「評価の高い人」が会社を辞める時、会社には2つのショックが引き起こされる。
1つは業績面、できる人が辞めれば会社の業績に影響がある。
そして2つ目は精神面、できる人は皆の尊敬の対象であることも多く、連鎖的に退職者が出ることも想定される。
だから、「評価の高い人」をつなぎとめることは、会社にとって大きな課題の1つである。
だが、一般的に「評価の低い人」に比べて、「評価の高い人」は会社を辞めにくいと思われている。
確かにそうかもしれない。今の会社で評価されているのだから、敢えてリスクを取ってまで転職をする必要はない、と考える人も多いだろう。
だが一方で、「評価の高い人」は能力が高いことが多く、他社も欲しがる人材である。野心もあり、中には「起業したい」や「もっと良い条件はないか」と虎視眈々と狙う人もいる。
だから、「評価の高い人は会社を辞めにくい」と一概には言えない。
それどころか、「評価が高い人」が何かのきっかけで「辞めよう」と思った時、会社には深刻な危機が訪ているケースも少なくない。
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1年ほど前のことだ。「話がある」と、私は彼から呼び出しを受け、久々に飲みに行くことにした。
他愛のない話をした後、彼は言った。
「で、今日の本題ですけど、会社を辞めることにしました。」
彼はかなり会社では評価の高い人物のはずである。辞めるとは意外だ。このまま行けば、彼は間違いなく役員になれるはずななのに、何があったのか。
「友人が起業したので、そっちに行きます。」
と、彼はいう。
「何をするの?」と聞いた所、彼は「人材系のwebサービスをやるつもりです」と言った。
「それはおめでとう」
「でも、引き継ぎが大変なんですよね。社長が引き留めてくるし。」
「そりゃそうだよね。売上のかなりを作ってる人が抜けたらヤバいもんね。」
「まあ、そうなんですが……。正直、もうあの人とあまり仕事したくないんですよね。」
社長にあれほど厚い信頼を寄せられていた人物の言うこととは思えない。
「状況がよくわからないんだけど、なんでそう思ったの?」
「そうですね……社長は商売の天才ではあるんですが……。ちょっと会社がうまく行きだしたら、なんか考えが合わないっていうか、変わってしまったというか。」
「具体的には?」
「そうですね、いくつかあるんですが、まず大きいのは、カネのことばかり言うようになったことですかね。会社の立ち上げの時には大きな絵を描いていた人なんですが、最近は売り上げのことしか言わないんですよ。
挙句の果てには銀行から人を引っ張ってきて、管理をさせる、って言ってるんですよ。こっちは必死に仕事してるのに、バカバカしい。」
「あー、それよく聞くよ。」
「そうなんですよ。で、最近は自覚があるのかどうかわかりませんが、イエスマンで周りを固めるようになってきているんです。」
「それもよく見てきたよ。一度成功すると、それをホメてくれる人しか側に置かなくなるんだよね。」
「そうです。」
たしかに、私もそのような会社に、いくつも心あたりがあった。そして、そのようになっている会社は停滞することが多い。「売上」はわずかながら上がるが、「新しい価値」はもはや生み出されない。
そして会社が停滞すると、経営者はますます「売上はどうなった」とカネのことばかり言うようになり、社員がうんざりするのだ。
そして、過去の成功体験が染み付いているので、周りの言葉に耳を傾けることが無くなり、ますます社長は孤立する。そのような状態になると、社長はもはや、イエスマンにしか我慢がならなくなる。
結果的に、耳の痛い話をする人物を遠ざけた後に残るのは、孤独な経営者と、イエスマン、そしてモノ言わぬ従順な社員だけである。
彼は言った。
「会社がうまく行きだして、これから皆で頑張るぞ、って言う時に、なんで会社がバラバラになっちまうんですかね。」
「……。」
「粘って頑張ったんですがね……。商売がうまくいったら会社が分解するって、皮肉ですね。」
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「評価の高い人」が会社を辞める背後には、深刻な経営課題が潜んでいる場合が多い。そして、殆どの場合、その原因は従業員ではなく経営者にある。
野心から辞める人もいる。人間関係から辞める人もいる。だが、彼らの多くは、経営者のエゴチズムに我慢ならなくなった時、その場を去ろうと思うのだ。
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