上司には、2種類のタイプがいる。
明確で的確な指示を出せる人と、あいまいで多義的な指示をする人だ。
おおざっぱな指示しかできない人に対して、わたしはいままで「マネージメント能力が低いんだな」と思っていた。
でももしかしたら、そうじゃないのかもしれない。
あいまいな指示をする人は、明確な指示をする能力がないのではなく、「他人にケチをつけることが仕事」だと思っている可能性があるのだ。
あいまいな指示に対して細かいダメ出しが続く
先日、しんざきさんの『曖昧なタスクへの耐性が下がってしまった、一時期の話』という記事を拝読した。
記事内では、システム関係の仕事における、「成果物の要求ステージについてのチーム内での意識の不統一」という経験が紹介されている。
アイディアベースの初期段階なら、指示がおおざっぱになるのはしょうがない。でも「なにを作ればいいか」が明確じゃなければ、成果物がかっちり決まらないのは当たり前。
指示はあいまいなのに、成果物にはやたらディテールを要求されても困る。
だから、「この段階ではどの程度のあいまいさが許されるのかは、チームでちゃんと共有しとこうね」という話である。
「今のステージでは、指示がある程度曖昧になってしまうのと同様、成果物にもそこまでのディテールは要求されない」「今は、曖昧な指示、曖昧な成果物が共に許容される段階」という共通認識が、やむを得ず曖昧な指示を出す上では絶対に必要なんです。(……)
「今はディテールを詰める段階じゃないよ」という意識が統一されていないと、ディテール不足についてのダメ出しがガンガン発生してしまう。心理的安全性が下がりまくるわけです。(……)
「今のステージで必要とされる成果物のクオリティ、ディテール」について明確に言語化して、しかもその認識をしっかりチーム内で共有することは、プロジェクト全体のクオリティを守る為に非常に重要なことだ、と認識するようになりました。
これはもっともな話で、「たいした指示をくれないくせにダメ出しはやたら細かい」という状況は、かなりストレスだ。
でもわたしの経験上、「やむをえず指示があいまいになってしまうなら、成果物がおおざっぱでも許容すべき」という正論が通用しない人もいる。
なぜならこの世には、他人にケチをつけることが仕事だと思っている人が結構いっぱいいるからだ。
深く考えずにどんどん指示を追加してくる人との仕事
ライターになりたてで、まだ仕事の進め方がよくわかっていなかったころ。「日本とドイツの働き方のちがいについて書いてくれ」という、おおざっぱな仕事を受けた。
そこでわたしは、ジョブ型とメンバーシップ型の働き方の比較記事を執筆。
記事を提出したところ、「日本の長時間労働問題についても触れてほしい」というリクエストがあったので、メンバーシップ型についてのくだりでさらりと言及。
再提出したところ、「もっとそこを掘り下げて」とのこと。全体のバランス調整のため大幅に手を入れ、結局1/3ほど書き直して完成。
これでやっと終わりだと思いきや、「日本の問題点、改善方法をドイツ在住視点でもっと追加してほしい」なんて言い出し始めた。それってもう、完全に書き直しじゃん……。
駆け出しライターなのでどうするべきか悩みに悩んだが、勇気を出し、必死に言葉を選んで、書き直しを断った。
このまま仕事を切られちゃうんじゃないか……とドキドキしていたが、返事は「それならこれで大丈夫です!」というめちゃくちゃ軽いもの。
え、OKなの? じゃあなんのために何度も何度も書き直しさせてたの?
