まとまった時間が取れるゴールデン・ウィークには、カフェや家で読むのも良いけれど、公園や広場などでサンドイッチとコーヒーをお供に本を読むのも悪くない。天気も良いし、心地よい風が吹いていて、外での読書には最高の季節だ。

ただ、本は「役立つもの」という以前に、面白くないと読んでいるのが苦痛になってしまう。だからいかに挙げる本は、今まで記事の中で取り上げた本のうち、 「おもしろい」>>>>>「すぐに役立つ」 で選んである。

ただ、本当に面白い本はすぐに役立つわけではないが、人生を豊かにしてくれる、という意味では最も有用なのではないかと思う。

以下、前半はどちらかと言うと娯楽より、後半はビジネスや研究寄りでご紹介する。

 

・ヒストリエ

何度も取り上げているので「いまさら」という方もいるだろうが、本当に面白い漫画を挙げよ、と言ったらヒストリエを挙げざるを得ない。史実をベースに置きつつ、「本当は何があったのか?」を想像することほど、面白いことはない。

 

・賭博黙示録カイジ

もう一つ面白い漫画を挙げよ、と言われたら「カイジ」だ。初めて読んだ時にはプロットの面白さに衝撃を受けた。この漫画の特長は

「カネは命より重い」「大詰めで弱い人間は信用できぬ」「大人は質問に答えたりしない」「人間はそう簡単に捨て身になどなれぬ」

などの悪役のセリフの辛辣さだが、おそらく作者の本音だろう。

 

・シッダールタ

「車輪の下」で有名なヘルマン・ヘッセのもの。正直に言えば「車輪の下」よりも遥かにこちらのほうが面白い。「シッダールタ」という名前から読む前は「ブッダ」の話かと思ったが、実は「ブッダ」はこの本の一登場人物にすぎない。ブッダではないシッダールタの思想は、新しい人生の解釈を教えてくれる。

 

・世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド

村上春樹の小説を全て読んだ結果、最も面白いと感じたのは「世界の終わり」だ。主人公の「計算士」という職業の描写が本当に素晴らしい。畢竟、小説というのはただ面白ければよく、そこから何を読者が得るのかは、著者の意図とは関係ないのではないかと感じる。

 

・ローマ人の物語

超大作なので、手を出すのをためらう人もいるだろうが、とりあえず起業を目指す人は読んでおいたほうが良いと思う。企業の寿命は長くても100年、200年程度だが、「ローマ」という1000年以上続く国を作った人々がどのように国を運営したのか、どのように衰退したのかが克明に記されている。私はマネジメントの本質的な知恵をこの書籍に感じた。

 

・都市と星

昔のSFは本当に良く出来ていたのだな、と思う本。SFの本誌的な面白さは「科学技術」や「戦争」にあるのではなく、「テクノロジーに対する人類の態度」にあると思う。そういう意味で、テクノロジーに接する人々はSFをたくさん読んだほうが良いと思うのだが。

 

・神秘の島

あまり有名ではないが、「海底2万マイル」でよく知られるジュール・ベルヌの最高傑作。読めばわかるが、ベルヌの他の作品を読んだ後、最後にこの本を読むのが「作法」だろう。

無人島に流れ着いた主人公たちのサバイバルものなのだが、サイラス・スミスという技師がとにかくかっこ良い。無人島に流れ着いた彼の最初の一言は「島か?大陸か?」だ。彼はテクノロジーの知識が豊富にあり、火をおこすことはもちろん、爆薬まで島に落ちている材料から作ってしまう。「なにもないところから、知識だけでどこまでできるのか?」に興味がある人におすすめの一冊。

 

・月は無慈悲な夜の女王

SFの大家、ハインラインの代表作。組織論について勉強するなら、変なビジネス書を読むよりこちらのほうが遥かに役に立つ。ハインラインの主張は4つ。

1.組織の形は、機能に従う。2.規模を追求してはいけない。3.組織の構成員をを説得しようとしてはいけない4.時期が来れば、組織の構成員は自然にトップと同じ考え方になる。

 

・モンテクリスト伯

「三銃士」などで有名なアレクサンドル・デュマの最高傑作。日本では「岩窟王」という名でも知られる。「知略を用いた、復讐劇」でこの本の右に出るものはないだろう。色々な映画や小説の元ネタになっており、「あ、これってモンテクリスト伯が元ネタだったのか」と思うこともしばしば。「幸福とは何か」について、考えさせられる一冊。

 

