最近「副業OK」の企業がとても増えてきていると感じる。

中にはサイドビジネス的な「副業」ではなく、パラレルワーク、すなわち複数の会社に出入りし、それぞれで働く 「複業」を推奨している会社もあるという。

 

副業がOKの会社

複業を推進していることでも有名な、リクルートキャリアの西村創一朗氏の記事には副業OKという会社が まとめられている。

社員の副業を認める会社が選ばれる時代へ。副業OK!な会社まとめ

「二兎を追って二兎を得られる世の中をつくる」をビジョンに掲げているHARESのミッションの一つが「副業禁止規定をなくす」こと。

例えば、記事中には以下のような企業が登場する。

・サイボウズ

・リクルート

・オプトホールディング

・メルカリ

・LIG

・アクセンチュア

・ソウルドアウト

・ビズリーチ

・Yahoo

・Google

・クラウドワークス

・フィードフォース

・トレンダーズ

・スマートニュース

また、所謂「伝統的な大手企業」である、 キヤノン、ブリヂストン、デンソー、花王、日産自動車、三菱自動車、富士通、東芝 なども「副業」を認めており、最近では「ロート製薬」が複業を認めてNHKに特集されるなど話題となった。

 

 

とはいえ、まだ副業禁止の企業は多い

しかし、 まだまだ日本においては「副業禁止」の就業規則を持つ会社のほうが圧倒的に多く、 「副業が発覚したら解雇もあり得る」と強気の姿勢を崩さない会社もある。

その影響なのか、「副業」が法律で禁止されていると勘違いしている人も数多くいるくらいだ。

 

さらに、上の紹介した複業OKの会社においてすら 「本音を言えば、副業に関しては思いは複雑です。」と漏らす管理職も多い。

例えば、上に挙げた会社のある部長さんは、 「会社としては複業推進、ということになってますがね。内心は歓迎していないですよ」 とはっきり言った。

 

また、企業によっては「副業」はおろか、社員の社外での活動にも制限をかける会社も多数ある。

例えばあるシステム開発企業ではコーポレートサイトの採用ページに掲載する社員の名前を偽名にし、 社員に外から声をかけることができないようにブロックしている。

さらに、外部での活動に際して、「社名を名乗るな」との圧力をかける会社も多数ある。

なぜエンジニアは勉強会で会社名を出せないのか

 勉強会や社外活動で社名どころか、決して本名すら名乗らない人を僕は何人か知っている。 とても悲しいことだと思う。後述するが、このような制限はエンジニアに死ねと言っているのと同義だ。

(@IT)

また、「うちの会社では、「機密漏洩防止」や「ブランド維持」という名目でSNSやブログでの何気ない発信であっても歓迎されません」 と述べる方も少なくない。

「社外での情報発信は、かなり監視されていて、Twitter上での発言を狙い撃ちする上司もいます。」

と、新宿で働くエンジニアの男性は言った。

 

現実的には、まだ圧倒的多数の企業が「社員に外の世界を見せたがらない」のである。

 

 

なぜ企業は「社員に外の世界を見せたがらない」のだろうか

さて、それではなぜ企業は社員を社内に閉じ込めたがるのだろうか。

よく言われる理由は

・機密漏洩が心配

・自社のために全力で尽くして欲しい

・人材流出が心配

の3つだ。

 

しかし、これらの理由は「終身雇用を前提として働いていた時代」の名残である。

企業が生活の面倒を全面的に支援するかわりに、社員はそのリソースのすべてを自社のために注ぎ込むという図式だ。

滅私奉公、フルコミット、なんと読んでも良いが、それらと「社員に社外を見せないこと」は相性が良い。社外と情報交換せず、自社の仕事しか見ず、そして、全面的に自社に依存する人材は、コントロールが簡単だからだ。

したがって、副業反対派はいつも「社員を自社に囲い込んでおかないと、企業としての競争力が保てなくなる」と言う。

 

だが、それは単にマネジメントの稚拙さを表明しているに過ぎない。「操るのが簡単な従業員がほしい」と言っているだけだ。

 

 

