かつては「安定した雇用」を獲得するために皆、全力を尽くした。学歴や就職活動など、「社会人になるまでのがんばり」が、人生における成功の条件の一つということが明らかだったからだ。
だが、今ではその条件も疑わしい。近年ではむしろ「安定した雇用」を獲得した人々の立場が危うくなっている。
「会社にしがみつくしか無い」
「その会社でしか通用しない」
そういわれることもしばしばである。
最近私が訪問した会社の経営者は、私にこう述べた。
「安達さん、本当に仕事が始まるのは、実は35歳からじゃないかと思っているんです。」
「どういうことでしょう?」
「いやね、中途採用の募集をして、以前に比べて多彩なバックグラウンドの人に優秀な人が増えた、と実感しているんです。」
彼は、応募してきた方々のことを思い出しているようだ。
「複数の製造業でラインのマネジャーをしていた方、もう5社ほどのITスタートアップ企業を渡り歩いてきた技術者、証券、保険、銀行と金融の会社で営業をしてきた人。皆、とても面白い方々でした。
昔は、「転職回数の多い人」は「ふらふらしている」という先入観で断っていたのですが、最近はむしろ転職していないとダメ、というくらいです。」
「なるほど」
「それに比べて、35歳になるまで、大企業の子会社にずっと居ました、とか、中堅の商社で10数年やって来ました、とかそういった経歴の人は、全く面白くない。」
「そんなもんですかね」
彼は、一口水を飲み、言った。
「私ね、思うんです。理想のキャリアってなんだろうってね。」
「はい」
「で、私はこう思いました。35歳までに、できるだけたくさんの会社を見る。5回、6回くらい転職しても構わない、そして、35歳から40歳までに自分の人生を捧げることのできる仕事を見つける。
自分で会社をやったり、友達と何かプロジェクトを立ち上げたり。そして、50、60歳くらいになったら、また組織に戻って、今度は後輩の育成をしてもいい。」
彼は笑って最後に言った。「まあ、私の勝手な思い込みですが。若い時に、一つのところに留まって、いろいろな会社での経験ができないのは、本当にもったいないと思います。」
「35歳が転職できる限界だよ」と、私は新卒で就職をした当時、先輩から教えられた。
もう今から10数年も前の話だ。
ところが今、そんな話をしていたらおそらく「何もわかっていないね」と、笑われてしまうかもしれない。
転職の限界が35歳だったのはまさに10年以上前のことであり、現在は40歳、50歳になっても十分に良い仕事を見つけることができる。
例えば、インテリジェンスの運営する転職サイトDodaの調べでは、「転職成功者」の平均年齢は毎年上がっている。
https://doda.jp/guide/ranking/088.html
この傾向が続けば、10年後には、されに転職できる年齢が上がっていくだろう。
終身雇用が前提となっていた世界では、一つの会社に何十年もとどまり、「できるだけ転職しない。できればひとつの会社に長くとどまる」というキャリアを選ばざるを得なかった。
それが、35歳転職限界説、を作り上げた。
今は、そのような世界ではない。そして、ほんとうに良い経営者は、「一つの会社に長くとどまった人の価値」がそれほど高くないことをすでに知っている。
終身雇用の「安定した職についた人々」の価値は今、暴落しつつある。
(2025/7/14更新)
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。
<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは
【ご視聴方法】
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当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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