚痴であることも多いが、大半は上の4つのいずれかがうまく機能しておらず、手元に評価のための十分なデータがないことに起因する。

 

6.文化をつくる

以上の1.〜5.は、主として組織のテクニカルな側面についての必要事項だが、組織はそれだけでは十分に動かない。もう一つ重要なのは、構成員のモチベーションやマニュアル化されていない事態への対応に必要となる「文化」である。

組織の「文化」は、主として以下の要素のどれか、または組み合わせにより従業員に伝達される。

・組織の長の人格・行動・発言

・理念や判断基準

・評価基準

・顧客への態度

・報奨制度

だが、影響が大きいのはやはり組織の長の人格・行動・発言である。

 

 

場合にもよるが、以上見てきたように「組織づくり」は、高度な非定型業務には向いていない。そもそも新規事業やビジネスモデルの設計、イノベーションの促進などの非定型業務は「組織」が行うものではなく、卓越した「チーム」が行うべきものである。

チームが事業の芽をつくり、組織がそれを大きくする、という流れを企業の中でどのようにつくるか。経営者の手腕が問われる部分だ。

 

 

 

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(Windell Oskay)