「日本の雇用終了」という書籍がある。

タイトルだけを見ると、インターネット民は「日本の雇用はヤバい」とも読みそうなのだが、そのような本ではない。

 

この本を一言で言えば「クビにした会社と、クビにされた社員の紛争」の調停事例を扱った研究書籍である。

 

内容としては、国の出先機関である都道府県労働局が行った「あっせん」という紛争調停の事例を延々と紹介、考察している。

あっせんとは

当事者の間に学識経験者である第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては、両者が採るべき具体的なあっせん案を提示するなど、紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図る制度です。

(埼玉労働局)

そして、一見退屈そうな本なのだが、これが読み出すと結構面白い。

なにせ、事例がリアルで豊富なのだ。

 

もちろん当事者同士は真剣であり、面白がっては良いものではないのだが、「経営者」と「労働者」の深い溝が、この書籍の事例からは見て取れるので、非常に興味深い。

そして、その中で最も興味深いのが「クビの原因」だ。

 

深く読んでいくと、日本企業では「能力不足」よりも「態度の悪さ」のほうが問題になりやすいという傾向がハッキリと指摘されている。

・労働条件変更といった中間形態をとることなく、直接「態度」を理由にした雇用終了に至っているケースが、168件(実質166件)と全雇用終了事案の中で実質的に最も多くなっている。(第一節)

・狭義の「能力」を理由とする雇用終了では、具体的な職務能力の欠如や勤務成績の不良性を理由とする事案はそれほど見られず、むしろ「態度」と区別し難いような「能力」概念が一般的に存在していることが大きな特徴である。(第二節)

これは未だに日本企業の多くで「メンバーシップ型の雇用」が行われていることの証左であろう。

 

例えば、こんな話が出てくる。

・面接時には土曜出勤とのことだったが、土曜出勤はほとんどなく、時間給のため、休日になるのならバイトをしていいかと工場長に尋ねたら、それが原因で解雇になった。社長にバイトはしないと申し出たが、それでも解雇と押し切られた。

会社側によれば、解雇理由は、職場の同僚との協調性の欠如と勤務態度の怠慢である。

・保育園に採用されたが、「新規採用者は採用前3週間以内で従業員研修をうけなければならない。なお、研修期間は無給とする」という就業規則に従い研修中に、申請人が無給研修に疑問を呈し、園との間に「不安な気持ちで働きたくない」「であれば、不安のない職場をさがされてはどうですか」というやり取りがあり、本採用を拒否された。

この無給研修は、8:30〜5:00勤務で、実質は試用期間中のOJTと見られるが、保育園側は「新規採用予定者の研修期間であり、正規職員としての雇用契約も結ばれていない」という認識である。

双方の見解にかなりの食い違いがあるケースもあるので、どちらか一方に肩入れすることはできない。

が、事例を見ていると明らかに企業は、態度が悪い人(または空気を読まない人)に対して制裁を加えるために強権発動をする時がある。

 

結局、今もなお日本企業において「仕事はする。だが、態度についてはあれこれ言われたくない」は、通用しないのである。

 

*****

 

思えば、私がコンサルタントをやっていた時代に見た、あるサービス業においても、「社員旅行への不参加」が業務成績を致命的に悪くするという会社があった。

 

もちろん、社員旅行は休日を使って行われるので、本来ならば、休みたい人は不参加を表明しても良いはずだった。

しかも、体裁は旅行なので、朝から晩まで会社に時間を拘束される。

だが、休日手当が出るわけではない。あくまで建てつけは「福利厚生」なのだ。

 

だが、この会社は「社員旅行は全員必須の参加」ということで、参加しない場合は懲罰的な評価が下されていた。

 

もちろん、何名かの社員は、これに対していくばくかの陳情を試みたようだが、社員旅行は社長の肝いりのイベントだったため、指摘を試みた社員たちは、遅かれ早かれ冷遇され、放逐されてしまった。

 

「仕事の出来」ではなく、「職場への適応度」によって評価が決まる。

そんな会社はまだまだ多いのかもしれない。

 

 

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(Photo:tokyoform