・大いなる遺産

「クリスマス・キャロル」というお話を知っているだろうか。強欲な老人であるスクルージが過去、現在、未来を見て改心する、という話だ。その著者であるチャールズ・ディケンズによる傑作が、「大いなる遺産」だ。

ディケンズがこれを書いたのは1860年、ちょうど資本主義が人々の旧来の生活を変えていった時代だ。「お金」がどのように人の心を変えるのか、興味がある人は読んでみたら良いのではないかと思う。

 

・ザ・ゴール

よく記事の中で引き合いに出すので、もう読んだことのある方も多いのではないかと思う。ザ・ゴールはネタが製造業のため、よく「生産管理の本」と誤解されているのだが、これは生産管理の本ではない。著者のゴールドラット氏が主張している「TOC」は、「生産管理」「プロジェクトマネジメント」「販売管理」「在庫管理」「マーケティング」などのすべての活動に適用できる考え方である。

仕事のやり方に行き詰まっている方は是非一度「ザ・ゴール」を読んでみて欲しい。主人公にゴールドラット氏の映し身であるジョナの本質的で基本的な問いかけに考えさせられる。

 

・明日を支配するもの

ピーター・ドラッカーの著作は読みづらいと言われるが、それは彼の生きてきた時代の背景が我々と異なるからではないかと思っている。この著作はそうではなく、ドラッカー氏が我々の生きている21世紀に向けて書いたものだ。

「マネジメント」や「企業とは何か」などで躓いた方にも、この「明日を支配するもの」は読みやすいのではないかと思う。

 

・フロー体験 喜びの現象学

あなたには、我を忘れて何かに熱中した経験はないだろうか。著者のチクセントミハイ氏はそれを「フロー」と名付けた。「好きこそものの上手なれ」という感覚的な言葉を真面目に研究すると、ここまで洗練された結果になるのかと驚く一冊。

個人的には冒頭の「宇宙は人間が暮らしやすいところではない」という一節から論理を積み上げていく、その姿勢に感服。マネジメントに携わるものであれば、必ず読んでおきたい。

 

・人工知能は人間を超えるか

「とりあえず人工知能とは何かを知りたい」という人に、一番わかり易いのがこの本ではないかと思う。AIに対する過剰な期待と恐れがこの一冊を読むことで解消するだろう。「ディープラーニング」がなぜAIの研究の中で重要な位置づけなのか、人工知能の進化をひとつひとつ丁寧に説明してくれている。

とにかく新しいテクノロジーというのはセンセーショナルに喧伝されるものだが、「学習することは分けること」という著者の一言が、人工知能の本質をよく表している。

 

・新ネットワーク思考

ネットワーク科学について深く知りたいなら、まずはこの一冊から始めるべきと思う。著者のアルバート・ラズロ・バラバシ氏は文章がうまく、ついつい引き込まれる。

難解なネットワークに関する理論を、「仕事を紹介してもらいたいなら、ちょっとした知り合いをたくさん作るべき」など、現実の問題に適用できるレベルまで落として解説しているため、非常に分かりやすい。個人的には早くKindle化されて欲しいのだが、日本語版のタイトルが悪いため、あまり日本では読まれていないようだ。

 

・完全独習 統計学入門

色々な統計学の本を読んだが、この本が一番わかり易い。とくにこの本が優れているのが、「母集団が正規分布であることしか知識を持たず、母分散が未知の状態で少ない標本から母平均を推定する」という最終目的を明らかにし、中学数学だけを使って、練習問題を提示しながら読者に少しずつ丁寧に説明している点だ。

仕事で使うくらいなら、この本一冊で統計はほぼ完璧に理解できる。webマーケターから、品質管理責任者まで、「どうやって少ないサンプルから、母集団を推定するか?」に悩む人は、これを読むと良いだろう。

 

・夜と霧

極限状態の時に、人間はどのような振る舞いをするのか。人間の尊厳とは何か、生きる意味はどこにあるのか。この本は読み継がれる理由はそういった人生の本質的なことに全て答えてくれるからだと思う。

読む前は「難解なのでは」「長くて読みづらいのでは」と思っていたが、基本的には手記なので、文章は簡潔、明瞭にしてわかりやすく、それほどボリュームのある本でもない。一度は読んでおくべきだと強くおすすめする。

 

