組織の境界がなくなりつつある現在、他者とコラボレーションする力は、ビジネススキルの中でも最も重要な力の一つとなった。
例えば私の知人のある研究者は、「まだ分野として確立していない部分が、チャンスなんだ」という。
「専門ばかり深く研究する人もいる、でも、本当に新しくて価値ある研究は、その分野と分野の間に存在している。逆にどのジャーナルに載せるかは、結構難しいんだけどね。分野と分野の間だと、これは物理でもないし生物でもない……みたいなことって多くて、査読できる人も少ないし。」
と言った。
よく言われるように、優れたアイデアの本質は、知識の組み合わせの妙にあるが、知識の地平線があまりにも広大になっているので、人が一生の間で到達できる知識の全体に占める割合は小さくなり続けている。
したがって、自分の持つ知識だけで仕事をしようとすれば、必ずや独善と凡庸に陥る。
これを打開するためには、異なる業界、異なる専門、異なる考え方の人々とうまく働くことが必要だ。
卓越したことを成し遂げようとすれば、必ず初対面の人やネットワークの向こう岸にいる見知らぬ他者とうまく働けるスキルが必要になるだろう。
ピーター・ドラッカーは「得意なことに集中するのが、知識労働にとって重要」と述べ、専門家同士の連携を説く。
さて、それでは馴染みのない他者と働くのに必要な能力とはなんだろうか?
一言で表現するのは難しいが、反面教師としては、私のかつての仲間の一人があげられる。
彼はコラポレーションが絶望的に下手で、サービスは内製、ノウハウは自前、に強いこだわりあった。
彼は基本的に、他人の知見は自前に劣るものと考えていたため、コラボレーションを持ちかけてくる相手に対しても、常に高圧的な態度、短期的な成果の要求をした。
他社との打ち合わせも、大抵の場合、彼が最も重視しているのは「で、ウチの取り分は?」だった。
だが、これではうまくない。大抵の場合はだれも動かず、ほとんどの外部プロジェクトは頓挫した。
では、どうすべきだったのだろう。
思い浮かぶのは、敬意、オープンマインド、傾聴などだ。つまり「人間関係」に重きをおいたコラボレーションのノウハウである。
相手に敬意を払いなさい、理念を共有しなさい、オープンに議論しなさい、よく言われるこれらは確かに重要である。
だが、彼を観察して思ったことは、本質はそこではないということだ。見知らぬ他者とのコラボレーションに最も重要なのは実は「生産性」なのである。
コラボレーションの際にまず「人間関係を良くしてから、コラボレーションしよう」と考えてはいけない。実際は逆で、人間関係が、良い成果を作るのではなく、成果が、良い人間関係を生むのだ。
逆に、うまくいったプロジェクトは、次の要件を備えていた。
・成果と期限が明確に規定されている。「なんとなく一緒にやりましょうよ!」ではだれも動かない。
・お互いに「まず自分が手を動かす」と認識しており、スピード感が同じである。
・最も権威のある人ではなく、「最も手を動かしている人」が、プロジェクトを仕切っている。
・取り分の話よりも「まずはやってみましょう」が先にくる。殆どのプロジェクトは簡単には成果がでないし、取り分の話は時間がかかって、結局だれも手を動かさないからだ。
このあたりがシステマチックに解決されていると、コラボレーションは比較的スムーズに運ぶ。
また、上の要件を見るとわかるが、大企業とスタートアップのコラボレーションはあまりうまくいかない事が多い。スピード感が違う上に、大企業の人は手を自分であまり動かさず、コンプライアンス上、取り分の話を先にしたがるからだ。
手続きを重視する大企業では仕方のないことだとは思うが、コラボレーションをする上では重大な障害であることは、認識しておいても損はないだろう。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
・安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)
・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント
・最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ
・ブログが本になりました。
「仕事ができるやつ」になる最短の道
- 安達 裕哉
- 日本実業出版社
- 価格¥500(2025/06/16 13:54時点)
- 発売日2015/07/30
- 商品ランキング71,888位