ある方から、こんな話を聞いた。ご自身で何冊も本を書き、10万部以上売れたベストセラーを出したこともある方だ。
「今、売れる本をつくろうと思ったらテーマは「頭が良くなる」に設定すべし。」
確かに、
「学力向上の◯◯」
「思考が明晰になる」
「論理的に◯◯」
「◯◯思考法」
など、要は「頭が良くなる」に関する書籍は非常に多い。特にビジネス書や自己啓発書の系統に至っては、そう言った書籍で埋め尽くされている。
良い学歴を手に入れたい、ビジネスで成功したい、望む職業に就きたい、そういった願望がこのような書籍の販売につながっている。
だがもちろん、こういった本を読むだけで頭が良くなると信じる人は殆どいないだろう。頭の良さは、本質的には運動能力と同じく、毎日のたゆまぬトレーニングで少しずつしか向上しないものだ。ショートカットは存在しない。
こういった本はあくまでも「トレーニング方法」を教えるものにすぎない。
そこで少し考えてみよう。
一体、どのようなトレーニング方法が望ましいのだろうか。「頭が良くなる」という触れ込みの本は、どこまで信用できるのだろうか。
個人的には、多くの会社で教育プログラムを作った経験から、信用して良い本は次の条件を満たすと考えている。
1.アウトプットが明確である
漫然と「頭が良くなる」という本はあまり信用出来ない。それは、「運動神経が良くなる」という本と同じだ。だがジャンプ力に優れる人、遠投に優れる人、持久力のある人と言った形で、運動能力にも多様な形態があるのと同じく、頭の良さも多様である。
論理に優れた人、創造性に優れた人、暗記が得意な人、処理能力の高い人、無数の頭の良さが存在している。そして、「どれも得意である」という人も存在しない。
したがって、トレーニング方法の選択は「作文がうまくなる」「数に強くなる」など、最終的なアウトプットが明確であることが、第一条件である。
2.頭の良さというのは、知識が前提であると述べている
頭の良さと言うのは、知識が前提である。知識がなければ、いかに素養があっても貧しい思考しかできない。それは、ゴミを使って美味しい料理を作れ、と言われることと同じだ。
一流の料理人は皆、「最終的には素材の良さを引き出すだけです」と口をそろえて言う。同じように、知識の質が高くなければ、良いアウトプットはできない。
3.「短期間に」「すぐに」「カンタンに」と言った言葉が使われていない
くどいようだが、能力の向上にショートカットは存在しない。たった3日で身につけたことは、皆が3日で身につけられる。という記事でもでご紹介したとおりである。
すぐに頭が良くなる方法、というタイトルや触れ込みは、「すぐに陸上部の選手並みのタイムを出せます」と言っているのと同じだ。それは純粋に、著者や出版社が「売れるから」という理由でタイトルやキャッチを設定しているだけである。
4.「何をやるべきか」よりも、「どうやって継続するか」が重視されている
「こうすれば頭がよくなる」という方法は誰もが知っている。本を読んだり、物を書いたり、多面的に見たり、他の人から学んだりすればよい。学習塾では必ず志望校に合格するための方法が提示される。「やるべきこと」は常に皆知っている。
だが、努力を開始することの出来る人、継続することの出来る人は極めて少ない。肝心なのは、「はじめること」「続けること」であり、「何をやるべきか」ではない。
5.段階的な到達目標が明示されている
「まずはこのレベルまで。次はこのレベルまで」と言った形で到達目標が段階的に、はっきりと明示されているものほど優れたトレーニングプログラムである。
学校の教材と呼ばれているものはすべて、段階的な到達目標を明らかにして作られているのは偶然ではない。人間の能力向上は定期的に目標に対して照らし合わせ、到達度を検証しなければならない。
もちろん到達度は数値化できるものもあるが、抽象的なもの、例えば「◯◯の本が理解できる」や、「人の気持がわかる」といったことでも構わない。
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