ある会社で、新人の評価について聞いていた。すると、多くのリーダーから「新人の質問が下手くそだ」との話が上がってきた。

知識がない状態で質問を組み立てるのはとても難しいことなのでこれは無理からぬことだ。

 

だが、後で彼らにヒアリングしてみると、「質問のしかたが重要」ということを知らない新人が多かった。

検索エンジンと同じく、適切な問いを与えなければ、適切な解はない。

 

幸い、その会社では「質問の仕方」についての講習が開かれ、新人と先輩のやり取りについての練習が行われた。ここに、備忘録としてその内容を記す。

 

 

例えば、ある新人が、ブログを始めなければならない、と言って詳しい人に聞いている。以下はそのやり取りだ。

 

「すいません。」

「はい」

「ブログの書き方がわからないんですけど」

「何のブログサービス?ワードプレス?」

「ブログサービスってなんですか?」

「……」

「画面見せて。」

「どうぞ」

「ああ、これね…」

「どうやって書けばいいんですか?」

「とりあえずログインして」

 

…お互い少し止まっている。

 

いや、ごめんなさい、そうじゃなくて、何を書けばいいかわからないんです。

「何を書けばって?」

「ブログのネタですよ」

「ああ、ネタね。」

「はい」

「なんでもいいんじゃない?特に制限はないと思うよ。好きなこと書けば。」

「好きなことですか?」

「うん」

「でも、つまらないブログにはしたくないんです。」

「まあ、文章力次第じゃない?」

文章力って、どうすればつくんですか?

「たくさん書くしかないんじゃないの?」

「たくさん書くだけで面白くなるんですか?」

「そうは言わないけど……」

「ネタが大事だと思うんですよ」

「まあそうだね」

面白いネタってどんなのでしょうか?

「人気があるのは、お金を稼ぐとか、仕事術とか、あとは芸能関係、美味しいお店とかじゃない?」

「僕、あまりそういうの詳しくないんですよね…」

「何が詳しいの?」

「サッカーと映画なら、結構自信あります。」

「ああ、そういう記事あるね。」

じゃ、とりあえずサッカーについて書けばいいんですかね。

「……ごめん、何が聞きたいの?一体。」

「いえ、難しいかなと思って……」

「……もうちょっと整理してから質問してくれない?」

 

 

上の会話では、先輩が支離滅裂な質問をする後輩に困っている。これは「どちらが悪い」という話ではなく、

「何を聴けばよいのかわからない後輩」と「勝手に後輩の聞きたいことを想像して話す先輩」

がお互いに好き放題、会話をした結果だ。

 

 

ではどうすべきか。

この場合、質問を工夫するだけでかなり会話が改善される。

「すいません。」

「はい」

「ブログの書き方がわからないんですけど」

という聞き方は、目的がわからないので相手が何を聞いているかわからない。質問には最低限「行為の目的」を含めること。

「すいません。」

「はい。」

ブログでたくさんのアクセスを集めたいのですが書き方がわかりません。教えてもらえないでしょうか」

「いいけど、うーん……。」

「……。」

行為の目的を示すことで、質問の意図はわかるようになった。

 

だが、まだ先輩が回答をスムーズにするには不足している。あなたがどこまでわかっているのかが見えないからだ。

この場合質問に「何をしてきたか」を含めると良い。

「すいません。」

「はい。」

「ブログでたくさんのアクセスを集めたいとおもったのですが、書き方がわかりません。教えてもらえないでしょうか」

「いいけど。」

まず「記事の書き方」を調べました。ただ、それだけではアクセス増にならないと思って、SEOについても調べました。他にも「更新頻度」や「記事の量」など、様々なことが出てきましたが、どうしたら良いのか……。」

「なるほど、どっからやるべきか……か。うーん……どこから教えようかな。とりあえず、読者層を決めるところはやっているかな?」

「読者層?」

この場合、先輩はあなたがどこまでわかっているのかを知ることができるので、回答がスムーズになる。

 

ただし、この場合でももう少し工夫の余地はある。「どうしたら良いのか」という質問が曖昧な質問だからだ。曖昧な質問からは、曖昧な回答が返ってくるので望ましいとはいえない。

「すいません。」

「はい。」

「ブログでたくさんのアクセスを集めたいとおもったのですが、書き方がわかりません。教えてもらえないでしょうか」

「いいけど。」

まず「記事の書き方」を調べました。ただ、それだけではアクセス増にならないと思って、SEOについても調べました他にも「更新頻度」や「記事の量」など、様々なことが出てきました。」

「うん。それで?」

「そこで思いました。私「アクセス増」について、何がわかっていないかがわからない状態です。状況を整理することを手伝ってもらえないでしょうか。

「そうだね、まずアクセス増の一般的な方法を幾つか話そうか。」

大体において問題なのは「何がわかっていないかわからない」という状態だ。その場合は下手に個別の知識について質問をするよりも「状況整理を手伝ってくれ」とヘルプを出したほうがはるかに良い。

 

 

よって、質問の基本形は次の3つ。

1.行為の目的を知らせる

2.今までにやったことを細大もらさず伝える

3.状況整理を手伝ってくれ、と頼む

 

これが、先輩と新人の間で共有されたので、この会社はかなり意思の疎通がスムーズになった。ご参考まで。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
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(2025/6/2更新)

 

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Ethan Lofton