こんにちは。Relicの北嶋です。今回は「社内ベンチャーあるある」の1つ、評価の課題について書いてみたいと思います。

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(写真は弊社COOの大丸です) 

例えば皆様のお勤めの会社で、

「社内ベンチャーの責任者の公募」

 があった場合、応募してみたいと思いますでしょうか?

 

一般的にはこの質問への回答は、Noだ、という方が多いと思います。また弊社の活動経験から言うと、特に大企業にお勤めの方ほど、Noという傾向があります。

 せっかくのチャンスなのに、なぜでしょうか?

 

その大きな理由の1つが、

「成功のメリットがそれほど大きくない割には、失敗のデメリットが大きい」ことが挙げられます。

 

このシリーズの中で繰り返しお伝えしていますが、根本的に新しい試みは不確実性が高く、成功確率が非常に低いのが実情です。

 実際、ユニクロの母体であるファーストリテイリングの創業者の柳井氏ですら、「10の施策のうち、9は失敗。成功は1つだけ*1」と述べています。

 

もちろん、新規事業のように大きなチャレンジをすればするほど、失敗の可能性は更に高くなります。

したがって、「社内ベンチャーの責任者」は、キャリアに「失敗」という記録が残る可能性の方が遥かに高いのです。

単に悲観するわけでも、諦めるわけでもないですが、これが現実の厳しさです。

 

もちろん、私自身を含め一般的なスタートアップの経営者たちは、失敗の確率が高いことを承知で仕事をしています。それでも彼らの多くが身を粉にして働くことができるのは、成功したときの見返りが莫大だからです。 

数億、数十億という金銭的な見返りのみならず、社会的な名誉や地位、そして「やりたいことを自由にやって成功した」という満足感や、事業を通して新しい価値や市場を創った達成感。

もちろん、実際は自由に伸び伸びやっているだけで成功するケースは稀ですし、その過程で壮絶な修羅場や苦難を乗り越えている起業家がほとんどですが、いずれにせよ、自分が志を持って立ち上げた事業が成功したという経験は、何事にも代えがたい喜びがあるでしょう。

 

そういったものをすべて、成功した起業家は手にすることができると信じて、仕事をします。

 

翻って「社内ベンチャー」の責任者はどうでしょうか。

成功のためには、彼らもスタートアップの経営者たちと同じように、身を粉にして働かなければなりません。しかし、その見返りは?

 

現実的には、ほとんどの大企業では残念ながら、「見返り」は保証されていません。なぜなら、既存の人事制度の枠に入り切らないからです。

「大抜擢されて出世できるかもしれない」

「ボーナスが大幅に増えるかもしれない」

「大きな裁量が与えられるかもしれない」 

すべては「かも知れない」です。

 

実際、企業は社内ベンチャーが成功したとしても莫大な報奨金を社員に与えることはほとんどありません。

例えば、「ノーベル賞級」の発明だった青色発光ダイオードの発明者である中村修二氏は、日亜化学工業の研究者でしたが、発明の対価として受け取った報奨金は2万円、また、昇進はしましたが年収は2,000万円ほどだったと言われています。

これを不服として中村修二氏は日亜化学工業に対し裁判をおこし、和解金8億円を受け取っていますが、これが正当かどうかは、未だに議論のあるところでしょう。

そもそも、大企業は利害関係者が多すぎるため、一人の人間が莫大な褒賞を受け取ることを良しとしません。

 

1960年から70年代にかけて、産業界を席巻した米コングロマリットのITTの総帥、ハロルド・ジェニーンはこう言っています。

そこで問題はこうなる。—–どうしたら会社組織の中で、自発的な発明の才ある従業員に、企業家としての報酬を与えることができるか?会社と従業員の企業家的熱情を駆き立てるために、どんなことができるか?

実は、それは何も新しい問題ではない。昔からよく挙げられる例に、とびきり優秀なセールスマンの処遇の問題がある。会社全体の利益になる新しい売上を”創造”したスターセールスマンが、どれほど大きな報酬を得ようとも、それにストップをかけるつもりはなく、仮に一人二人のスターセールスマンの収入が社長である自分のそれより多かろうとも、ちっとも気にはしない、とあちこちの会社の社長が断言するのを私は耳にしてきた。

