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横浜のソフトウェア開発会社・オリエンタルインフォーメイションサービス(OIS)は、3年後離職率が5%。昨年度の調査による大卒の離職率の平均32.3%と比較しても、驚くほど低い。ただでさえ人材の移動が激しいソフトウェア開発業界で、どうしてOISからは人が去らないのか。代表取締役の大内茂さんに聞く。

 

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大内 茂

株式会社オリエンタルインフォーメイションサービス代表取締役社長

昭和61年4月同社入社、平成5年同社取締役営業部長就任、平成18年同社代表取締役社長就任。近年ではIoT分野に進出、複合機、自動車、医療機器、モバイルソリューションなど幅広い分野において高い技術力を発揮。特に複合機分野において同社のファームウェア、デバイスドライバは世界でも高いシェアを誇る。

 

 

直近1年間の離職率は2~3%! 驚異の数字を支える労働環境とは

 

――それにしても、素晴らしい(低い)離職率です。

 

去年の9月から離職は1名です。この1年で計算すれば、離職率は2~3%になります。だから、5%という数字は決して大げさではないんです。平均勤続年数は中途採用の方も含めて、約10年です。

 

――どうやってこの数字を実現しているんですか?

 

まず、派遣の仕事を減らし、受託を増やしました。

単純に営業的な観点から言うと、派遣をする方がコストがかからないのでビジネスとしては楽ですが、それでは社員のモチベーション、そして帰属意識が低くなってしまう。

どうしても「誰かがいなくなれば、他の誰かを確保すればいい」という発想になるからです。経営に携わるようになった早い段階で「右から左に人を流すだけ」の事業は止めよう、と決めました。

また、売り上げの数字は追わなくていい、残業や休日出勤をしない、というのも徹底しています。これらはすべて、労働環境を改善するための施策です。

 

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――労働環境の改善に注力するようになったのはなぜですか?

 

ソフトウェア開発業界では、泥臭い仕事ばかりが開発会社に持ち込まれると思います。それでいて、以前はオフショア開発も流行しており、安価に開発できる中国などの会社と比較されていました。

発注サイドがどちらを選ぶのかは自由です。が、そもそもオフショアと比較されるような立ち位置で仕事をしていたら会社の成長はない、そして労働環境を改善しなければ良い人材は定着しない、と思うようになったのです。

また、技術面、品質面において発注サイドの「大手のSlerに依頼しないとダメ」という意識も少しずつ薄れており、大手に依頼するよりOISに依頼する、という信頼が得られたことも追い風でした。

現在では我々の開発ツールが、大手メーカの標準ツールとして採用されるくらいです。

 

――本当に人を大事にされているんですね。

 

はい。うちは120人の規模なので、社長をやっていれば全員の顔がわかりますよね。だから、1人抜けただけでも、意外とフラれたような気分になるんですよ(笑)。

普段からちゃんとフォローアップできていれば退職しなかったかもしれない、何かこちらの至らない部分があるんじゃないか、と思ってしまうので。「辞められる」のが、やっぱり一番キツイことです。

人はモノではないし、お互いを尊重して接していくべきだと思います。目が行き届く規模であるうちは、社員は身内であり、恋人だという感覚があります。

 

――恋人と言われると想像しやすいです(笑)。この発想に至るきっかけはありましたか?

 

少し古い話ですが、1990年代のバブル崩壊だと思います。当時は正直言って、会社に仕事がないのにここにいてもらって申し訳ないな、という思いがありました。

当時50人くらいの会社だったのですが、その年度は新卒を20人も採用してしまっていました。20人分のリソースがほぼ1年、そのまま遊んでしまい、収入はないのに人件費がどんどん出て行った。もちろん解雇するわけには行かないので、毎月500~800万円ショートしている状態が、年単位で続きました。

会社としては一番のピンチだったかもしれません。それに、いざ仕事が決まって客先に行ったら、稼働率が高過ぎるとか休みがないとか、さまざまな問題が発生しました。

 

――それは、かなり差し迫った事態ですよね。

 

さらには理不尽なことを言われたこともありました。「仕事を埋めてあげるから他の会社より5万安くしろ」とか。そういう関係、自分のところの社員がアゴで使われるのが、とても嫌でした。

でも、それを改善する力が当時の僕にはなくて。だから、自分の中で引きずっていたんでしょうね。それが今ようやく解消できて、形になってきている途中です。

 

 

「身の丈にあった経営」による成長は社員がいて初めて成り立つ

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――そもそも、どうしてOISに入社したのですか?

 

その理由は簡単で、私の父が立ち上げた会社だからです(笑)。

学校を卒業して、まずは6年間エンジニアをしてから、経理などの経営周りに携わるようになりました。入社した頃は、まだ世の中にソフトウェアという概念が浸透する前でしたから、最初の2年間は特にしんどかったし、1年目で「辞めたい」とも思いました。(笑)

でも、「せっかくだし3年くらいはやろう」ということで続けることにしたんです。

 

――意外な新人時代ですね(笑)。社長にはいつ就任されたのですか?

