高校生時代、全国模試を受けてこう思った人は多いのではないだろうか。
「世の中にはこんなにも自分より頭のいい人がいるのか・・・っていうか得意な人が勉強すればいいんだから、自分のような凡人が勉強頑張る必要なんてないんじゃないの?」
実をいうと筆者もそう思った。だけど今はこう思う。勉強は本当に極力頑張った方がいい。
今日は小さい子に「なんで勉強なんてしなくちゃいけないの?」と聞かれた時に答えられるような話をしようと思う。
任天堂を救った男、横井軍平
横井軍平という名前を出されてもピンとくる人はあまり多くはないかもしれない。しかし彼は百年後は間違いなく日本の歴史の教科書に名を残しているであろう偉人である。
彼の業績は数多くあるが、最も偉大なものの一つにゲームボーイを作った事があげられるだろう。
京都生まれ京都育ちの横井軍平は、受験勉強的な意味では決して並外れて頭のよい人間ではなかった。名門・同志社大学に入学こそそれ、卒業時の成績はそこまで良かったわけではない。結果、就職活動をするもことごとく不採用通知を受け、当時は小さかった任天堂という京都のローカル企業に就職する事となる。
現在では任天堂というと世界有数のゲーム会社という印象があるが、この当時の任天堂は花札やトランプ、おもちゃを作っている地元の小さな会社でしかなかった(おまけに事業が失敗しており、多額の借金も抱えていた)
横井軍平も入社当初は暇を持て余しており、就業中の暇な時間を用いて自作のオモチャを作っては遊んでいる日々だったという。
そんなとき当時の社長である山内に、暇な時間中に作成したオモチャの凄さを見出された横井はそのオモチャを製品化するチャンスに恵まれ、そしてそれを商品として売り出す事となる。
こうして初めて製品化したウルトラハンドという、現在でいうところのマジックハンドのような商品が大ヒット。以降、横井は任天堂の開発部署に席を移し新しい玩具を創造する職へと移る事となる。
そしてしばらくした後、新幹線の中で電卓を使って遊んでいる会社員を見かけた横井は「電卓の液晶を用いて小さな携帯ゲームを作ったら売れるのではないか」というアイディアを思いつく。そして生まれたのがゲームウォッチという商品で、これがメチャクチャ大ヒット。
実はこの当時の任天堂はカード事業で大失敗しており借金で首が回らなかったのだけど、この商品が爆売れしたことで一気に息を吹き返す事となった。
この液晶からゲームを作り出すというアイディアを元にしてファミコン、そしてゲームボーイが生まれる事となり、任天堂は現在のような巨大ゲーム会社へと成長した。
今の子供達は知る由もないだろうが、任天堂がゲーム会社として成長できたのは、偶然以外のなにものでもなかったのだ。
枯れた技術の水平思考
ゲームボーイを生み出した横井軍平だが、彼が口を酸っぱくして言ってた哲学の一つに「枯れた技術の水平思考」というものがある。
横井は「ゲーム作りは面白ければよく、ハイテクが必要なわけではない。むしろ高価なハイテクは必要以上にお金がかかり、商品開発のじゃまになる。ごくありふれた安価な技術を使い、それをまるで違う目的に使うことによってヒット商品というものが生まれるである」と繰り返し繰り返し述べている。
これは実に示唆的な言葉である。例えば先に書いたゲームウォッチ制作秘話だと、当時ローテクであった電卓という、もともとは計算を早く行う為に生み出さされた液晶という技術を、横井は全く違うゲームという産業へと輸入し、そしてヒット商品を生み出す事に成功している。
先も書いたが、横井は新幹線の中で電卓で遊んでいる中年男性を目にして「ああ液晶を使ってゲームを作ることができたら、とてつもない商品が作れるかもしれない」という着想を得たという。これがゲームウォッチという商品の開発に結びついた。
液晶という、その当時ではありふれた技術を、それまで全く用いられていなかったゲームという媒体に転用した事が横井の最大の業績である。ここで最も重要な事は、横井自身は液晶の技術を生み出したというわけではないという事である。
横井自身は、学問としての最先端を切り開いたわけではなく、あくまで液晶の新たな可能性をアイディアから切り開いただけだ。それまでなかった技術を生み出すような頭のよさではなく、それまである技術を、全く新しい場所で活用したという事が重要なのである。
繰り返すが横井がゲームウォッチのアイディアを思いついた当初は液晶はその辺に普通にある、ありふれた安価な技術であり、決して学問的に最先端の技術ではなかった。
液晶という技術は最先端からみればありふれている安価な枯れた技術でしかなかったのだけど、その安価であるという利点を最大限に利用してゲームという当時全くかえりみられすらもしなかった産業に、それを投入したという事実に横井の非凡さがある。
これが「枯れた技術の水平思考」であり、僕達が勉強したほうがいいという理由でもある。ノーベル賞のようなものを見ていると、最先端にいられないのならば意味がないというよう風にみえてしまうけれど、実際は横井のように「枯れた技術を水平利用」さえできれば、任天堂のような世界的大企業を作ることができるのである。
子供に「なんで勉強しなくちゃいけないのか」と聞かれた時に僕がなんと答えるか
はじめの問いである「なんで勉強しなくちゃいけないの?この世には自分より頭のいい人がたくさんいるんだから、その人が勉強すればいいじゃん」という質問に対する僕の答えはこうだ。
「確かに学問として新しい道を生み出すという事であれば、世界最先端の頭脳を持つ人にしかできないかもしれない」
「だけど世の中には最先端では既にありふれた技術だけど、他の分野でまだまだ応用できる技術があり、それを用いれば凄いものが生み出せるという事に気がついていない人がたくさんいる」
「その技術が本当に凄いものなのかを理解して、君がそれを利用して新しいものを生み出せる為にも、勉強は必要なんだよ」
新たな学問の最先端ルートを切り開くのには、確かに最高の頭脳が必要かもしれない。だけど凡人である私達も、枯れた技術がどういうものであり、どういう分野に応用がきくかを理解する事さえできれば、それを別の場所に用いて新たな何かを生み出せるかもしれない。
今一度、任天堂を借金地獄という窮地から救いだした横井軍平の偉業を学び直そう。横井にはノーベル賞級の頭脳はなかったかもしれないが、ゲームボーイを生み出すという偉業は成し遂げている。そこにモノ作り国家である、日本の生きる道が隠されているはずだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
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「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
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・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
プロフィール
高須賀
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki