web上で、こんな記事がシェアされていた。

カンファレンスに参加したいという技術者に会社が許可を出さないので、技術者が実際に転職しようとしている、という話だ。

 

カンファレンス参加費(8,000円)を払わないと優秀なエンジニアを失う可能性があるという話

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2016-11-25-07-36-08

転職をしようとしている彼がどのような方なのか全く知らないので、以下は全くの当て推量だが、これを見て「知識労働者」の思考の様式の一端を垣間見た気がした。

一体、彼は会社の何に不満なのだろう。

もちろんたった8000円を惜しんでいるわけではない。彼は自腹でも参加費を出してカンファレンスに行っただろう。そうではなく、おそらく、やりたかったのは、会社を「試す」ことだ。

 

—————

 

有能な知識労働者は、常に会社が自分のことを正当に評価しているか、試そうとする。例えば、以下のようなシーンでは常に会社を試す。

・給与の交渉
・セミナーへの参加許可
・図書の購入
・有給休暇の申請

こういったことを通じて、会社が、どれだけ人に対しての投資を躊躇しないか、ということをよく見ている。もちろんこれは、会社に自分が貢献している、という自負があればこその行動だ。

会社はこれに対して、3通りの反応を示す。

・全員に認める。
・優秀な人物だけに認める。
・全員に認めない。

そして、人事が難しいのは、この選択だ。

 

普通の会社、クラシカルな日本の会社がやりがちなのは、

・全員に認めない

である。カネは払わない、自腹で行け、自己研鑽が基本、というわけだ。

これは平等を重んじ、無駄なコストをかけることを嫌う会社の価値観にもよるが、旧来の装置産業、労働集約的な産業では人に投資をするよりも、機械や設備に投資をしたほうがリターンが大きい、という判断があるからだ。

 

だが、すこしお金に余裕のある会社は、

・全員に認める。

を採択する。

これも悪くない。だがこの制度は「優秀な人」ほど、不満を持ちやすい。なぜなら、「差」がないからだ。

人と人の差がつかない人事制度は、本質的には全く機能しない。パフォーマンスの高い人が求めるのは、報酬の金額そのものではなく、「アイツより待遇が良いか悪いか」という差だからだ。

実際、人事制度が演出すべきは、「格差」だ。

 

したがって、表立って言う人は少ないが、有能な人物の思考の様式は多くの場合、真ん中の

・優秀な人物だけに認める

である。

そしてこれこそ、知識集約的な産業において、競争力のある会社が目指している姿だ。

 

例えば、Googleは「不公平であること」を良しとする。*1

大半の企業は見当違いの「公平」を目指し、最もパフォーマンスの高い社員や、最も可能性のある社員がやめたくなるような報酬制度を設計している。
「報酬は不公平に」という原則はもっとも重要だが、これまでの慣習を否定しなければならず、最初は戸惑いを感じるかもしれない。

(中略)

公平な報酬とは、報酬がその人の貢献と釣り合っているということだ。グーグルのアラン・ユースタス上級副社長に言わせれば、一流のエンジニアは平均的なエンジニアの300倍の価値がある。

ビル・ゲイツは更に過激で、「優秀な旋盤工の賃金は平均的な旋盤工の数倍だが、優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」と言っている。

知識集約的な産業、会社においては、報酬体系は、極めて不公平に設計されていてしかるべきだ、と有能な人は考えている。

 

ここを履き違えている会社に、極めて有能な知識労働者がとどまることはない。

本質的に、知識集約産業において人の出す成果は「正規分布」ではなく、完全な「べき分布」となるからだ。つまり、上位数%が出すパフォーマンスが極端に高い分布となる。

だから、知識労働者は「悪平等」をには徹底的に抵抗しようとする。だから、事あるごとに会社を試す。

先に紹介したGoogleに於いても同じだ。

「生産力の10%を最上位の従業員がにない、生産力の26%を上位5%が担う。」言い換えれば、上位1%の従業員の生産量は平均の10倍、上位5%の従業員は平均の4倍にのぼる。

(中略)

最も優秀な社員一人を何人となら交換してもいいか。5人以上なら、最も優秀な社員の報酬が少なすぎるだろう。10人以上なら、ほぼ間違いなく報酬が少なすぎる。

グーグルでは、同じ業務を担当する2人の社員が会社にもたらす影響に100倍の差があれば、報酬も100倍になる場合が実際にある。

もちろん、テクノロジーがあまり意味をなさず、ひとりひとりの差がつきにくい、労働集約的な仕事においてはこの限りではない。しかし、逆にこれくらいの差がついても「当然」なのが、知識労働者の世界なのである。

 

無能を100人集めても、1人の有能な人間には全くかなわない、ということが普通に存在する世界で、人事、報酬制度はどうあるべきか。

この世界では好むと、好まざるとにかかわらず、ハイパフォーマーを惹きつけなければ企業が競争力を保てない。

 

もちろん、それが人類全体に幸福をもたらすのかは別の話だが、これから我々が直面するのは、そういう時代だ。

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

【著者プロフィール】

安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)

・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント

・すべての最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ

・ブログが本になりました。

「仕事ができるやつ」になる最短の道

「仕事ができるやつ」になる最短の道

  • 安達 裕哉
  • 日本実業出版社
  • 価格¥1,540(2025/06/04 13:47時点)
  • 発売日2015/07/30
  • 商品ランキング110,823位

Cris

 

*1

ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える

ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える

  • ラズロ・ボック,鬼澤 忍,矢羽野 薫
  • 東洋経済新報社
  • 価格¥2,750(2025/06/04 16:57時点)
  • 発売日2015/07/31
  • 商品ランキング15,888位