結局、経営者が「やりがい」を強調する会社ほど、本当はやりがいのない職場なのかもしれないな、と幾つかの「ブラック企業」を渡り歩いてきた彼は言った。

 

彼は新卒の時点で、「仕事のやりがい」を求め企業を回った。幾つかの会社で素晴らしいプレゼンテーションを見て、かれはそのうちの1社に決めた。

この仕事には「やりがい」があります。「成長」があります。新卒向けの会社説明動画には、「やりがい」「夢」「感動」「成長」「若い時から活躍」といった言葉が羅列されていたそうだ。

かれは「仕事のやりがい」をここまで重要視してくれるなら、良い会社だろう、と考え、入社を決めた。

 

ところが、期待はすぐに裏切られた。その会社の仕事は「やりがい」どころか、単調極まる営業をやらせる会社だった。

上司からは「行動量が全て」「やりがいは自分で作るもの」「石の上にも三年」という小言をもらい、残業代もなく、フルコミッションのような給与形態、彼は体を壊したそうだ。

入社1年で新卒は1/3に減り、彼も同じように退職した。

 

彼は退職後、「同じ轍は踏むまい」と、新卒時よりもさらに念入りに「やりがいのある仕事」を探した。彼は第二新卒として熱心に就職活動をし、ある企業に潜り込んだ。

その会社の説明会でも、彼は「やりがい」「夢」「感動」「成長」「若い時から活躍」というキーワードに惹かれ入社を決めた。「今度は絶対に失敗できない」と、彼は決死の覚悟で仕事を始めた。

だが、結果は同じだった。彼はろくに技術も身につかないままひとり現場に放り込まれ、必死に毎日の業務をこなすことになった。

「もう後はない」と必死に1年、2年を耐えたが、3年目のある日、彼はどうしても朝起きられず、そのまま会社をやめてしまったそうだ。

 

彼は半年間、そのまま働かずに過ごした。「もう働けない」と思った。

それを見かねた一人の友人がかれに仕事を紹介してくれたそうだ。その時の友人の言葉はこうだった。

 

「やりがい」も「成長」も「感動」も特にないけど、きちんと残業代が出て、定時で帰れる、ふつうの会社だよ。給料はそんな高くないし、社長も派手さはないけど、真面目で良い会社だ。働いてみるかい?

 

彼は随分と迷ったそうだが、貯金が尽きかけており、このままでは家を追い出される、という恐怖から働き始めた。

 

働いてみて、彼は驚いた。

「仕事が、楽しい」

職場の人は丁寧に教えてくれ、真面目にやればお客さんからお褒めの言葉をもらえる。成長している実感もある。少しずつ大きな仕事を任せてもらえる。

彼は、職場がとても気に入ったという。

聞けば、この会社に新しく入社する人は、ほとんどが社員の紹介経由によるものだという。

 

友人は言った。

「成長」とか「夢」とか「やりがい」とか、うちはそんな派手なものはないけど、誠実に仕事をする人が報われるように社長が頑張っている。

仕事って本来、やりがいとかを強調するようなものではないんじゃないかな。ウチの社長はいつも言ってる。

「いいお客さんと、いい仕事を用意すれば、社員は勝手に仕事を楽しんでくれる」

 

やりがいとか夢を強調する会社は、いいお客さんも、いい仕事もないから、誇大広告をせざるをえないんじゃないかな。入って仕事したらそんなことすぐにわかるのにね。

 

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登壇者紹介:

松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。

安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。


日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00

参加費:無料  定員:50名
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(2025/5/8更新)

 

 

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(Photo:Nguyen Hung Vu)