 

社長という肩書きになったのは10年前です。当時、社長をしていた父親の世代がどんどん下の世代にバトンタッチをしていて、僕もその流れで。とはいえ、そのかなり前から実質的な経営は僕がしていましたが。

 

――社長になるというのは、どんな気分でしたか?

 

自分が死んだあとのことを一番に考えました。僕には子供がいないので、僕がいなくなったら誰がこの会社の面倒を見るのか、と。そのとき、すでに社員は90人程度いましたから。当時はリーマンショックの直前で、売上が10億前後の頃です。

 

――リーマンショックは、やはり影響が?

 

いいえ、実はほとんど影響がありませんでした。赤字にもならず、昇給も普通にしました。

多分、僕はメンタルが強くて(笑)。苦しいとは思いますけど、諦めるということはないので。今よりも一歩先の手を打っていこうとしていました。これは技術転換に苦戦を強いられた、バブル時代の教訓でもあります。

ただ、リーマンショックは本当にスピードが早かったですよね。3ヶ月くらいであっという間に仕事が無くなってしまい、ジェットコースターのようでした。たったそれだけの期間でソフトウェア開発業界全体がかなりのダメージを受けてしまったんです。

でも、我々はまだJavaが世の中に浸透していない時代に、数名をJavaに習熟させていたんです。だから、リーマンショック後のさまざまなトラブルを、新しい分野に進出することで乗り越えることができました。

 

――他に、事業をする上で気をつけているのは、どんなことですか?

 

要件定義や設計段階で、その後の開発の作業量というのは、放っておくとどんどん、どんどん増えていくじゃないですか。そこは経営者がしっかり見極めて、適正な作業量にしないと、やっぱり品質は下がっていってしまいますよね。

誰しもスーパーマンではないので、10人で100人の仕事はできない。私の感覚では、10人ではどんなに頑張ってもせいぜい13~4人の働きしかできないと思っています。それを前提に仕事してはいけないし、逆に過剰な作業はこれをお客さんに対して、しっかり説明できる関係を作らなければいけません。

 

――大内さんは社員にも、クライアントにも、責任感が強いですよね。

 

人間って、どうしても「誰かがやってくれるだろう」という気持ちになってしまうときがあります。ましてや、事態が悪くなればなるほど、思考も行動も硬直化しがちで、「自分から何か動こう」という人は少ないですよね。関わらず触らず、で。しかし、それだけでは何も解決しないことも、本当はわかっているはずです。だから、まず自分が責任を負う覚悟が大事だと思っています。

 

――最後に、今後の展望について教えてください。

 

難しいですね(笑)。あくまでも我々は受託のソフトウェア会社なので、その道を大きく外れることはないでしょう。でも、今後は新しいチャレンジが必要だ、とは思ってはいます。

 

これまでの経験からすると、今売り上げが上がっていたとしても、それがずっと続くわけではないんですよね。浮き沈みは絶対にあります。山があれば、また必ず谷はある。登り続けられる企業はほんの一握りだからこそ、「自分の身の丈にあった経営」というのがあるとで僕は信じています。

 

 

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OISの離職率の低さはどのように生み出されているのだろうか。

インタビューが終了し、我々はOISの離職率の低さが何によるものなのかを振り返った。

技術面や、労働環境などのケア、経営者の考え方などによるものだという考え方もあるだろう。だが、正直に言えばそれは多くのソフトウェア開発会社に比して、格段に優れていると言えるかどうかと言い切れるわけではない。

 

実は、OISを最も差別化しているのは、実は「売上目標がない」ということである。経営者も、技術者も「売上目標の達成」という意識がほとんど存在しないのだ。これは極めて珍しいことである。理由を伺うと経営者も技術者も「品質が低下するから」と答えた。

だがOISは今年、売上にして20%の成長をしている。売上目標を追わずとも、20%の成長は可能なのだ。つまり本質は「拡大することそのものを目的せず、適切な仕事量を保ち続ける」ことにある。

 

適切な仕事のボリュームを設定する ⇒ 品質向上、労働環境の改善 ⇒ 顧客からの高い評価 ⇒ 実績を元にした営業活動・交渉力の増加 ⇒ 仕事の増加 ⇒ (最初に戻る)

という良い循環が、この会社においては実現されている。

もちろん課題もある。今後「新しいこと」として何を志向するのか、社員の長期的なキャリア形成をどのように行うのかについて、今後彼らは考えていかなければならない。だが、労働環境が悪いと言われる受託ソフトウェア開発において、ここまで安定した経営を実現していることは、一つのモデルケースとなると考える。

 

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インタビューアー:寺倉そめひこ氏

2010年立命館大学経営学部を卒業後、KCCSマネジメントコンサルティング株式会社入社。その後広告代理店、藍染師を挟み株式会社LIGに入社。入社後はオウンドメディアのLIGブログを中心としてメディア領域の責任者として2年、また人事領域の責任者として1年従事、2016年3月株式会社MOLTSを立ち上げ5月に独立。