先日タイムラインで、こんなツイートを見かけた。
1万に迫るいいねがついているあたり、いかに多くの人が共感したのかがわかる。
かくいうわたしも、そのひとりだ。
昔は不機嫌な人にあたると、「え?何かした?ごめんなさい!」と思ってたけど、最近は「え、その態度やと全然不満ポイントわからんから、進めますね〜」って感じになってきてしまった…わからないことを勝手に察しようとしない、先回りすることが逆にウザかったりもするからね…
— りょかち (@ryokachii) 2021年7月6日
それに対するけんすうさんのツイートもまた、多くの人の共感を集めた。
不機嫌な人の気持ちを察してしまうと、それを学習して態度で示す方向性に行動が強化されてしまい、結果としてその人はすごい損するタイプの人になってしまうので、優しくない行動だな、と最近思うようになりました。 https://t.co/EC1CrBRcWP
— けんすう@アル (@kensuu) 2021年7月6日
けんすうさんが指摘しているように、「まわりが察することで面倒な人が増長してさらに扱いづらくなる」というのは、結構あるあるだ。
「面倒な人とうまく付き合っていこう」とその人に合わせてしまうのは、長期的に見ると、実は『悪手』だったりする。
マネージャーに無視されるようになった理由
昔働いていた家具屋で、いままであまり関わりがなかった人が、配置転換でわたしの担当エリアのマネージャーになったことがあった。
最初はうまくいっていたのだが、ある日、挨拶をしても無視されてしまう。
「嫌われてるのかなぁ」と古参の人たちにこぼしたところ、「あの人はすごい気分屋だから、イライラしてるときは近づかないほうがいいよ」という忠告をもらった。
それを聞いたわたしは、「えぇ、なにそれ」とドン引き。
そんなのどうでもよくない?
機嫌が良かろうが悪かろうが、やるべきことは同じじゃん。心配して損したよ。
というわけで、
「マネージャーの機嫌が悪いから、それ後にしたほうがいいよ」
「今日は機嫌いいから、あの件を話すなら今がいいかも」
なんてアドバイスされても、わたしは気にせずにふつうに接していた。
で、ある日クレーム対応をお願いしたら、「俺がいま機嫌悪いのわかるだろ? イライラするような仕事もってくるなよ!」と怒られてしまったのだ。
カチーンときて、「じゃあわたしもいま機嫌が悪いのでこの仕事放置しますね」と言ったところ、マネージャーに決定的に嫌われてしまい、以降は無視されることが多くなった。
わたしとマネージャーともうひとりの3人きりのミーティングですら、マネージャーはもうひとりのほうに身体を向けて話し、わたしのことを完全に無視。
「それならば」とわたしもマネージャーに挨拶するのをやめたら、「挨拶すらできないのか。目上の人に対してなんて態度だ」
と言ってくる。
改めて書くと「自分も若かったなぁ……」と苦笑してしまう一件なのだが、そもそもなぜ、こんな人がマネージャーをやっているんだろう?という疑問が浮かぶ。
失礼な物言いではあるけど、ずっとこの調子でやってきたのであれば、とっくにいなくなってるべきだよね……。
いままでどうやって仕事してきたの?
