どうすれば「仕事のできるやつ」になれるだろうか。そういった相談を、若手の方からよくいただく。
「やっぱり論理的思考力を身につけるべきですか?」
「英語ができたほうが良いですかね?」
「資格はとったほうがいいですか?」
そういった具合だ。もちろん、いずれも間違いではない。しかし、私が前職で学んだことのなかで、もっとも「仕事ができるようになる」ために重要だと思ったのは上のような話ではない。
それはある会議での事だった。
会議のテーマは「集客」である。新しいサービスを立ち上げたのだが、今ひとつお客さんの反応が悪く、「これからどうすべきか」という話し合いを部門全体で行うというものだった。
会議のメンバーは部門の主要メンバーで、約15名、若手からベテラン、部門長までが一堂に会していた。
私はその司会進行役として会議に参加していたが、実質的には「部門長の脇で議事録をまとめながら、意見をとりまとめる」という役割であり、権限は部門長が握っていた。
会議はまず現状の報告から始まった。売上の状況、顧客の数、引き合いの推移、チラシの具体例から利益予測まで、様々なデータが提出された。
かれこれ1時間程度の報告があっただろうか、ひと通りの報告が終わると、部門長は口を開いた。
「なにか考えがある人は発表せよ」
しばらくは沈黙のうちに時間ばかりが過ぎた。そして5分ばかり経った時のことだ。ある若手、まだ20代後半と思しき人が、手をそろそろと挙げた。
「よろしいでしょうか…」
部門長がうなずくと、彼はゆっくりと、自分自身に言い聞かせるように話し始めた。
「ありがとうございます、では、意見を述べさせていただきます。このサービスですが、現在調子が良くない理由は、「キャッチコピー」にあると考えています。私が思うに、このサービスの本来のターゲットは「300人以上の企業」です。しかし、現在のキャッチコピーはどちらかと言えば、「100名程度の零細企業」むけになっていると感じており、それが現在の引き合いの少なさの原因と思われます。」
部門長は先を続けるように促す。
「したがって、私が考える案は、キャッチコピーを以下のように変えることです。」
そして、彼は自分の考えてきたキャッチコピーを披露した。
だが、会場からは苦笑が聞こえるのみだった。それもそのはず、彼が考えたというキャッチコピーはいかにも稚拙なものであり、どう贔屓目に見ても、集客できるようなクオリティではなかったからだ。
すかさず会場からは批判の声が上がる。
「問題はキャッチじゃないでしょう、価格ですよ」
「キャッチというのは間違っていないように思うが、このキャッチではねぇ…」
「なぜこのキャッチが300名以上向けなのか、理由がわからないんだが」
質問、批判が相次ぎ、彼は落ち込んでいるようだった。
だが、部門長は言った。
「非常に良い意見だ。私は気づいていなかった。検討事項に加えよう。」
その後、会議は「キャッチコピー」のみならず、価格設定、ターゲットの再設定、営業の方法まで、多岐にわたり話が展開し、新しい施策がまとまり、会議は終了した。
私は会議が終わった後、部門長へ質問した。
「なぜ、あのキャッチコピーを「良い意見」とおっしゃったのですか?素人目に見ても、クオリティは高くないように感じましたが。」
すると部門長は言った。
「安達さん、仕事で一番偉いのは誰だと思います?」
「はあ?…権限を持っている方でしょうか。」
「権限を持っていてもダメな奴はダメな奴です。どんな仕事でも、一番偉いのは「最初に案を出すやつ」なんですよ。批判なんてだれでもできる。でも、「最初に案を出す」のは勇気もいるし、なにより皆から馬鹿にされないように一生懸命勉強しなければいけない。だから、最初に案を出すやつを尊重するのは仕事では当たり前です。」
目からウロコだった。
私はそれ以来、様々な会社で観察を行い、仕事をするときは常に、「とりあえず案を出す」ということがいかに重要かを身を持って体験した。
そして、若手から「仕事ができるようになるためにはどうすればいいですか?」という質問を受けた時には必ず、お節介ながら、
「一番最初に案を出せるようになるように頑張る」
と回答するようにしている。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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