ある経営者が人事制度について語っていた。
「うちにはロールモデルがいないんですよねぇ、皆が憧れるような、成功事例というか、すごい稼いでる、って人が。そういう人を今後、給与制度の改定で作っていきたいですね。」
「ロールモデルの必要性」が説かれていたが、なんとなく違和感があった。
当時はその違和感の正体がわからなかったが、先日、知人と話をしていて、ふと上のの話を思い出した。
「なんか、この前ウチの会社で給与制度が変更になったんだよね。」
「どんなふうに?」
「ひとことで言うと、信賞必罰?かな。もっと露骨に言うと格差を作って、デキる人には大きな給与と賞与、できない人は最低限の給与。」
「へえ、なんでそんなことになったの?」
「社長が、「ロールモデルが必要」と言うんだよね。なんだそれ、て感じ。」
「どっかで聞いた話だな」
「そりゃまあ、頑張ったら報われたいけどね。でも、成績上げた人がめちゃボーナスもらっているのをみて、ヤル気が出るかといえば、全くそんなことないね。むしろ、なんかなあ…じゃない?」
「なんで?」
「いや、なんか金で釣られるみたいだし、それに乗るのも癪だよ」
彼はどちらかと言えば仕事ができる方の人間だったはずだ。そして、彼らのような人間のために用意された制度ではないのだろうか。
「自分が勝ち組の方であってもその制度はイヤかい?」
「当たり前だよ。だって一度大きな目標を達成してボーナスを貰ったら、次の目標がかなり高くなるし。高すぎる目標を達成するためには犠牲にする物が多すぎる。まあ、せいぜい3年続けるくらいが関の山じゃない?
大体、一時だけもらえるお金が多くなっても税金が高くなるだけだし、手取りはそんな増えないよ。」
そうなのか。
「まあ、少なくとも「成功とお金が羨ましいから」という指向で働く人は、微妙だよね。どこぞの意識高い系か、って感じ。」
彼は言う。
「いや、オレがおかしいのかもしれないけど、テレビとかでビジネスやって成功した人の特集とかやってるじゃん、あれ疲れている時には絶対消す。」
「ほう」
「なんか調子乗っている奴見ると、ムカつくし。」
「嫉妬ですかw」
「ハイハイ、嫉妬嫉妬。いいじゃんオレだって人間だし。関係ない人ならまだ我慢できるけど、会社の中まで見せつけられると超うんざりだよね。あーあ、イラつく。」
現場で強く感じるのは、金銭面での格差は期待するほどヤル気を生み出さない。差が大きすぎると、勝っている人は油断し、負けている人はヤル気を失う。
金銭であがったヤル気は長続きしない。
もちろん「貧すれば鈍する」というように、生活に困るようではマズい。しかしむしろヤル気の源泉はちょっとした「名誉」「尊敬」「誇り」にある。
話は横にそれてしまったが、要するに、
「すごい稼いでいる人を見て、「僕も稼ぎたい」と頑張る人って、すごい少数派」
という話だ。
上の彼は言った。
「まあ、どこの会社にもカネ、カネ、っていうやつはいるけどさ、そういう奴を中心に制度設計すると、そういう奴しか残らないわな。
でもそういう奴ほど、ちょっと業績が悪くなるとすぐにやめちまうんだよ。」
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
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(Maxim)