「大企業のサラリーマンが安定?とんでもない。」と、友人は言った。

彼はフリーランスのプログラマーで、7年ほど前に独立した人物だ。彼は就活生なら誰でも知っているような名だたる大企業に勤めていたが、その「大企業の社員として安定した地位」を捨てた。

 

「みんな違う、っていうけど、オレ、本当に安定志向なんだ。とにかく安定した生活がしたかった。でも…大企業の中にいても安定はどこにもなかった。」

彼は昔を懐かしむように言った。

「何故そう思うんだい?就活生なんか、安定を求めて大企業に殺到しているっていうのに。」

「オレもそう思ってた。でも聞いて欲しい。」

 

彼の長い話を要約すると、つまりは以下のような話だった。

 

・収入の口が一つしか無いのは、安定ではない。

会社の業績が悪くなって、急に残業代を制限された。もちろん、文句も言えなかった。もっと悪いのは、人事制度の改定で、昇給率が急に悪くなったことだ。

もちろん、会社全体の業績が悪くなったのは自分たちのせいだけど、個人の力では如何ともしがたい。これからどうなるかもよくわからなかった。こんなのが求めてきた安定なのか、と自問自答したら、そうではない、という結論になった。

 

・リストラされた上司が、「会社を信じるな」と言っていた。

本部長になることを有望視されていた上司が、会社の事業の方向転換で、突然干された。彼は仕事ができた方だったけど、もちろん他にもできる人はたくさんいる。そのうちの一人が結局本部長になった。

今本部長になっている人物は、彼のことが嫌いだから干したのだろう。子会社に行かされ、ついには転籍ということでリストラされた。彼と最後に話した時の一言が「会社を信じるな」だ。

それって寂しいことだし「安定」とは程遠いことだと思わないかい?

 

・会社は「死ね」とは言わないけど、「あっちいけ」「こっちいけ」に従わなきゃいけない。

せっかく家を買ったのに、満足に住むこともできなかった。会社は家を買った瞬間、転勤させるっていうけど、本当だな。子供の顔を見るのも満足にできず、週末は一人。

この生活を「安定」って呼ぶのだったら、随分とイカれてると思う。

 

・会社員の生活が楽しいかどうかは、上司次第。

上司も定期的にローテーションされるけど、痛感したのは「会社が楽しいかどうかは、上司次第」だっていうことだ。

いや、オレが前向きじゃないのはわかってる。でも、そんなことは本当のクソ野郎に出会ったことのないバカが言うセリフだ。中小企業に勤めてるやつだって、そうだ。結局社長の気分次第だろう?

 

 

彼は最後に行った。

「いや、オレは投資のことはよくわからんが、「安定的なリターンを得るなら、卵は一つのカゴに盛るな」は常識なんだろう?」

「そうかもしれない。」

「じゃあ、オレは大企業に勤めて、「自分を勤め先だけに盛っていた」ってことだよ。だから、会社の方針に右往左往して、職場の人間関係に振り回され、客の担当者が変わって高圧的になれば、ペコペコしなきゃいけない。」

「そうだな。」

「こんなのは安定じゃない。誓って、オレの望む安定じゃない。」

「じゃ、望む安定って何?」

私は聞いた。

 

彼は言った。

「オレの辿り着いた結論はただ一つ。状況が変わったら、より良い環境を「自分で選べる」という事。いくら高給をとっていても、サラリーマンは状況変化に弱い、上司がかわったり、勤務地が変わったり、こう言った「選択肢の少なさ」が、不安定の本質なんだよ。」

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

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