「やる気」が湧かない
学生のとき、何もかも面倒になるときが、しばしばあった。
勉強を始めれば眠たくなる。
外にいきたいのに、腰が重く、結局家で過ごしてしまう。
新しいことを始めようと決意したのに、手つかずのまま。
そんなことが続くと、すべてが後手にまわってしまい、本当に大したことができなかった。
そして、その原因を「やる気」が湧かないせいだ、と思っていた。
「やる気」さえあれば、外に出て見分を広げることもできただろう。
交友関係をもっと広げることもできただろう。
あるいは、ビジネスや研究活動に打ち込むこともできたかもしれない。
だが現実的には、日々を漫然とルーティンワークの中で過ごし、大して面白くもないゲームに興じた。
そして、就職しても、根本は変わらなかった。
だが、学校と違うことが一つだけあった。
偶然にも採用してもらえた会社は非常に激務で、常に忙しい環境だったのだ。
毎日、こなしきれないほどの大量の仕事が降ってくるので、「やる気」を引き出すことは全く不要の環境だった。
激務は嫌、という人は多いかもしれないが、「やる気をださなくていい」環境は、実はとても気楽だった。
だから、「なんとなく充実したような気持ち」にはなる。
そうして、就職して1年ほどが過ぎた。
うだうだ言ってないで、やりゃいいじゃん。
ところが、その後私に一つの転機が訪れた。
残業が続いたある日、一人の先輩に、私は
「最近忙しくて、家帰っても寝るだけですよ。ずっとこんな感じなんですかねー。」
と、他愛もない愚痴をこぼした。
すると、いつも軽口ばかりの先輩が珍しく、真面目な顔をして言うのだ。
「うだうだ言ってないで、したいことをすりゃいいじゃん。後悔するよ。」と。
そりゃまあ、そうだ。
だが、特にやりたいこともない私は言った。
「そりゃ、先輩ならできるかもですが、私には無理ですよ。」
先輩は少し思案してから言った。
「「やる気が出ない」じゃなく、むしろ「やる気を出すやり方がわからない」と言うべきだな。」
「なぜですか?」
「やる気は自然と出てくるものじゃないから。」
正直なところ、当時の私の感想は
「できる人は違うわ。」だった。
私は、自分の好きなこと、本当にやりたいことがあったら、「やる気」は勝手に湧いてくると思っていた。
だから、先輩の言葉は「やれる人の言葉」に過ぎなかった。
だが「後悔するよ」という言葉は、その通りだった。
手帳で人生が変わる人
どうやったら「やる気が出る」のか。
その答えに気づいたのは、ある仕事で、何の変哲もない「手帳+研修」という商売を知ってからだった。
どういうことか。
当時は、スマホというものがなく、紙の「手帳」を使う人が多かったのだが、少なくない数のその手帳の発行元が、「研修ビジネス」を展開していたのだ。
中には「手帳で人生が変わる」というものもあったくらいだ。
そして、その手帳はバカバカ売れていた。
そして、私の上司も、コンサルティングに付属した、手帳ビジネスをやりたがっていた。
私は聞いた。
「なぜ手帳なんて売るんですか。」と。
上司は言った。
「「やる」ための道具だ。」
私は「手帳」程度が、やるための道具になるとはどうしても思えなかったが、使っている人に聞いてみると、「手帳に書いてあるからやる」という人が、かなりいることが分かった。
ここにきて私はようやく、もしかしたら必要なのは意志力ではなくツールなのでは、と気づいた。
「やりたくてもやれない」のは人間として当然で、何かしらのアシストあって初めて「やる」人がかなりの数、いるのだ。
ツール・環境・電気信号・化学物質の助けで「やる気」が出てしまう
実際、詳しく聞くと、何かしら「やってる人」は、実は意志力に頼らず、環境を工夫して創り出していた。
例えば、知人に「金を払わないと運動しないから、フィットネスジムに入会した」という人がいた。
「開けられない貯金箱」を好んで使う人が大勢いた。
「家に帰ると寝てしまうので、カフェに寄って読書してから帰る」知人がいた。
「お菓子があると食べてしまうので、家にお菓子を置かない」という人がいた。
いや、このような「工夫」すら、やる気を要求する、という方もいるかもしれない。
確かに、もっと直接的な方法もある。
「脳」に直接介入するのだ。
コーヒーやエナジードリンクなどを使うこと。
「光」を浴びて、集中力を高めること。
薬やサプリメントを使う人もいた。
また、極端な例もある。
薬物が効かない深刻なうつ病の治療には、患者の脳に電極を埋めこみ、うつを引き起こしている脳領域をマヒさせる治療が行われている。
NHKでは、同様の装置を使って、うつ病の治療を行う様子も報道された(クローズアップ現代)
アメリカ軍ではヘルメット状の装置を使い、電磁波で兵士の集中力を高める試みすらある。
(出典:ユヴァル・ノア・ハラリ ホモ・デウス 河出書房新社)
そういう意味で、自分も含め、人間は一種の「機械」と思えばよいのだ。
「やる気」を創り出すのは脳と身体であり、それらは操作可能である。
(出典:ご飯は私を裏切らない heisoku 角川コミックス・エース)
実際、脳科学者の池谷裕二氏は、「やり始めるとやる気が出る」と述べており、その理由は「身体が脳の反応を引き出す」からと言う。
