少し前に、私の先輩で、非常にクチの悪い方と一緒に食事をしたことをふと思い出した。

 

彼は今、某大手企業で若手の育成にあたっている。若手にどうしてもひとこと言いたいが、言っていいかわからないので相談がある、とのことだった。

彼が「言っていいかわからない」というときは大抵ろくな話にならない。

どうせ彼は、私の話など聞かないのだ。

「またいつもの付き合いか……」と思いつつ、店に向かう。

 

飲み物を注文するや否や、彼は語りだした。

「あー、あれだ今日の話。」

私は訊ねた。

「で、若手に何がいいたいんですか?」

「あのな、最近「自分を変えなくちゃダメなんです」とか「変わりたいんです」とか言う若いやつが増えてる気がすんだけど、アレなんだ?」

「そんなたくさんいるんですか?」

「研修をやって、レポートを提出させると、だいたい4、5人に一人くらいは、「変わらなきゃダメだと思いました」って書いてくる。何かのテンプレートか?あれは。単に「やります」でいいだろう。」

 

少し笑ってしまった。

「そのままだと思いますけど。不甲斐ない自分をかえて、やる気に満ちた自分になりたい、ということではないでしょうか。」

「あー、あれか、その「意識高い系」ってやつ?」

「うろ覚えの知識で適当なことを言わないでください。」

「なんだ、違うのか。」

「知りませんよ。で、どうしたんですか?」

「いやな、そう言っている奴ら見てると、「変わったら行動できる」って思ってるやつ多いんだわ。」

「はあ、そうですね。だから変わりたいんでしょう?」

 

そう言うと、先輩の顔つきが変わった。

「アホか。変わったら行動できるって何よ。先送りしてるだけじゃないか?あれ。」

「?」

「いいか、そいつが変わるか変わらないかなんて、仕事の上では本気でどうでもいいわけよ。」

「ほう。変わらなくていいんですね?」

「当たり前だろ。変わる努力なんて必要なんかないから。そのかわり、徹底的に行動しろってオレは言いたい。」

「なるほど(笑)」

 

ようやく意味がわかった。

「要するに、変わらなくちゃ、といいつつ、何もしない人が多い、ってことですね。」

「そうそう、それ。正直言って、全くソイツらには見込みが無いんだけど、それをはっきり言った方がいいのかね。ウチの部長は、「言え」って言うんだけど、言ったら言ったでパワハラだなんだって言われたり、落ち込まれたりしても困るし。」

「先輩はどう思ってるんですか?」

「いい大人なんだから、ほっときゃいい、って思うけどな。余計なお世話だろ。」

「彼らが将来困っても?」

「いいんじゃね。オレの知ったことじゃねーし。20代も後半になって、そんなことすら知らないやつはほっときゃいいんだよ。」

「まあ、そうかもしれませんね。でも確かに「変わろうと思いました」という若手を真っ向否定して、「変わらなくていいから、働け」は、随分と乱暴な……。」

「そうだな……わかった。」

「……。何がわかったんですか?」

「皆さんは、変わらなくても結構ですが、会社が必要としているのは行動です。行動ができないと皆さんの評価を最低にせざるを得ません。だから、行動してください。  ……って言うわ。」

「(笑)行動できるように変わります!って言う人いるんじゃないですか?」

「そういうやつには、行動してから、変わってくれ。と頼むね。」

 

ということで、乱暴な先輩ではあった。

だが「変わらなくていいから、働け」に一片の真理を感じたのもまた、事実だ。

 

 

 

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