泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴「政治とカネ」は古来から取り沙汰されてきた問題だが、現在でもなお、政治にはカネがかかる。最近では猪瀬元知事が5000万円を受け取ったとされる事件が、記憶に新しい。

小説や漫画、ドラマでもよく描かれる「悪代官が、越後屋から金を受け取るシーン」も、かつてはそれほど珍しいことではなかったのかもしれない。

 

にもかかわらず、そういった「政治」や「裏金」についての情報は、普通に暮らしている限りはほとんど手にすることはない。せいぜい、海外展開をする企業が、その国の事務手続きを早めるために袖の下を渡す、と言ったことを聞く程度だ。

 

そういった普段ではほとんど耳にすることはない、「政治」や「裏金」についての話を克明に描き出した本がある。文藝春秋から出ている「泥のカネ」という本だ。

著者は森功氏。ノンフィクションライターとして活躍しており、「裏金」や「汚職」に絡む本を数多く出している。

 

私も最初、この手の本に書いてあることはどこまで信用してよいかわからないため、敬遠しがちだったのだが、事情に明るい方から「本の内容は8割位は正しい」という話を聞き、読んでみた次第である。

 

 

主人公は水谷建設の社長である水谷功氏。wikipediaによれば、水谷建設は様々な事件を起こしており、その中心にいたのが水谷功氏だ。

 

”水谷建設は、NGOのレインボーブリッヂに中古重機の寄付をし、それが北朝鮮に輸送されたことが判明している。北朝鮮の砂利利権獲得が目的で、裏金が北朝鮮に渡った可能性がある。また、帳簿上の不正操作により所得隠しを行った。福島県内の土地売却についても脱税の容疑を受けている。

(中略)関西国際空港と中部国際空港の建設工事の下請け受注の為、暴力団幹部、国会議員秘書などに裏金として支出していたことが判明。現段階では水谷建設側は否定。裏金は総額約15億円に上る。

東京地裁は、総額約11億4000万円に上る重機械土木大手「水谷建設」(三重県桑名市)の脱税事件で、法人税法違反罪に問われた同社の元会長水谷功に懲役2年(求刑懲役3年)、元役員に懲役1年6月、執行猶予3年(同懲役1年6月)の判決を言い渡した。法人としての水谷建設は罰金2億4000万円(同罰金2億6000万円)”

 

 

しかし、こういった表に出てくる情報よりも本に書かれているリアルな裏金作りなどの話が面白い。一例として、当時の「ブルドーザー」を使った裏金作りの話がある。

 

ブルドーザーの価格は一台あたり3000万円から5000万円ほど。耐用年数は5年である。5年立つと償却が終わり、帳簿上の価値はなくなってしまうのだが、日本の重機は性能がよく、5年程度では壊れたりしない。

そこで、帳簿上は存在しないその重機を海外へ持って行き、中古市場で売却する。すると、それなりに高値がつき、存在しないはずのお金が出現する。海外で現金が手元に残るのである。

 

ただ、そのカネは現金で海外にあるのだが、日本に持ち込まなくてはいけない。そこで海外のリゾートホテル、カジノ付きのホテルなどの一室を期間で貸し切り、そこに現金を保管しておく。

そして、その部屋に何人もの「運び屋」を送り込む。入れ替わり立ち代りその部屋にあった「現金」をそのまま身につけて日本に持ち帰るのである。税関はすべての人のボディーチェックをするわけではないから、その現金は日本で補足されない自由に使える「裏金」となって政治家に渡る、という具合である。

人によっては1億円以上を何回かにわたって日本に運び込んだというから、それなりの期間、このような行為は続いたのだろう。

 

 

よく考えたものである。「クリエイティブな犯罪」と言うのはおかしいのかもしれないが、かつて日本を大きく動かした「政治」と「建設業」の過去をよく知るには良い本だと思う。