・銃・病原菌・鉄

なぜ欧米文化が世界を席巻したのか?素朴な疑問だが、答えることが難しいこの疑問に、簡潔にジャレド・ダイアモンドという学者が回答している本。

とかく「人種」が取り沙汰されがちなこの種の疑問に、彼は「大陸の形」や「そこに住んでいた動物」「自生していた植物」の例を上げて丁寧に文明進化の歴史を紐解いている。「シマウマはなぜ家畜にならなかったのか」など、思っても見なかった疑問が提示されるたびに、「成功とは、運の要素が大きいのだな」と痛感する。

 

・コンテナ物語

イノベーションといえばテクノロジーのことを思い浮かべる人が多い中、ピーター・ドラッカー氏は「テクノロジーによるイノベーション以外にも、イノベーションは数多くある」という。例えば彼が「最大のイノベーションの1つ」と評するコンテナ、コンテナによって世界の流通は大きく変化した。

なぜなら、物流のコストを極限まで引き下げたのはまさしく「コンテナ」だったからだ。グローバル経済の立役者はインターネットではなく、「コンテナ」なのだ。その「コンテナ」がどのように誕生したのか、詳しく解き明かす一冊。イノベーションは地道な努力の賜物だ。

 

・それをお金で買いますか

「これからの正義の話しをしよう」で有名なマイケル・サンデル氏の著作。個人的にはこの本のほうが「正義」の話よりも面白い。この書籍で語られている事の本質は「市場取引」は物の価値を毀損する可能性がある、ということだ。

お金や市場は万能ではない。そのことは皆よくわかているが、「お金で取引をしてはいけない。そのものの価値を毀損するからだ」という主張を論理的に説明した本では、これ以上のものはない。

事業を作ったり、起業したりする人の倫理観に強く訴える一冊。

 

・21世紀の歴史

フランスの経済学者「ジャック・アタリ」による未来分析。未来に関する話は眉唾ものが多いのだが、この本についてはそうとも言えない。少し前にリンダ・グラットン氏の「ワーク・シフト」が話題となったが、その中で書かれていることはほぼこの本で既に語られている。

「ノマドワーカー」という言葉が「カフェで仕事するフリーランス」ではないことが、この本を読むとよく分かるだろう。

 

・ゲーデルの哲学

数学は完全ではない、ということを、論理的に証明してしまった「不完全性定理」のクルト・ゲーデル。彼の不完全性定理は理解が最も困難な論理の1つだが、それを優しく説明しようというのがこの「ゲーデルの哲学」だ。

「過去2500年を振り返って、アリストテレスと肩を並べられるのはゲーデル一人」と言わしめた彼の論理について学びたい方は、この本から入ると良いのではないかと思う。

ロバート・オッペンハイマーが「人間の理性の限界を明らかにした」という不完全性定理、興味のある方は是非手にとっていただきたい。

 

・ファスト&スロー

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏による著作。人間の認知がいかに不合理であるかを実験結果を踏まえて克明に述べた一冊。

人間心理を深く知れば知るほど、マーケティングや営業は科学的になりうる。文章そのものも事例豊富で読みやすく、面白いので、認知心理学を学びたい人はここから入ればよいのではないかと思う。

 

・資本主義の未来

我々は資本主義の中に生きている。だが、資本主義の中で生きる我々は、「もっと良い世界はないだろうか?」と模索を続けている。資本主義を超えた思想は、資本主義の限界を知らなければ生み出せない。

そんなことを考えたい人におすすめの一冊。少し昔の本であるが、内容は色あせた感じは全く無い。

 

・イノベーションのジレンマ

どこぞの会社の経営計画にも「イノベーション」という文字が踊るようになってきた。だが本当に「イノベーション」という言葉を理解しているのだろうか?

単に「新しいことをする」のがイノベーションではないことは明らかだが、大半の経営者は「イノベーション」に必要なことを学んでいない。イノベーションは良いことばかりではないし、既存事業を大きく破壊する。なんでも「イノベーション」という風潮にうんざりしている人は是非これを読んでみて欲しい。

 

・Work Rules!

Googleの人事責任者が書いた本。今までに数多くの人事制度の本を呼んだが、この本が最も良く出来ている。

よく「どの人事制度が良いか」と聞かれるが、その質問にあまり意味は無い。肝心なのは人事の制度ではなく、人事の思想だからだ。極端な話、制度は適当でも良いのだ。思想さえしっかりしていれば、あとは制度が自然に成立する、というケースも多い。

この本はGoogleの思想と、それを制度に落とすまでのストーリーが良く書かれており、その過程が最も役に立つ。

 

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(2024/3/26更新)

 

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