知識労働のパフォーマンスの向上には「多様な人々との付き合い」が重要

だが、終身雇用はすでに過去の遺物だ。

そして「とにかく上司の言うとおりに滅私奉公する人」は高度な知識産業にとってはすでに不要である。

逆に重要性が増したのは「アイデアと人脈、専門的知識を活かして仕事をする人」だ。

 

カーネギー・メロン大学のボブ・ケリーは、「花型研究者(スター)」と「平均的研究者」の違いに着目し、なにが違いを生み出すのかを統計的に研究した。

平均的な研究者は世界を自分の観点からしか見ようとせず、ずっと同じ観点で考えてしまう。 一方スターはというと、広範囲な立場の人々を自身のネットワークに含めており、自分以外にも顧客やライバル、マネジャーの視点から物事を考えることができる*1

*1

パフォーマンスを向上さえるためには「多様な人々との付き合い」が重要であることを、有能な人々は皆、知っている。

当然彼らは「副業禁止」「社外交流禁止」などのルールは「古いムダな慣習」程度にしか考えていない。

 

では企業は「有能な人材」をつなぎ留めておくため、しぶしぶ副業や社外交流を認めざるをえないのだろうか。労働者と企業の利害は根本的に相容れないのだろうか。

 

実は、そんなことはない。社外を見せることは、企業にとっても大きなメリットがある。

 

私の知るwebサービス業の経営者は「副業させると、本業の成績も上がる」と言う。彼の副業を推進する主な理由は以下のとおりだ。

・必要な知識をすべて社内で賄うのは不可能だから、社外で知識を調達して欲しい

・イエスマンがいなくなる

・経営者視点が持てる

・ぬるい社内の馴れ合いを防げる

その経営者は

「「工業化社会」の自前主義、階層化、標準化は過去のもの。「知識経済社会」はオープン、フラット、そして、多様性が重要だ。」

と言う。

 

世界最大のビジネスSNSであるリンクトインの創業者、リード・ホフマンは、著書*2の中で、次のように述べている。

終身雇用では、マネジャーも社員も社内に集中することがよしとされた。マネジャーは社員に効率的に職務を遂行させることに全力を挙げ、社員は社内で昇進することだけを考えた。

ところが、一度終身雇用モデルが崩壊し始めると、このような内向きの姿勢は自滅的な自己陶酔となってしまった。

今や、会社も社員も社外に目を向け、自分がどのような環境の中で仕事をしているのか全体像を掴んでおく必要がある。

(中略)

会社は、社員に仕事上のネットワークを広げる機会をつくって彼らのキャリアを一変させるサポートをする。社員は、自分のネットワークを使って会社を変革する手助けをする。まさに会社と社員の提携関係だ。

(中略)

情報源として、社内の頭脳だけに頼るようではダメなのだ。社外に存在する優れた頭脳は、社内より多い。健全な経済エコシステムでは、これは常に真実だ。

経営幹部の大半はこの事実を理解している。だからこそ、経営判断をする際は少しでも役立つ情報を求め、業界の「自分の」友人にわざわざ連絡するのだ。はじめからそのような習慣を持っていたことが、幹部にまで出世できた一員なのだろう。ところがそんな経営幹部でも、より広く有用な情報源に目が行かない人が非常に多い。それは、新人まで含めた「すべての」社員の知識とネットワークという情報源だ。

社員一人ひとりを、外の世界から情報を仕入れてくる「偵察員」だと考えてみてはどうか。

 

例えば、社外の人と働くことは、スキルアップにとってとても貴重な機会だ。一社の仕事だけではとかく「タコツボ化」しやすいため、継続的に外部の人間と仕事することで、様々な知恵と出会うこともできる。

もちろん社外の勉強会、あるいは「転職活動」ですら、社外の人たちと会い、議論し、新たな知見を手に入れるチャンスの1つである。

 

すでに「知識経済社会」は到来している。あなたの在籍する会社は、オープンで、フラットで、多様性にあふれているだろうか?

社外との交流は歓迎されているだろうか?副業はOKだろうか?

そうでなければ、身の置き所を再考してみる必要があるだろう。

 

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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)

 

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