会話は重要なスキル、という方は多い。特に仕事をする上では人間関係を構築し、円滑にするために必須とも言える。
だが、会話を苦手とする人もまた多い。そのため、世の中には「会話のコツ」や「会話のネタ」に関する本や記事、セミナーなどは尽きることがない。
一昔前、私がある会社に訪問した時のことだ。
ある一人の営業マンはとても会話が苦手であり、顧客や会社の同僚などとの会話に悪戦苦闘していた。努力家であった彼はそれを克服しようと、会話に関する本を読み、セミナーに参加し、なんとか苦手を克服しようとしていた。
聞けば、彼は学生の時分から会話が苦手であり、対人関係において非常に苦労したとのこと。
「なぜ会話が苦手なのに、営業になったのか」
という疑問をぶつけてみると、彼は、「自分を変えたかった」と回答した。
立派な理由ではあるが、その努力にもかかわらず、彼の会話はあまり上達しなかった。
理由は簡単だった。彼は緊張のあまり、「しゃべりすぎてしまう」のだった。なんとか場をつなごう、盛り上げようと一人で頑張ってしまう。それは、セミナーなどで習ったことを忠実にやろうとした結果だった。
「しゃべることができない」と
「しゃべりすぎてしまう」
の間を、彼は行き交っていた。
それが変わったのは、あるとき彼が顧客と昼食をとっていた時だ。彼が悩みを打ち明けたところ、お世話になっている部長から、「無理して話さなくていいよ」と言われた。
その部長はこう言った。
「会話なんて、コツは2つしかない。相手が話したいことを聞いてあげること、相手が聞きたいことだけを話すこと。たったそれだけ。それ以外は必要ない。というか、話す必要がないので黙っていればいい。」
彼がその意図を尋ねると、部長は言った。
「重要なのは、自分が話さなくても相手が勝手に話したくなる状況を作ること。だからまず「相手が話したいこと」を聞く。人間であれば自慢したいことや興味のあることの一つや二つ、必ずある。「出身は?」とか、「業績」とか「趣味」そんな話だ。
で、相手が話をしたら、それに合わせて「自分の知っていること」を少し話せばいい。たくさん話す必要はない。要はコメントすればいいってことだ。話しすぎるくらいなら、黙ってたほうがいいよ。」
彼にとって、「話すより、黙っていた方がいい」は非常に有用なアドバイスだったようだ。
「うまく話さなくてはいけない、という会話への恐怖がなくなったのが、一番大きかったです」
と彼は言った。
(2024/4/21更新)
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