知人が最近、転職をした。

新しい職場は若干家から遠いが、気持ちの良い人が多く、仕事も面白いということで、本人にとってはとても良い転職だったようだ。

 

さて、その知人が、職場で2つ、小さなことに気づいたと、話してくれた。

 

ひとつ目は、昼食をとる場所について。

知人は昼食をあまりお店で食べない。

お弁当を持っていくか、近くのお弁当屋さんかコンビニエンスストアで買って、オフィスで食べることが多いという。

 

ただ、その知人はせっかくの昼休みなのに、デスクで昼食をとるのは気分転換にならないと思い、空いている会議室を昼食の場所に使ったそうだ。

会議室は広くて清潔で、もちろん「昼食に使ってはいけない」というルールはない。

早速、知人は会議室を昼食に使うようになった。

 

ところが面白いことに、昼食に会議室を使っている人は、他には誰もいなかったそうだ。

気になった知人が、

「なんで使わないのですか?ひょっとして禁止なのですか?」

と他の人に聞くと、

「ランチに使っていいと、聞いたことなかったから。」

と答えたという。

 

その後、知人の影響で会議室は人気の昼食スポットになったという。

 

 

ふたつ目は、職場の掃除について。

その職場は、事務職の方々が、毎朝デスクの上を拭いて回る、というややクラシカルなルーティンワークがあるそうだ。

知人も事務職なので、机を拭いて回ることになった。

 

ところが、毎日机を拭いているうちに、知人は一つのことに気がついた。

「この仕事はひょっとして無駄なのではないか」と。

というのも、拭かなければならないほど、机が汚れていないのだ。

 

そこで、「拭き掃除は、机でなくてはいけないのか」と、知人は責任者に聞いた。

回答は

「とくに机じゃないとダメ、というルールはない。」

と答えた。

知人は、

「それなら、本棚を拭かせてもらいます」と答え、その日は机ではなく汚れが酷かった本棚を拭いた。

 

以後、知人は机ではなく、棚や窓ぎわなど、汚れの酷い場所を優先して拭いている。

 

 

この世は「ルールに書かれてないから、やらないほうがいい」と考える人が多数を占めている。

その一方で、この世には、「ルールに書かれてないなら、やっていい」という人もいる。

 

そして「ルールに書かれていないなら、やっていい」という人が、新しい世界を作り出すことがしばしばある。

 

上で紹介した知人はささやかな変化を職場にもたらしただけだが、中には大きな変革を起こす人々もいる。

彼らは起業家やイノベーターと呼ばれる。

 

例えばAirbnbを筆頭とする「民泊」である。

「自分の家の空いている部屋を、貸しちゃいけない、ってルールはないよな。」

という人々が、始めたものだ。

2008年に設立された同社は、またたくまに巨大になり、時価総額は3兆円を突破した。

 

ビットコインなどの仮想通貨や、Uberなどのライドシェアサービスについても同様に、それが始められたときは、「ルールがない」状態であった。

だが、世界はより便利に、より使いやすくなった。

 

ところが、起業家、イノベーターたちが「ルールにないから、やってもいい」という考え方を元に事業を進めていくと、

「ルールに書かれてないから、やらないほうがいい」

という勢力の方から、様々な理由で

「ルールを作れ」

「違法なのでは」

という、茶々が入る。

 

この価値観の違いは大きい。

それは、相手の「既得権」を脅かしたからというときもあるし、それらのサービスによって「被害者」が出ているからと言うときもある。

だが単に「新しいものが嫌い」という感情的な反発に過ぎないことも多い。

 

何れにせよ、「ルールに書かれていないことをやる人たち」が気に食わない人々は、腐るほどいる。

 

例えば、今年Airbnbには茶々が入った。

後出しジャンケンで、Airbnbの物件は「非合法化」され、届け出がされていない物件は、Airbnbから強制的に削除されることになった。

その影響で、Airbnbの登録数は2018年の6月に激減したことは余り知られていない。

東京の物件も、1万6千件超あったものが、たったの2000件程度まで減ってしまった。

参考:全国Airbnb登録件数、1日で4万件(▲76%)減少

 

日本でUberが使えないのは、「ドライバーが利益を得る目的でライド・シェアをすること」が違法だと国交省がみなしているからだ。

おかげで日本人は、Uberを満足に使えず、不便なタクシーアプリを強制的に使わされている。

タクシー運転手を保護するのは良いが、わざわざ利便性の劣るサービスを高いお金を出して使わされるのは納得がいかない。

 

 

一方で、現在の伸びが著しい、中国、インドなどでは、「法規制が存在しない」ことで、数々の新しいサービスが生み出されている。

 

例えば、シェアリングエコノミーのみならず、法規制の強い決済や医療の分野においてすでに革新的なサービスが多くの人に使われている。

参考:インドの医師向け遠隔医療プラットフォーム「healthenablr」が、80万米ドルを資金調達

 

今まで途上国だった国々が、一足とびに先進国を上回る技術導入をすることを、「リープフロッグ」という。

法規制が未整備な国では特に、「リープフロッグ」が起きやすい。

 

私は決して日本の将来を悲観しているわけではないし、新しい技術を手放しで礼賛する気もない。

だが、既得権益を守るために、国が消費者に不便を押し付けたり、起業家やイノベーターを邪魔するような真似だけは、本当に辞めてほしいと思う。

それは、「住みにくい社会」だ。

 

本質的に、法律は、成立してから長い年月を経ると、一部の権益を持つ人々のためだけに資するようになってくる。

時代に合わないことは明白なのだが、それでもしがみつく人々は多い。

 

だが、それは公平性を欠くというものだ。

法律は社会をより豊かにするため、新陳代謝を促し「新しいことをやろうとしている人々」にも資するものでなくてはならない。

 

冒頭の知人が、「会議室」という、遊休リソースを、社員全員に開放したように。

 

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