最近「法人営業」の方々と、お話する機会が数多くあった。
その時、1つ面白い話がでた。
「アポ取って、結構大きい会社に営業に行ったんですけど。」
「行ったけど?」
「相手側が、7人も出てきたんですよ。さすが大手。人が多い。でも、そんなに人要らないよね。」
「どんな人達だったのですか?」
「責任者が1名、サブリーダーっぽい人が1名、他部署の人が2名くらい。あとはよくわからない。「専任〜」とか「顧問〜」とか名刺に書いてあった。」
「アドバイザーっぽい感じ?」
「その人たちはずっと黙っていたので、なんとも言えないですけど。」
「ずっと?」
「そう、1時間半くらいずっと。一人はウデ組んで目をつぶってた。寝てたみたい。来なくていいじゃん、絶対お前仕事してないだろうって思うw」
こういった営業シーンは私も覚えがある。
お客さんに呼ばれていくと、ずらりと先方が出てきて、喋りもせずその場にいる、という状況だ。
「大手は人が余ってるんじゃないか、っていう感じするよね。」
と、彼は言う。
「後で、「オレは聞いてない」って言われないようにするためなんですかね。どっちにしろ寝てりゃダメだろってw」
————————–
会議に人がたくさん出てくることは、欧米にとって「驚くべきこと」であった。
例えばピーター・ドラッカーはそのシーンについて、こう述べている。
アメリカでは、ライセンス契約の日本側の交渉相手が数ヶ月ごとにチームを送り込み、交渉のごときものを初めからやり直す理由を理解できない。
1つのチームが克明にノートしていく。ひと月半後には、同じ会社の別のセクションが、初めて話を聞くという態度で克明にノートしていく。
信じられないであろうが、これこそ日本側が真剣に検討している証拠である。*1
面白いことに、人がぞろぞろやってくるのは「日本人が真剣に検討している証拠」だと言われている。
ドラッカーの考え過ぎでは、と思う部分もあるのだが、彼は次のように解釈している。
日本では、契約の必要を検討する段階で、契約締結後に関わりを持つことになる人たちを巻き込んでおく。
関係者全員が意思決定の必要を認めたとき、初めて決定が行われる。このとき、ようやく交渉が始まる。その後の日本側の行動は迅速である。
かつて、日本は集団で考えていた。「決定」をする前に、できるだけ多くの関係者を巻き込むことで
・問題の共有
・反対意見の抽出
・代替案の整理
・決定権の所在の明確化
・決定後の行動の迅速化
を行えることは、日本企業の大きな強みであった。
おそらく「ものづくり」には、この意思決定の方式が圧倒的に機能していたのだろう。製造業には大勢の人が必要だったからだ。
だが、今ではどうだろう。多くの人を巻き込むことで逆に
・決定の遅延
・見解が多すぎることによる混乱
・付和雷同
などのデメリットが目立ってきている。
ピーター・ドラッカーが見た日本の意思決定のメリットは、すでに現代の企業を牽引する「一部の圧倒的なパフォーマンスを見せる人物」にとってはデメリットが大きい。
現在の産業の主役である、知識集約産業においては、一部のハイパフォーマーが圧倒的な成果を稼ぎ出す。
グーグルのアラン・ユースタス上級副社長に言わせれば、一流のエンジニアは平均的なエンジニアの300倍の価値がある。
ビル・ゲイツは更に過激で、「優秀な旋盤工の賃金は平均的な旋盤工の数倍だが、優秀なソフトウェア・プログラマーは平均的なプログラマーの1万倍の価値がある」と言っている。*2
知識集約的産業において「集団」がハイパフォーマーの足を引っ張る、ということは、企業にとって致命的である。
そう考えれば、日本の不調の原因は「会議に人がぞろぞろ来る」という事実に垣間見える。「出る杭を伸ばす」ことが日本企業は苦手なのだ。
我々は「古き良き日本の意思決定の方法」について、見直しが求められている。
(2024/4/21更新)
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