今、仕事である会社の「提案書作成」を手伝っている。

個人的にはコンサルタントだったころを含めると、それこそ何十、何百と提案書を書いたが、毎度、同じことを思うので、それについて書いてみたい。

 

「提案書作成」は、特殊スキルではなく、誰でも身につけることのできるスキルであり、しかも様々なシーンで役にたつ、汎用性の高いスキルである。

これから仕事を頑張りたい人、起業したい人、成果を出したい人には是非身につけていただくと良いだろうと思う。

なぜなら「顧客から仕事をもらう」「上司に動いてもらう」「部下に動いてもらう」といった、仕事において重要なシーン全てに「提案」という活動が含まれるからだ。

 

だが、実際に「良い提案書」を作ることのできる人にはあまり出会わない。

なぜか。

それはおそらく「提案書」という名前そのものが悪いと、私は考えている。

 

「提案書作成」というと「提案を考えること」と誤解してしまうからだ。具体的に言えば「何を提案するか?」を考えることに提案書作成の大部分の時間を使う。

 「提案書」なんだから、当たり前じゃないか、という方もいるだろう。そこに落とし穴がある。

実は、私がコンサルタントだった頃、提案書作成をするにあたって最も時間を割いていたのは「提案を考えること」ではなく、「相手の真の要望を理解し、それを文書化すること」だった。

つまり、こういうことである。

「PRをやりたい。媒体に露出を増やして、問い合わせをたくさんもらいたいので、PR活動に関して提案をしてくれないか」

という依頼をもらったとする。

多くの人は「それでは」ということで、

・媒体に露出をふやす方法

・プレスリリースの書き方

・メディアまわりの方法

・記者発表の方法

などを考え、提案書に盛り込むだろう。

だが、これではあまり良い提案書にはならない。先に述べたように、提案から考えてはダメなのである。

殆どの人は、提案から考えると「お客さんが本当にやってほしいこと」ではなく「我々ができること」を提案してしまうのだ。

「PRをやってほしい」と言っているから、PRの提案をしたんじゃないか。何が悪いんだ、という方もいるだろう。実はそれが間違っている。

私の経験では、お客さんが声をかけてくる時に「本当の要望」は、まず言語化されてこない。具体的に上の例では「PRをやりたい」と言ってきたその背後にある動機のほうが、遥かに重要である。

 例えば、なぜPRを積極的にやりたいのかといえば、そこには下のように様々な理由がある。

後発のサービスだから?

競合製品と異なる市場を狙いたいから?

特定のターゲットにリーチしたいから?

Coolであると思われたい?

 「営業でヒアリングすればいいじゃない」と言う方もいるかもしれないが、営業のヒアリングだけでは全くもって不十分である。

それはあくまで「担当者の主観」「管理者のバイアス」「経営者の思い込み」などが盛り込まれた、事実の一側面にすぎない。

そのため提案書を書くときには「その会社がサービスを使いたいと思う理由と背景」を、できる限り多く収集しなければならない。

・今までのプレスリリース

・CEOの発言

・その会社について出版された本

・webの記事

・採用募集要項

・社員のブログ

そういった断片的な情報をつなぎあわせ、「この会社がPRしたいと思った、本当の意図、背景、有効性」などを突き止めるべく努力する。

提案書を作成するプロセスで最も時間をかけるべきは「お客様からのご要望」をできるだけ丁寧に、詳細に、背景を踏まえて言語化、文書化することだ。

 具体的に上の例では、提案書の一番最初に、「お客様からのご要望」のページを入れ、そこに詳細に記述する。

・目的

「後発の不利を覆すために、見込み顧客に対する認知度を向上させたい」(情報ソース:◯◯)

さらに「競合がリーチしていない市場に対して先にアプローチしたい」(情報ソース:◯◯)

・目的を実現するための具体的な目標およびKPI

媒体露出が◯◯件 ⇒ ◯◯件になる。

複数のターゲット媒体(別紙参照)において、◯以上の記事数を獲得する

◯◯市場調査において、◯◯となる。

提案の前にこのページがあるだけで、びっくりするくらいお客さんの反応が良くなる。

ここで重要なのが、これらはあくまで「我々の提案」ではなく、顧客の要望であるとすることだ。情報のソースを掲載するのも、そのためである。 特に、CEOの言葉などは必ず「一言一句そのまま」引用する。

そして、プレゼンテーションでは最初に、「我々がヒアリングし、文献をあたったところでは、これがお客様のご要望だと認識しています」と、述べる

ここで「認識が違いますよ」「事実と違いますよ」と言われたらそこでプレゼンテーションが終わってしまうからだ。

逆に、顧客はそこが完璧にできている時「ああ、我々が求めていたのはこういうことだったのか」と頭がすっきりする。

この「すっきり感」なくして、提案を受け入れてもらうことはできない。

誤解を恐れずに言えば、コンペで負ける原因のほとんどは、「提案が悪いから」 ではない。「「我々のやってほしいこと」を提案書が外しているから」なのだ。要するに「自滅」する会社がほとんどだ。

言い換えれば、自分たちのできること、やりたいことだけを並べる提案書がほとんどであり、真に要望を理解している提案が少ないからだ。

だから、「お客様のご要望」が正確に記述できた時点で、コンペの勝率はびっくりするくらい上る。

もちろん、コンペで勝てるかどうかは提案書の質だけによるわけではない。そこには政治や予算、人間関係などが複雑に絡む。

だが、少なくとも「提案書がわかりやすく、的確に我々のニーズを把握している」会社は、「勝てる可能性の高い会社」である。

「提案書」という名前はもうやめたほうが良い。「お客様のご要望をかなえる書」とでもしておくほうがいくらかマシだ。

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Mary