まわりが「面倒くさい人に合わせてうまくやろう」と察した結果……
そこで思うのは、「まわりが察して彼に合わせるから彼はそのままでいられる」という、『最高の環境』の存在だ。
マネージャーを含め多くの人が長く働いている場所だから、みんなマネージャーの性格を把握していて、彼の機嫌をうかがいつつ距離を保って付き合っていた。
不機嫌なら近寄らないし、機嫌がよければ相談やお願いをする、という具合に。
つまりマネージャーからすれば、機嫌を表に出せば出すほどまわりが察して行動してくれるから、どんどん快適になるわけだ。
「挨拶を無視すれば自分が不機嫌なことが伝わり、みんなそっとしておいてくれる」
と学んだら、そりゃ当然、不機嫌なときに挨拶を無視するようになるよね。
そうやってまわりが察し続けた結果、親子ほども年の差がある大学生バイトのわたしに対し、「俺の機嫌をうかがって仕事をしろ」なんて言うような、扱いづらい人になってしまったのだろう。
もともと面倒くさい人だったのだろうけど、増長させたのは、「この人は面倒くさいからうまいこと付き合っていこう」と接してきた、まわりの人じゃないかと思う。
自分に有利な必勝法を知れば、だれだってそれを使う
そんなことを考えていたところで、ふと、小学校のクラスメートだったアキコちゃん(仮)を思い出した。
アキコちゃんはおっとりした優しい子なんだけど、いかんせんすぐに泣く。
本当に、すぐに、目を離すとなにかしらの理由で泣く。まーじですぐ泣く。
20年も前だから詳しくは覚えていないけど、ちょっとした反論や意見のすれ違いで泣き、やりたいことができないと泣き、うまくいかないと泣く。
たいていの人は、「泣いている子が被害者」だと思うよね。
まわりのクラスメイトしかり、先生しかり、「だれがアキコちゃんを泣かせたの?」と聞くわけ。
だからアキコちゃんはつねに「傷ついた側」であり、「謝られる側」だった。
で、わたしは気づいてしまったのよ。
「アキコちゃん、泣くの我慢してないんじゃないかな?」って。
最初は「我慢したいのにすぐ泣いちゃう」って感じで、泣き虫の自分に後ろめたさがあるみたいだった。
でもだんだん、「ほらわたし泣いてるでしょ? あっちが悪いよね?」っていう感じになっていってたんだ。
先生もアキコちゃんの涙腺の脆さは承知していたはずだけど、泣いている小学生の女の子に対して「自業自得でしょ」と言うより、相手に謝らせたほうが楽。
だから「アキコちゃんが泣いてるから謝りましょう」と、手っ取り早い解決法を提案する。
そしてアキコちゃんは、悟ってしまった。
「泣けば泣くほど自分に有利になっていく」という状況を。
自分が泣けば無条件で勝利という、必勝法を。
そのせいで、アキコちゃんはどんどん『扱いづらい子』になってしまった。
もともとは「泣き虫な子」ってだけだったけど、まわりの接し方のせいで、「泣かせないように気をつけないといけない子」になったのだ。
面倒な人へは「取り合わないけど腫れ物扱いしない」が最適解
人間関係のいざこざなんて可能なかぎり避けたいから、地雷っぽい人と距離を取るのは当然だ。
「この人はこういう人ね、はいはいわかりました」と察してうまいこと動いたほうが、ストレスが少ないもんね。
でもそうやってまわりが合わると、面倒な人はどんどん扱いづらくなっていく。
よりあからさまに態度に出して、自分にとって快適な環境にしようとする。
それは、長期的に見ると『悪手』だと思うのだ。
まわりはずーっと振り回され続けるし、しかもそれは悪くなる一方だし。
で、「じゃあどうすべきか?」というところで、もう一度冒頭のツイートを紹介したい。
昔は不機嫌な人にあたると、「え?何かした?ごめんなさい!」と思ってたけど、最近は「え、その態度やと全然不満ポイントわからんから、進めますね〜」って感じになってきてしまった…わからないことを勝手に察しようとしない、先回りすることが逆にウザかったりもするからね…
— りょかち (@ryokachii) 2021年7月6日
この、「取り合わないけど腫れ物扱いしない」というのは、面倒な人への正しい対処法だと思う。
わたしが家具屋のマネージャーにしたように、正面からぶつかってもケンカになるだけ。
ちゃんと向き合うと消耗するし、相手がこっちに合わせてくれることもない。
かといって先生がアキコちゃんにしたように、その場しのぎでその人に合わせてしまうのもよくない。
その人が増長してより面倒になるだけ。
だから、「取り合わないけど腫れ物扱いしない」が最適解なのだ。
マネージャーが不機嫌でも、気にせずいつもどおり接する。
八つ当たりされたら、「そうですか。でもすみませんけどこれお願いしまーす」とさっと引く。
アキコちゃんが泣いても、他の人たちと同じように両方の言い分を聞いてから対処する。
被害者アピールされたら、「傷ついたのはどっちも同じで泣いてるかどうかは関係ないからねー」と流す。
決して、「トラブルを起こせば起こすほどその人が有利になる」状況にしないこと。
相手に合わせ、振り回されるのを受け入れないこと。
むしろ、「あなたがいくらそう振舞ったとしても、あなたの期待通りにはなりませんよ」という環境にする。
それが、面倒な人への対処において、とても大切なのだ。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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Photo by yang miao