人間は「意思が先」ではなく、「身体が先」なのだ。
「眠いから寝る」という一見当たり前に思える行動も、通常はまちがった表現です。
もちろん、寝不足だったり、酒や睡眠薬を飲んだりすれば、「眠くなったから寝る」ことはありえます。 しかし、それはごく一部の状況でしょう。
毎晩どのように寝るか想像してください。たいていは「就寝時間になったから寝る」のではないでしょうか。あるいは「あら、もうこんな時間だ。明日も仕事だし」と寝ることもあるかもしれません。
いずれのケースも、眠いから寝るのでなく、むしろ眠くもないのに寝るわけです。
では、どう睡魔を呼び込むかといえば、身体を使うわけです。寝室に入って、電気を消して、布団をかぶって、横になる。すると自然に睡魔が訪れます。
身体をそれにふさわしい状況に置くから「眠くなる」わけです。
身体が先で眠気は後です。就寝の姿勢(出力=行動)を作ることで、それに見合った内面(感情や感覚)が形成されるわけです。
確かに、子供のころ、昼寝のために、眠くもないのに「布団に入って横になりなさい」と言われた。
そして、嫌々でも、布団に入って横になると、自然に寝てしまっていた。
「やる」の仕組みを知れば、人生はイージー・モード。
その後、「身体」と「脳」に、私は積極的に介入するようになった。
「やりたいこと」なんかを探すより、「外部刺激」で気分を変えるほうが、よほど手っ取り早い。
やる気を出すのに、難しく考える必要なんて、なかったのだ。
おそらく一番楽なのは、化学物質や電磁波を使う方法だろう。
だが、そういうものは手元にないので、身の回りにあるものを使ってやるしかない。
そして、実際にやってみると、それらはとても簡単だった。
文章が書けないときは、外に行って歩く。
視覚に入る風景が変わると、アイデアが変化する。
「やりたいこと」がある場合には、必ず手帳にそのスケジュールを書き込んでおく。
リマインドを設定すれば、そのタスクは「やらねばならないこと」に昇格する。
ゴロゴロしてしまっているときには、スマートスピーカーのAlexaに「5分タイマー」を依頼する。
アラームが鳴ったら始める、と決めておくだけで、劇的に物事を始めやすくなるのには、本当に驚いた。
机の上を整理したいなら、「ほこりとり」を置けばいい。
気になって、すぐ手に取ってほこりを払うと、それが片づけを誘発し、机の上を整理するようにしてくれる。
小学校2年生の娘が、「宿題やりたくなーい」とゴロゴロしていた時には、ヘッドホンを貸してやった。
好きな音楽をかけて、周りをシャットアウトするだけで、集中力が飛躍的に高まったようで、30分以上かかってダラダラやっていた宿題が10分程度で終わるようになった。
そういうわけで、ヘッドホンを子供用に一つ、購入することにした。
朝、コーヒーをデスクにもっていって一杯やると、スイッチが入るので、テレワークには、コーヒーメーカーを活用する。
炭酸水も効果的だ。
アクション・トリガーの利用
まあ何にせよ、こうした施策は個人差が大きいので、あれこれ試して、自分で見つけるしかない。
ただ、おそらく誰にでも効果があるのが「アクション・トリガー」だ。
「何かをしたいときの条件を決めておく」行為を、心理学の用語では、「アクション・トリガー」という。
ニューヨーク大学の心理学者、ペーター・ゴルヴィツァーは、この分野の研究の第一人者だ。
彼と同僚のヴェロニカ・ブランドスタッターは、アクション・トリガーが行動を促すうえで非常に効果的であることを発見した。たとえば、大学生を対象にしたある研究を紹介しよう。
学生たちは、クリスマス・イブの過ごし方に関するレポートを書くと、講座で追加の単位がもらえるという選択肢を与えられた。
ただし、ひとつ条件があった。単位を取得するためには、レポートを一二月二六日までに提出する必要があったのだ。大半の学生にはレポートを書く意志はあったが、実際に書いて提出したのは三三パーセントだった。
一方、別のグループの学生は、アクション・トリガーの設定を課せられた。つまり、あらかじめレポートを書く正確な時間と場所を宣言させられたのだ(たとえば、「クリスマスの朝、全員が起きるまえに父親の書斎でレポートを書く」など)。
すると、なんと七五パーセントの学生がレポートを書いた。
これほどわずかな心理的投資にしては、驚きの結果だ。
最新のメタ研究によると、アクション・トリガーを設定した人は、同じ作業でアクション・トリガーを設定しなかった人の七四パーセントよりもよい成果を上げたという。
こんなに簡単に「やる気」に介入できるなら、これはやらない手はない。
「できる人たち」も、実は陰で、「アクション・トリガー」などを活用しているのだろう。
秘訣は、人間は外部刺激に対して反応するマシンだと認識し、スイッチを探すこと。
「理性」や「意志」、「マインド」はそこには不要。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
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