こんにちは。Relicの北嶋です。前回までは「失敗」に焦点を当てていましたので、今回は「どんな新規事業がうまく行ったか?」について、紹介したいと思います。
(写真は弊社CTOの大庭です)
一つの事例として、最近ご相談が多いのは「SIer」いわゆるシステム開発会社です。
業界を取り巻く状況としては、クラウドやWEBサービスの台頭で大型システム案件が先細り、かつシステム開発者の派遣ビジネスなど、労働集約的な業務が増えているなど、将来性から見るとあまり芳しくありません。
そのような状況ですから「なんとか労働集約的な会社から脱却したい」と、活路を「新規事業」に見出す会社も少なくありません。
このような会社の場合、技術者派遣で手堅く儲け、余剰資金で「パッケージ化/ASP化」でスケーラビリティのある事業を目指すのが王道のアプローチであり、比較的リスクも少ないのではないかと思います。
我々がご相談を頂いたのも、そんな会社の一社でした。売上の6割以上を技術者派遣に頼っており
「社内の独自技術があるけれども、事業化に困っている」
という状況でした。
話を伺うと、たしかに面白い技術を持っていました。簡単に言えば
「Googleのような、AIやアルゴリズムを活用した独自の情報探索技術」
を持っていたのです。
グローバルなインターネットの一般顧客向けの市場ではGoogleが圧倒的な覇者として君臨しています。
ですが、彼らが有しているのは主に国内の法人向けに特定の「社内システム」や「個別サイト」内における情報探索や検索を効率化する技術でした。
この市場が堅調に伸びていたことに加え、Googleなどの競合は法人向けのソリューションに関してはそれほど注力しておらず、目立った巨大な競合や既にシェアを独占しているような会社が存在しなかったため我々は
「十分に立ち上がる可能性はある」と考えました。
ただ、これまでは一社一社の状況に合わせて個別の要望に応じてカスタマイズして導入していたので、パッケージ化/ASP化における「事業性」については未知数です。
そこで我々は、最も大事な質問である「どういう会社がこれを必要としているのか?」を調べることにしました。言うなれば、ターゲットを明確にしよう、というわけです。
ただし、「必要」という言葉だけではやや曖昧です。
もう少し明確にするために、
1.個別のサイト内や特定のシステム内における情報探索や検索の精度/効率を向上することで、その提供先の企業に対してどのような価値提供ができるか?
2.それによって解決できる顧客側の課題やニーズは何か?
という観点で、下記のようにいくつかの分類で検討を進めました。
例えば、情報探索や検索を改善することで、
・売上が向上する可能性のある業種/業態や、システム/サイトとは?
・コストを下げることが可能な業種/業態や、システム/サイトとは?
・満足度を向上する可能性のある業種/業態や、システム/サイトとは?
の3つのアプローチで「どういう会社がこれを必要としているのか?」を検討しました。
機密保持の観点からリライト/簡略化していますが、それが以下の表です。
この中で、我々は一番上のECサイト(ネット通販サイト)を運営する事業者に着目しました。
想定した3つのニーズに対する価値提供の中で、企業が最も投資し易いのは、「売上の向上」ではないかという仮説があったからです。
特に商品数が非常の多い大規模なECサイトを運営する事業者であれば、ユーザーが欲しい商品を効率的に見つけるための情報探索や検索の精度が重要に違いない、と考えました。
ですが、ここまではあくまでも机上での初期仮説です。
最も大事なのは「ニーズが実際にあるかどうかの検証」を、インターネット上で簡単に入手できる二次情報の収集などで済ませるのではなく、実際にテストマーケティングを行い、想定顧客の一次情報を確認しながら検証することです。
もちろんその際は、ニーズの検証やテストマーケティング・調査は、外部の調査会社などに丸投げせず、自分たちで実際に現場を回って顧客の生の声を聞きながら進めることも非常に重要なポイントです。
とかくラフになりがちですが、特にwebサービスの立ち上げなどではこの「事業性の検証/テストマーケティング」のフェーズが、新規事業における不確実性をマネジメントするために最も重要だと考えています。
確かに「社内の決済や承認をとるためのデータ収集目的」ならば二次情報や外部に委託したライトなアンケート調査も有効です。
しかし実際に新規事業を立ち上げる際「本当に顧客のニーズがあり、事業としての可能性があるのか」は、アンケートだけで判断するのは危険と言わざるを得ません。
実際、販売開始前のアンケート結果は非常に良かったのに、実際に販売を開始してみると全く売れなかった、という失敗例は数多くあります。
アンケートそのものを否定するわけではないですが、ことのほか、現場の担当者との何気ない会話の中などにも、事業化に向けてのヒントが落ちているものなのです。
さて、そこで我々は早速、仮説を検証するために、ECサイトの大手事業者、数十社に実際に連絡を取り、ニーズをヒアリングするためのテストセールスを実施することにしました。
また、並行して優先順位としては劣ると捉えていたコスト削減や顧客満足度向上といった方向性で可能性がありそうな業種/業態へのテストセールスも合わせて行いました。
さて、こうしてテストセールスを実施した結果、大手EC事業者のうち、なんと、4分の1の会社が「ニーズあり」、半分の会社が「価格に難があるが、検討はしたい」との回答があり非常にポジティブな結果となりました。
一方、その他の業種/業態へのテストセールス結果は振るわず、元々立てていた仮説をしっかりと検証した結果、後者への深掘りは一旦中止し、大手EC事業者へのアプローチに集中することにしました。
これだけでもなかなかの収穫ですが、すぐに大きな事業になるか、と言われるといささか疑問です。
しかもこの領域におけるシステムや導入ソリューションの変更は企業内においてそう頻繁に行われるものでもなく、スイッチングコストが高い領域で、さらに実装にも手間がかかります。
では、このヒアリングは無駄だったのか、と言うと、実は全く別の発見がありました。このソリューションに使われているライブラリの1つが、4分の3のEC事業者にとって「魅力的」だと言われたのです。
我々は「あくまでもソリューションの中のライブラリの1つ」という認識でしたが、想定する顧客にとっては「これこそ、欲しかったものだ」というくらい、魅力的に映ったようです。
そこで我々は方針を切り替え、ソリューション全体だけでなく、「ライブラリ単体」を切り出し、それのみで販売してみようと考えました。
つまり、ライブラリをドアノック商材として利用し、一度取引の実績を作っておき、システムの変更やリプレイス/リニューアルのタイミングで、ソリューション全体を売り込む事ができるのです。
ライブラリ単体を販売すると決めてから、既にかなりの数の導入が決まり、非常に良い立ち上がりで推移・成長しています。
月並かもしれませんが、初期の活動として重要なのはなんといっても「事業性の検証/テストマーケティングを徹底的にやること」に尽きます。
そして、頭ではわかっていても、これを高いレベルで徹底して実行できている企業は稀有です。実際にプロダクトや価格を仮決めし、顧客を回ってこそ、真のニーズ検証ができるのです。
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