職場を観察すると、「成果を出してはいるが、上司からは嫌われている人」をしばしば見かける。

 

彼らは「上司のお気に入りの人たち」と対立し、

時に、

「うまく上に取り入っている」

「上司にへつらっている」

「仕事ができないくせに」

と、負け惜しみを言うこともある。

 

しかし、これは彼らにも非がある。

成果を出しても嫌われるのは、「上司をマーケティングできていない」という現実に対処していないからである。

 

いかなる組織であっても、上司をマーケティングできていない人物は、いずれ組織の支援を受けることができなくなり、排除されていく。

「上司や会社が悪い」といくら言っても、残念ながらそれは負け犬の遠吠えである。

自分を曲げたくないなら、迷わずフリーランスを選ぶか、起業を選べばよいのだ。そうすれば自分の好き勝手にできるし、人を雇った暁には、上司の気持ちもわかるだろう。

 

しかし、組織人たるサラリーマンは、組織に適応せねばならない。

少なくとも私が見る限りでは、経営陣の一員となる人物、大成する人物、社内で一目置かれる人物は、いずれの人物もこの2つを完璧にこなしていた。

 

「成果を出す」「上司をマーケティングする」この2つの両立は、組織で働く人の常識と言っても良い。

 

上司をマーケティングするための5つのこと

では、一体上司に好かれる人と、嫌われる人の本質的なちがいは何処にあるのだろうか。

「上司をマーケティングする」とは、具体的にどういうことなのか。

私の観察では、それは5つに集約される。

 

1.個人の利益よりも、組織の利益を優先する。

上司は「組織の成果」に対する責任を負っているので、組織に対して貢献する人物を優遇する。

逆に「自分の分け前を最優先に考える人物」は、嫌われる。

 

その理由は2つある。

一つは「成果は個人ではなく、会社のものである」という意識。

大きな売上をつくるスーパースター営業ですら、「一人でそれができたか」と言えば、それは疑わしいと彼らは考えている。

彼を支える様々な人と、運の要素、それらがあって初めて成果が出るのだから、一人に成果を帰属させるのは間違っている、という考え方だ。

 

二つ目は「大きな分け前を特定の個人に与えることは、組織運営を難しくする」という意識。

「大きな分前」が、社内の嫉妬を買うことを、上司は怖れており、実際に嫉妬は発生する。

 

こう言う話をすると「特別な才能を評価できない日本はダメだ」という人が必ず出てくる。

しかし、想像すると良い。

あなたの隣の新人が、参加したプロジェクトで大きな成果をあげ、正当な評価とは言え、数千万円、数億円の報奨金をもらったとしたら。

大抵の人は嫉妬に狂うだろう。皆、聖人君子ではない。嫉妬深く、傷つきやすい生き物だ。

上司はそれを知っている。

 

2.経営者の理念、上司の価値観を冷笑してはならない

宗教組織に代表されるように、理念によって統一された組織は非常に強固である。

そして、上司は常に組織をまとめようとしている。

したがって、理念を否定する人物は敵である。

 

つい先日、Googleで「女性は生まれつきエンジニアに向かない」と発言したエンジニアが解雇されたが、彼はGoogleの経営者から「敵である」と認定されたのである。

「女はエンジニアに不向き」と主張したグーグル社員、「一線を越えた」と解雇か

特定の性別や人種に偏る従業員の構成を改め、多様性に富んだ職場の形成に取り組むとしているGoogleだが、社内ネットワークに「テック業界に女性が少ないのは、偏見や差別によるものではなく、男女の生物学的な違いが原因」と主張する文書が投稿されて騒ぎになった。

そして、Bloombergの報道によると、この文書を書いたとされる人物、James Damore氏は解雇されたという。

 

だが、「否定」ならば、まだ良い。

議論の余地があるからだ。古くなった理念、賛同できない理念に関して議論をすることは決して悪いことではない。

だが「冷笑」はまずい。

冷笑には議論の余地がないばかりか、相手を深く傷つける。

 

私が以前訪れた会社の一つで、取締役が会社の理念を茶化した事があった。

社長は激昂し、その取締役に言った。

「上に立つ人物が、理念を皮肉るとは何事だ。これほど重大な組織に対する裏切りはない。」

その取締役は左遷された。

 

否定よりも、冷笑は重大な罪である。

成果を出していても、皮肉屋は決して好かれることはない。

 

3.正論ばかりでは疎まれる

上司に「完璧な人間性」を求める人がいる。上司に潔癖でいてほしい、上司のゲスな部分を見たくない、そう願う人は多い。

しかしそれは叶わぬ夢だ。

人間である以上、少々ゲスな部分があるのは当然である。

もちろん潔癖な指導者を持つことは素晴らしい。しかし歴史上残念ながら、この潔癖さというものが、王、貴族、僧侶、将軍などの指導者、あるいはルネサンス期の画家や人文学者、中国の文人などのインテリの間に、一般的な資質として広まったことは一度もない。

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したがって、上司のゲスな部分をあげつらい、鬼の首を取ったように騒ぐ人間は、疎まれる。

 

あるいは、それは完璧な正論かもしれない。

だが、正論だけでは上司とうまくやっていくことは難しい。

 

4.「上司が与えられるものを欲しがらない人」は、扱いづらい

会社や上司が与えるものを望まない人物は、上司にとって扱いづらい。

たとえば「金」「地位」「面白い仕事」の全てを望まない人物は会社で扱いづらい人物のカテゴリに入ることが多い。

 

「言われたことはやります。お金にはこだわりません。」

「特に出世したくはないです。」

「仕事に多くを望みません。」

そう言った言葉を発する人物は、いかに仕事を忠実にこなしたとしても、「仕事ができる」上司からすれば、悪ければ「嫌な奴」、せいぜい良くて「便利な奴」と認識されがちである。

 

上司はこのような人物を発見した時、このような表現を使う。

「仕事はやるんだが、欲がなくてね……。」

それは、褒め言葉ではない。

オブラートに包まれてはいるが「あいつとは合わない」と言っているのである。

 

5.上司の弱点は決して直らないので、それをカバーするように動く。

「うちの上司は、◯◯さえ直してくれれば、もっとこの部署は良くなるのに」

という愚痴をサラリーマンからよく聞く。

 

例えば、細かい数字のチェックが全くできない上司がいる。

資料作りが絶望的に下手くそな上司がいる。

セミナーでうまく喋ることができない上司がいる。

人の感情がわからない上司がいる。

 

そんな時、部下は上司の弱点に目が行きがちである。

 

だが残念ながら、ほとんどの場合、上司の弱点は直らない。

何かに長所を持つ人は、短所を同時に持つ。だから、上司の短所を直そうとしても、逆に疎まれるのがオチである。

 

上司をマーケティングするとは、結局のところ「上司の短所をいかにカバーして、協力して成果をあげるか」に尽きる。

 

 

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