有能と呼ばれる人は、まぐれで結果を出すのではない。長期にわたり繰り返し結果を出す。それは稀有な能力である。
一般的にその能力は、法則性を発見する力を基板とすることが多い。彼らは一度出した結果を、再現できるのである。
究極的には、ビジネスパーソンも、科学者も、劇作家も、有能とされる人物は「事業活動の法則」「自然科学の法則」「感動の法則」など様々な法則を仕事の中で見つけようとしている。
例えばビジネスパーソンで言えばこんな具合だ。
web上のPRを増やせば、A商品のコンバージョン率は上がる。
タイアップ広告を打てば、Bサービスの売上が上がる。
Xモジュールを修正すれば、プログラムのバグが激減する
普通の人には「なんでそう言えるの?」と思えるようなことであっても、彼らは法則を知っているので、自信を持って行動できる。その自信こそ、チャレンジ精神を支えるものであり、有能な人物の力の源泉でもある。
だが、一方で有能な人材が陥りやすい罠もある。
多くの事物から法則を導き、手元の情報から、結果を予想する能力、というのはあくまでそれまでの経験にもとづく推論にすぎない。
これは、自然科学の法則においても、もちろんビジネスにおいてもである。
18世紀の偉大な哲学者、デイビッド・ヒュームはその著書「人性論」の中で、「原因と結果に関する全ての推論は、習慣にのみ起因する」と述べた。
簡単に言ってしまえば、「今までうまく行っていたから、これからもうまくいくだろう」に、根拠はない、ということだ。
つまり多くの法則を生み出せる「有能な人」ほど、合理性や過去の成功体験に縛られ、柔軟性を欠きやすい。それは、自分自身の能力への圧倒的な自信から生み出されるものであり、避けることは難しいものである。
私が出会ってきた数々の有能な経営者も、その罠を免れた人は非常に少なかった。
「俺の経験では」
「これでうまく行ってきたから」
「そのやり方ではうまくいかなかったから」
徐々に、そう言った言葉をよく吟味せずに使い出すとき、経営には黄色信号が灯る。
上述したヒュームは、そう言った心の働きを「信念」と呼んだ。信念とは、聞こえは良いが、ヒュームは
「信念は、われわれの本性の知的部分の働きというよりはむしろ情的部分の働きである」
という。
信念は、たやすく知的怠慢に陥るのだ。
いかなる時も、ぎりぎりまで推論の吟味を放棄してはいけない。
目指すべきは、「有能かつ、柔軟な人」である。
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