新人の時、先輩からこう教えられた。「お客さんと話す時、政治と宗教の話は避けたほうがよい。相手がどういう思想を持っているかわからないうちは触れないほうが無難だ。」
もしかしたら、同じように教えられた方も多いかもしれない。私は「なるほど」と思ったので、以来私は、政治と宗教の話は職場に持ち込まぬよう、顧客先に持ち込まぬよう、注意を払ってきた。
しかし、様々な会社に訪問すると、時として私の意図とは関係なく政治や宗教の話になったりする時がある。
例えば昔訪問した、地方のある会社では、ミーティングの最中に突然、社長と議員らしき人が部屋に入ってきて、「◯◯党をよろしくお願い致します」とプロジェクトメンバーにひとりひとり握手を求めていった。
私は「ミーティングの最中に、困ったな…」と思いながらも、「なるほど、組織票とはこのように作られていくのだな」と変に納得してしまったものだ。
そしてその夜、社員の方々と食事をしたのだが、話は当然のように政治の話にになり、「安達さんも、◯◯党を応援してください」と、依頼された。
まあ、思想信条は人の自由なので、私はそれについてはとやかく言わず、「はい」とだけ答えておいた。
意外なことに、そういった「草の根選挙運動」は、結構多かった。
またある別の顧客先でも、政治家のポスターが事務所内貼り出してあり、「どうやって票を獲得するか」についての社員同士のミーティングを見かけた。
またとある顧客先でも、「社長が選挙の応援に行っている」という話を聞いた。
そういった会社の多くは、地方である程度名を知らた名士や有力者の有する企業が多く、業績は政府の政策に左右される事が多い。地方では会社を大きくしようと思えば、政府のばらまく金をある程度当てにせざるをえない。
もちろん従業員もそれを知っている。そして、社長に協力は惜しまない。
私はそういった活動を見る度に、「地方では企業と政治は不可分だ。東京とは違うのだ」と肌で感じたのである。
■
いま、新聞の紙面には「選挙」の文字が踊っている。
そして、拾い上げた街の声を見ると、様々な中小企業の経営者と思しきものが掲載されている。
「地方を切り捨てている」
「円安で利益が出ない」
「大企業ばかりが恩恵を受けて、中小企業は厳しくなるばかりだ」
なるほど、確かに当時の経営者たちも同じようなことを言うかもしれない。私は昔訪問した会社のことを思い浮かべた。
しかしつい先日、ある東京の中小企業の経営者を訪問したときのことだ。業種はサービス。
その社長はこう言った。「経営者が業績不振を政治のせいにするようになったら、会社はオシマイですよ。」
そして、時を同じくして麻生財務相がこのような発言をした。
6日の長野県松本市内の街頭演説での発言だ。麻生氏は安倍首相の経済政策「アベノミクス」に関連し、「間違いなく我々は結果を出した。60年ぶりの企業の利益率を出している」としたうえで、「(結果を)出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないから」と述べた。(読売新聞)
この一言もまた、多くの経営者達の偽らざる本音なのだ。麻生財務相はそれを代弁しているに過ぎない。
この対立を我々はどう扱うべきだろうか。
相手のことを批判するのは簡単だ。「バカ」と切って捨てたり、東京か、地方かという対立を煽り、「私達は弱者の見方です」というポーズを決めたりすることもできる。
しかし、多くの有権者はおそらく、「そんなものは見たくない」と思っているだろう。なぜならば、それは「アイデアの出し合い」ではなく、「カネの奪い合い」だからだ。選挙が白けるのも無理はない。単なるカネの奪い合いのショーを見せられても、選挙に行く気にはとてもなれない。
われわれが見たいのは、「知恵と知恵の出し合い」なのだ。ある意見と、ある意見がぶつかり、それら2つを上回る解決策が提示される。それが政治のあるべき姿だ。
新聞で、政治家の発言にイライラする人が多いと報じられた。
毎日新聞が11月29、30日に実施した電話による全国世論調査で「今の政治についてどう感じているか」を聞いたところ、「イライラする」との回答が39%で最も多く、「なんとも感じない」が24%、「かなしい」が15%で続いた。「頼もしい」は11%、「ほっとする」は4%と肯定的な回答は少なかったが、そのほとんどが安倍内閣を支持。無感情層の5割以上、「イライラ」の3割、「かなしい」の2割も支持と答えた。(毎日新聞)
知恵なきところには尊敬も信頼も存在しない。残念なことである。
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