わたしはこの編集者の思考回路がまったく理解できなかったが、仕事を続けていくうちに、「深く考えずにどんどん指示を追加してくる人」がたくさんいることを知った。
他人にやり直しをさせることが自分の仕事だと思っている人たち
こういう「後から指示人間」の思考回路は、
「まずは適当になんか作って。それに対していろいろダメ出しするから、そのダメ出しを反映させてブラッシュアップして。そうすれば最終的に、理想的ななにかになるっしょ!」
である。
まず相手に丸投げして、「なにか」を作ってもらう。それを見た感想を、「指示」として伝える。
ただの気分、思いつきだから、指示は二転三転して一貫性がない。ムダなやり取りや納得がいかない作業が何度も発生するくせに、仕事は遅々として進まない。
それでも本人は、他人の仕事をチェックしてやり直しさせることで「自分は仕事をしている」という実感を得ているから、なにが悪いのかが理解できない。
作り手がいくら「その通りに作るので最初から具体的に指示してください」と切実に頼んでも、それをしてしまうと「やり直しさせる」という自分の仕事がなくなるので、当然拒否。
「とりあえず作れっていってるのに、細かいことを聞いてきて面倒くさいなぁ。口よりも先に手を動かせよ。後から俺の言う通りに直せばいいじゃないか」と、本気で思っているのだ。
細かいダメ出しなら、どんな無能でもできる
なんでそんな面倒くさい人間がいるのか?
それは、細かなダメ出しならどんな無能にでもできるからだ。
いやね、本当に笑っちゃうよ。
1回目の修正で「一つ目」表記に対し「数字は全部アラビア数字で」と言われ、2回目の修正で「『金』ではなく『お金』にしてください」、3回目の修正で「もう少し固めの文章で」。こういうのがずーーーーっと続くわけですよ。
面倒くせぇ!! 表記ルールがあるなら先に言ってくれ!!
と思うのだが、この人たちにとっての仕事は、やり直しをさせること。
一発OKにしてしまったら、自分の仕事がなくなってしまう。後からああだこうだとケチをつけて、「自分の意見を反映させた」という実績がほしいのだ。
むずかしいことを処理する能力がなくとも、単語単位でいちゃもんをつけるのならだれにでもできる。むしろ、それしかできないから細かいダメ出しばかりするのだ。
ちなみに、後から指示人間とは真逆の、「最初から指示人間」も存在する。
かれらは、できるだけ具体的な指示を出すことで後々の作業を減らすことが自分の仕事だと思っている。
その人にとって最大の成功は「一発OK」で、最大の失敗は「何度もやり直しさせること」。
だから効率的に進むように丁寧に打ち合わせるし、コミュニケーションエラーを防ぐために労力を使う。
現場の人間からしたらこっちのタイプのほうが百万倍ありがたいが、残念なことにこれは、明確なビジョンを持ち言語化がじょうずな有能にしかできないのだ。
後から指示人間に自信を奪われないために
作る側としては、後から指示人間と仕事するのは、このうえなくダルい。
思いつきで言ったことを変えるんじゃねぇ、こっちはあんたの気まぐれに何時間も費やしてるんだよ、と思う。
腹が立つならまだいい。
問題なのは、「自分では相手の意図を汲み取ったつもりなのにダメ出しばっかりだ……」と悩んでしまうことだ。
一生懸命つくったものが否定されて、いちいち細かいことで文句を言われて、それを直したのにまた別の角度からネチネチ言われて……。
そうなればだれだって自信を失うし、やる気をなくしてしまう。
わたし自身、「一生懸命書いたのに細かな修正依頼が何度もくる。なんで直しても直してもOKが出ないんだろう。そんなに悪い記事だったかな……」と落ち込んだこともあった。
でも今思えば、それは自分の力不足ではなく、「やり直しさせるのが仕事」だと思っている人に振り回されただけだったのだ。
もちろん、自分の実力不足でやり直すこともあれば、他人の意見を取り入れてブラッシュアップするためにさらなる調整をすることもあるから、修正自体が悪いわけではない。
ただ世の中には、だれかの仕事にケチをつけることこそ自分の使命だと思って働いている人が、意外とたくさんいる。
だから、「細かいダメ出しが続いて仕事が全然終わらなくとも、あなたのせいじゃない可能性もあるからね。あんまり落ち込まないでね」と伝えたい。
そもそも後から指示人間は、ごちゃごちゃ言うわりに、それぞれの指示に大した根拠や思い入れをもってはいない。
直すのが簡単なところだけちょちょいと手を加えて、
「これはこういう理由で修正できません。でもこっちはこう直しました! あなたの言う通りにやりましたよ! あなたの実績ですよ!」
っぽい雰囲気にすれば、たいてい満足してくれる。
そうやってうまいこと仕事を終わらせるのが、無難だろう。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
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Photo by :Joseph Frank