地域の活性化にも、様々なやり方があります。農業から入る方、工業から試みる方、観光業からチャレンジする方。その中でも異色の取り組みがあります。
三重大学名誉教授、渡邊明さんはあの「伊勢神宮」のネットワークを駆使して、地域おこしを試みています。
はたして伊勢神宮と地域おこし、何がどこで繋がるのでしょう。渡邊さんにお話を伺いました。
−現在の取り組みを教えていただけますか?
私は10年ほど前から農商工連携、というテーマについて、経済産業省とともに取り組んでいます。
−農商工連携とは、何でしょう?
農商工連携は、国の政策の1つで、経産省が主導しています。簡単にいえば、農業、商業、工業、をつなげて地域おこしをしよう、という試みです。
参考:地域の基幹産業である農林水産業、商業、工業等の産業間での連携(「農商工連携」)を強化し、その相乗効果を地域の活性化につなげます。 そのため、農商工連携関連2法を成立させるとともに、農商工連携の支援施策を実施しています
農水省も同じような試みをしていますが、彼らは「6次産業化」と呼んでいます。農業は一次産業、工業は二次産業、商業は三次産業ですから、足しあわせたら6次、ということですね。
ただ、農水省は経産省と異なり、流通を抑えていないので、サプライチェーンの施策が弱く、今ひとつ成果を出せていないようです。
−具体的にはどのような試みなのでしょう?
非常にシンプルに言えば、「売れる新しい商品を作る」ことです。
農商工連携という発想ができてきたのが、大体10年くらい前です。地方の中小・零細企業は、単独では技術に難があったり、マーケティングが苦手だったりと、「作って、売る」のサイクルを単独で構築することが難しい。
でも、個別で見れば、良い技術を持っていたりするわけです。そこで複数の企業を組ませ、商品とマーケティングを強化してやろう、というのがこの試みです。色々な会社を組み合わせることによって、総合力で食べていけるようになる。これが目指す姿です。
−例えば、どのような試みがあるのでしょう?
例えば、宿儺(すくな)かぼちゃ、というかぼちゃの一品種があります。甘くて美味しいのですが、傷みやすい。
出荷できず廃棄していたものが数多くあるのですが、傷んでいるもの弁当屋で再利用したり、使えなかったワタの部分を乾燥して、米の麺に練りこんで商品化したりしています。
あるいは、ソマがつお、というカツオがある。そういう種類のカツオではなく、粗末なカツオの略なのですが、小さくて刺し身には向いていないのです。商品にならず、今までは漁師が自家消費をしていました。
そこで、そのカツオを身ごと樽に入れて、塩漬けにしてそのまま塩辛にしキムチの中に入れる。これめちゃくちゃ味が良くなるんです。漁師さんとキムチ製造会社が組んで、地元のスーパーの地産地消コーナーに置いたところ、めちゃくちゃ売れました。
それから、三重県のひもの製造会社では干物の切れ端がたくさん出ていましたが、お弁当屋さんや、介護の給食会社と組んで、廃棄されていたものを商品化しました。大変味の良い干物でしたので、お弁当屋さんも、給食会社も喜んでいます。
(画像:四日市ひもの食堂 http://himono-syokudo.com/ise_hounou/index.html)
−なるほど、面白いですね。でも、バラバラの企業をどのように結びつけているのですか?
そこがポイントなのですが、我々は伊勢神宮の「奉納ネットワーク」を使っています。毎年伊勢神宮には多くの品が奉納されるわけですが、それに選ばれるのが22社。そしてその周りに100社くらいの関係する会社があります。
(上は奉納ネットワークを用いた企業連携の一例)
また、奉納はお膝元の三重県だけでなく、岐阜、京都、大阪、福山、大阪、広島、福岡など多くの地域にまたがっています。これらの会社が知り合う場所が、「伊勢神宮」なのです。
−面白い試みですね。神社がハブになっているわけですね。
そうです。奉納を行うと、他の奉納をしている会社と知り合うことができる。他の地域の、普通ならば出会うことのなかった会社と出会えるわけです。
そこで生み出される「組み合わせ」は非常に大きな力です。
−なぜこの道に進まれたのですか?大学の先生がやることにしては、非常に変わっていると思いますが…
そうですか?実は三重大の人文学部にいた時、自動車の部品屋さんをずっと追いかけていました。自動車産業は「モジュール化」に関して非常に深い知見を持っています。部品などを標準化して、様々な車種に流用できるようにするわけです。
そのモジュールの組み方によって、かなり多くの異なった製品ができあがります。これはまさに「連携」なのですよ。農商工連携も同じことです。企業一社一社が「モジュール」として活動すれば、様々な組み合わせによって新しい物を作ることができる。
私はその中で専門だった「マーケティング」のモジュールとして活躍しています。なにせ中小零細企業は作るよりも売ることが苦手ですから、私がその中に入っていくわけです。
−この活動の面白さは、どこにあるのでしょう?
先程述べたように、これは多数の会社を1つに統合していく活動です。その意味ではプロジェクトマネジメントとも言えます。
マネジメントは、応用が効くものです。プロマネはもともとポラリス・ミサイルを作る技術でした。ばらばらに作った技術、例えば圧縮空気、制御、点火、コンパス等の技術を一つ一つ組み合わせて全体を統合するわけです。
これは非常に面白い活動なのですよ。
−渡邊さん、今日はありがとうございました。
(2025/5/8更新)
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登壇者紹介:
松原 亮 氏(株式会社TOKIUM 取締役)
東京大学経済学部卒業後、ドイツ証券に入社し投資銀行業務に従事。
2020年に株式会社TOKIUMに参画し、当時新規事業だった請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の立ち上げを担当。
2021年にはビジネス本部長、2022年より取締役に就任し、経費精算・請求書処理といったバックオフィスDX領域を牽引。
業務効率化・ペーパーレス化の分野で多くの企業の課題解決に携わってきた実績を持つ。
安達 裕哉 氏(ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO)
Deloitteで大手企業向けの業務改善コンサルティングに従事した後、監査法人トーマツにて中小企業向け支援部門を立ち上げ、
大阪・東京両支社で支社長を歴任。2013年にティネクト株式会社を設立し、ビジネスメディア「Books&Apps」を運営。
2023年には生成AIに特化した新会社「ワークワンダース株式会社」を設立。生成AI導入支援・生成AI活用研修・AIメディア制作などを展開。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計71万部を突破し、2023年・2024年と2年連続でビジネス書年間1位(トーハン/日販調べ)を記録。
日時:
2025/5/16(金) 15:00-16:00
参加費:無料 定員:50名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
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