成長せよ、と声高に叫ぶ方を見るにつけ、「本当に成長は重要なのだろうか」と疑問に思う。
逆説的ではあるが、成長を目指すのは楽で、むしろ現状維持を意図的に目指すほうが、遥かに難しいのではないだろうか。
太平洋の南西部に、ティコピア島という、絶海の孤島がある。
(撮影:NASA)
島の総面積はたったの五平方キロというから、正方形にしてみると、タテヨコ二キロちょっとしか無いという、恐ろしく小さな島だ。
この島の人口は約1000人、
人類学者のレイモンド・ファースは、この島に1年間滞在し、研究活動を行ったが、彼はこの島を評して次のように言っている。
「この島に実際住んだものでなければ、ここが他の場所からどれほど隔絶しているかを理解するのは難しい。この島はあまりに小さいので、海の眺めや響きが遮られることはめったにない。(中略)島民にとって、本当に大きな陸塊を想像することはほとんど不可能なのだ」
しかし、驚くべきことに、この小さな島には三千年にわたって、人か途絶えることなく、生活している。よく耳にする「サステナブル」という言葉は、この島にこそ相応しいのだ。
だが、一体どうやって1000人以上の住民をこの島は養っているのだろうか。そして、もっと大きな問題、どうすれば人口を維持可能な水準にとどめて置いているのだろうか。
一つ目の疑問、食糧問題に関しては、この島に住む住人は、多くの「生き延びるため」の知恵を持っている。島は効率よく農地にし、豚は農地を荒らすので飼わない。海産物は乱獲を防ぐため、漁をするためには首長の許可を必要とする。
また、長期保存できる保存食料を自然災害に備え、常に備蓄している。これらは昔ながらの知恵として、この島に伝承されているものだ。
ただし、それだけでは三千年もの永きにわたって、彼らは生き延びられなかったはずだ。
なぜなら、十分な食料があれば、人口はゆるやかに増加するからだ。例えば最初の入植者を25人と仮定する。わずか年間1.4%の人口の伸びでさえ、300年足らずで人口は1200名を超える。
人口爆発が起きた土地は、多くの歴史が示すように、資源の奪い合いから戦争へ発展、崩壊に至ることもある。
だが、彼らは意図的に人口を一定に保ち、三千年以上、破滅を免れてきた。
彼らにとって最も肝心なのは、人口を安定させ、増やさないことだった。自分たちの身の丈を知り、成長を止めることで生き延びてきたのだ。
彼らの人口制限の施策は徹底している。
ティコピア島の首長たちは、毎年儀式を行い、島のための「人口ゼロ成長」の理念を説く。
さらに、ティコピア島で親になる人々は、自分たちの長男が婚期に達した後に子供をもうけ続けたり、「人数枠」を超えて子供を持ったりすることを悪い行いだと感じている。その他、避妊、堕胎や、現在では行われていないが新生児を殺害したりすることもあった。
さらに、貧しい家庭の次男や三男、あるいは余剰となる適齢期の女性たちは子供を持たないことを自主的に選択した。
「自殺」も珍しくない。首吊りや入水などの他にも、危険を承知で海に航海に出る「事実上の自殺」が多数あり、この種の航海が未婚男性の死因の3分の1以上を占めていた。
彼らは共同体の危機を回避するために、「人口減」という成長回避を敢えて行った、ということになる。
現在でもティコピア島の首長たちは、島民の数を厳しく制限し、1015人までとしている。
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現代の日本人たる我々は、常に成長を指向するように向けられてきた。
「成長せよ」
「人口を増やせ」
「売上を伸ばさなくては」
しかし、現実には永遠の成長など存在しない。会社も社会も、いずれ成熟を迎え、成長を止める。そんな時、それを受けれることは実は「大人の態度」である。
皆に聞いてみるといい。「早く大きくなりたい」と言うのは、子供だけだ。
経済学者のトマス・ロバート・マルサスは次のような「人口論」を展開した。
人口は幾何級数的に増加するが生活資源を始めとする食料は算術級数的にしか増加しないので、貧困や食糧不足は必ず存在する。
化学肥料や資源発掘の技術の発達により、現在の地球は現在の人口を支えることができている。が、もちろん限界はある。資源は無限ではない。
日本の人口が減っているという。我々は本能的に悟っているのかもしれない。「別にもう、成長なんかする必要はないんじゃないの?」と。
少子化は「現役世代が老人の面倒を見ることができなくなるから問題」という人がいるが、それは現在の年金制度に問題があるのであって、少子化そのものは問題ではない。
増えすぎた人口を抱える文明の末路は悲惨だ。残るは戦争と、共食いだけなのに。
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