先日、希望退職に応じなかった東芝の社員が「単純作業」を割り当てられ、それに対して「追い出し部屋である」との反発があるとの報道があった。
東芝が100%出資する主要子会社にこの春、新しい部署ができた。
そこには希望退職に応じなかった社員らが集められ、社内外の多忙な工場や物流倉庫で単純作業を命じられている。
東芝は「適切な再配置先が決まるまでの一時的措置」だと説明するが、社員からは「退職を促す追い出し部屋だ」との反発が出ている。
(朝日新聞)
もちろん、嫌がらせの可能性もある。
だが実際に、彼らができる「事務仕事」は、もはや社内にはないのかもしれない。
多くの事務などの定形業務は、機械化されるか、アウトソースされるかのどちらかだからだ。
結果的に、企業内で残る業務は「肉体労働」しかない。
だが、ホワイトカラーとして何十年も仕事をしてきた人からすれば、
「クリエイティブな仕事ができない人は、肉体労働をやってください」
と言われるのは、残酷なメッセージだ。
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クリエイティブな仕事は、「非定型業務」と呼ばれる。
「経営戦略の構築や事業計画の策定、新製品の企画・開発、対外的な交渉など個人の思考力、判断力、経験が要求される仕事」
(大前研一 https://www.news-postseven.com/archives/20170321_501519.html)
この種類の仕事は「依頼」はできるが、「作業指示」を出すことができない。
「こうやればできますよ」という、明確な正解もない。(こうすればできますよ、という仕事は定型業務だ)
望ましい結果を示して、その実現のためにやってもらうだけである。
したがって、成果は純粋に「問題を解決できたかどうか」という、「質」で判断される。
「◯◯時間仕事しました」
「とても努力しました」
と言った言葉に意味はなく、「結果が得られたかどうか」だけが、報酬が支払われる条件となる。
一方、定型業務は「作業手順にパターンが有り、マニュアル化・外注化が可能な仕事」である。
成果は「量」や「時間」で測定が可能だ。したがって、残業や定時という概念がある。
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現在、企業の中ではクリエイティブな仕事(=「非定型業務」)の価値が圧倒的に高まっており、「非定型業務」をこなせる人と、こなせない人では待遇にかなりの差が出てきている。
定型業務だけやれても、もはや普通の給与すら望めない状態だ。
「そんなの、一部の特殊な才能に恵まれた人にしかできない仕事では?」という方もいる。
だが、実際の現場をつぶさに見ると、殆どの仕事が「定型業務」と「非定型業務」のハイブリッドとなりつつある。
例えば、肉体労働が存在する職種、「看護師」「ホテルのサービス員」「調理師」……。これらの仕事は「定型業務」も多いが、実際には、ある程度高度な判断が求められる「非定型業務」も求められるようになってきている。
むしろ現在では一介の土木作業員、工場労働者ですら、完全に「定型業務」だけではない。
もちろん、ホワイトカラーも同様だ。
「営業」「マーケティング」「経理」「品質管理」「フルフィルメント」などもすべて、「定型業務」と「非定型業務」の混合である。
完全な「定型業務」に従事している人など、ほとんどいない。
「クリエイティブであること」は、実はあらゆる職業に求められる、基礎能力となりつつある。
だが、「全員がクリエイティブな仕事をする」なんてことが可能なのだろうか?
*
かなり前のことだ。
私は十数名の営業に、同じ指示を与えたことがある。
「1ヶ月後までに、新しく割り当てられたすべての顧客企業の、意思決定者と、起案者を突き止めること。」
これは、今後の売上数値を予測する上で非常に重要なことなので、「重要な仕事である」と何度も念押しをして、依頼した。
1ヶ月後。
成果は、3つのグループに大きく別れた。
「すべて突き止めた」というグループ
「約半数を突き止めた」というグループ
「ほとんど突き止められなかった」というグループ
なぜこのように差が出たのだろう。
「ほとんど突き止められなかった」というグループは、ほとんどの人間がこのように言った。
「やり方が分からなかった」と。
「時間は1ヶ月もあったのに、やりかたを人に聞くなどしなかったのですか」と聞くと、多くの人が「聞いてみたけど、よくわからなかった」という。
「約半数を突き止めた」というグループは、ほとんどの人間が、このように言った。
「一通りまわってみて、半分くらいは突き止めることができた。けど、どうしても聞けないところがあった。」と。
「なぜ聞けないところがあったのですか。」と聞くと、殆どが「断られた」「聞いても教えてくれなかった」という。
そして「すべてを突き止めた」というグループ。
彼らの言うことは、「とりあえず回ってみて」という最初の一言以外は、ほとんどバラバラだった。
「一通り回ってみて、簡単に突き止められるところは半分くらいだった。あとの半分は、個別にやり方を考える必要があった。たとえば役員を通じてアプローチした。」
「購買のツテをたどった。」
「これまでの問い合わせ履歴を確認したりした。」
「古い記録を見て、異動した人につないでもらった」
など。
「ほとんど突き止められなかったグループ」の特徴
さて、「ほとんど突き止められなかったグループ」は、何が問題なのか。
彼らは「動かない」グループだ。
やり方が分かるまでは動けず、何もしない人たちで、詳細な「マニュアル」を提示したとしても、なかなか仕事をしない。
「人に聞け」と言っても、聞くためには「自分が動いてみた」という経験が必要なので、聞くことすらできない。
「約半数を突き止めたグループ」の特徴
「約半数を突き止めたグループ」は、まずは一通り行動してみることができるグループだ。
まず言われたら試し、その中で失敗したら、経験者にある程度やり方を聞き、そのやり方に従って、仕事を遂行できる。
だが、そのやり方では通用しない状況が出てきたとき、彼らは止まってしまう。
「成果を出すまで、手を変え品を変え、試し続ける」という考え方が、彼らにはない。
このやり方で駄目だったら、まあ、仕方ない。
というように考える人達だ。
「すべてを突き止めたグループ」の特徴
彼らこそ、「非定型業務」をこなせるグループだ。
彼らは「クリエイティブな仕事」をしている。
従来のやり方を試し、それが通用しない状況においても、「別のやり方」を模索し、試し、検証を繰り返す中で新しいやり方を作り上げていく。
「仕事をやること」が重要なのではなく、「結果を出すこと」が重要だと理解しており、トライ&エラーの世界を実践している人たちである。
だが、実はこれらの仕事は「高いIQ」とか「希少なスキル」、あるいは「特殊な才能」を必要とするようなものではない。
そうではなく
「試す力」
「結果にこだわる力」
「改善する力」
といった、非常に抽象的な、ある意味では愚直な、習慣に関わる能力である。
今は「全員が」クリエイティブであることを求められる時代だ。
だが、それは全員が才能あふれる企画屋やアーティストとなれ、という世界ではない。
全員がトライ&エラーの素養を身に着けなさい、という世界だ。
全員がクリエイティブな仕事をすることが可能か。
時間はかかるかもしれないが、私の予測は「おそらく可能」である。
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