しかし、セールスマンが実際に自分より多くの報酬を得ても前言を翻さなかった最高経営者は、一人か二人しか知らない。他は全て方針を変えてしまった。*2

もちろん、金銭的な報酬だけが重要なわけではありません。中には、金銭などには目もくれず、別の形での報酬を求める方もたくさんいます。

それは、冒頭申し上げたとおり、地位や名誉かもしれませんし、より大きなやりがいのある仕事や裁量・権限かもしれません。

 しかし、上述したように、それですら仮に成功したとしても、必ずしも報われるとは限りません。

 

そしてさらに、新規事業がもし「失敗」した時はどうでしょう。

この場合、多くの場合はその方の評価にとってプラスにはなりません。極端に下がることはなくとも「失敗しても、チャレンジしたことそのものが評価され、評価が上がった」という会社は極めて少数であるのが現実です。

 

また、場合によっては出世コースを外れてしまう、という極めて酷な結果が待ち受けている場合もあります。

「イノベーションのジレンマ」で有名なクレイトン・クリステンセン氏が創設したイノサイト社の共同経営者、スコット・D・アンソニー氏は、次のように述べています。

多くの企業では失敗に対して厳しいペナルティが課され、成功に対する報酬は少ない。(中略)

 結局のところ、イノベーションを起こすようにとリーダーがチームに伝える時に、チームは耳を傾けてはいるが、彼らは実際には、リスクを取って失敗したチームが罰せられる事例を目にした時に、何が大切なのかを学ぶのだ。*3 

こう言うと「いや、うちの会社の新規事業の責任者は、評価を気にせず、見返りも期待せず頑張っているよ」と言う経営者もいます。

ですが、そういった有能な責任者は自分の中に確固たる意志や芯があるので、そのうちに会社を辞めて、自ら起業してしまうことがほとんどです。

 

結局のところ、「失敗してマイナスになったり、自由に挑戦できないならば、いっそ会社を辞めて自分でやればいいや」と思ってしまうのです。

前述したジェニーンは、こうも言っています。

真の企業内企業家は—–従来もそうしたように—–すべての責任とリスクと、そして報酬を一人でとれる自分の事業を始めるために会社を去っていく。

(中略)

企業の中には真の企業家は—長期に渡っては—-存在せず、また存在し得ないのが実相である。企業家は十分な経験を身につけるまで大企業の中にとどまる。

それからキャッシュを手に入れるために出ていってしまう。*2

では、この状況を、企業側はどのようにハンドリングすればよいのでしょう。

 

1つ目は、社内ベンチャーを始めるにあたり、「成功の基準」と「見返り」をきちんと定義しておくことです。

良いか悪いかは別としても、スタートアップの場合はIPOや事業売却といったイグジットがわかりやすい短期的な成功の基準として存在していますが、とかく、社内ベンチャーには「どこまで成功すればよいのか?」というわかりやすい基準が定められていないケースがほとんどです。

これではメンバーのやる気に影響が出ることは避けられません。辛く、苦しい新規事業の立ち上げという困難を乗り切るためには、抽象的な「想い」だけでは続きません。

 

そして2つ目は、「社内ベンチャー」のメンバーを、社内の既存の評価の枠組みから外してその事業、人材に適した評価・報酬を設計をすることが重要です。

積極的に新規事業に取り組み、会社を成長させてきた某大手IT企業などはここが非常に上手く、例えば、実際にはマネジャークラスの給与しか与えていなくても、新規事業の責任者を「子会社の社長」とし、一国一城の主という名誉と権限を与えることで、やる気を喚起すると同時に、起業予備軍的な人材の流出を防いでいます。

 

大きく成果を出した場合には、既存の人事制度では算出できないような高額な報酬を与えたり、大抜擢の人事により役員・執行役員に就任させるといったこともあります。 

場合によっては、子会社の経営陣によるマネジメント・バイアウト(MBO)を認め、親会社のコントロール外に出ることさえも許容して応援します。

 

また、昔ながらの総合商社でも30歳前後の優秀な若手を子会社の社長や役員として出向させ、そこで経験を積ませて鍛えるなど、既存の枠から外して若手人材に裁量を与えることに対して積極的です。

 

上記はほんの一例ですが、起業家精神を持つ人物を企業内で上手くプロデュースするためには、既存の枠組みから少し外れた所で、報酬も裁量も、自分たちである程度決められるような環境を作ってあげることが重要なのです。

 

どの企業にも、その会社の文化や人材に合った、挑戦しやすい仕組み作りが必要だと考えています。大切なのは、それを考え続け、試行錯誤を繰り返すことなのです。

 

 

WEBサイト:株式会社Relic

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