現代は、「人の能力」が最も貴重なリソースだ。Webが世界中の知識を蓄えているとは言え、本当に重要な知識はWeb上にはなく、卓越した人材の頭のなかにある。
従って、いずれの組織においても、有能な人材の獲得に力を入れざるをえない。
だが、「有能な人材」は決して数多いわけではない。特にベンチャー、中小企業が有能な人材を獲得することは非常に難しい。
彼らは、より大きなチャンスを求めて、大企業にとどまり、あるいはより成功する見込みの高い企業を渡り歩く。
普通の中小企業が有能な人材を外部から獲得することは非常に難しい。
従って、99%の「普通の」会社に残された道は、「自社で人を育てること」である。
「人を育てること」が出来た企業が大きな成果をあげることができる。
しかし、使い古された言葉である「人材育成」に成功する会社もまた少ない。
多くの会社では研修を提供したり、OJTを通じてスキルを身につけさせたりと工夫するが、結局、「本人のやる気次第」という言葉で片付けられる。さらには、新人のときはあれほどのスピードで成長したのに、10年たった今、成長が止まってしまっている、という嘆く人も多い。
それに対して、一定の解を与えようと試みた本が、「究極の鍛錬」である。
この本の主張は明快だ。能力を向上させるために行わなければいけないことは「経験」でもなく、「才能」でもない。
「練習」であるという。
”卓越した能力をもたらすものは経験ではない。長年取り組んでいることで大した業績を上げず、経験だけは豊富な人が周囲に多くいるし、実際多くの分野で何年にも渡り携わっていることでむしろ能力が下がっている人がいるという証拠もある”
さらに、
”卓越した能力は生まれつきの特定の能力によってもたらさせるものではない。たとえいくつかの生まれつきの能力があったとしても、優秀さを決定づけるものでもない”
さらに、著者は実例として
アメリカンフットボール史上、最高のワイドレシーバーとして知られるジェリー・ライスがなぜ卓越した選手になれたのか、を分析する。かれを卓越した存在としたものは
1.実戦ではなく、練習であった
試合に費やした時間に比べ、練習に費やした時間は100倍以上だった
2.特定の課題を解決するために、特別の練習を考案する
3.つまらなさに耐える
また、その事例が一般に適用出来るかどうかを検証するために、バイオリニストについても同様の研究を行っている。
そして、バイオリニストにおいても一流と二流を分けるものは、「圧倒的な練習時間」であった。
これは、タイピスト、電報のオペレータ、植字工など、いわゆる「仕事」においても、科学的な調査から同じことが言えるという。
結論はこうだ。
”達人と素人のちがいは、特定の専門分野で一生上達するために、考えぬいた努力をどれだけ行ったかのちがいなのである”
そして、それは”習うより慣れろ、という「練習すればうまくなる」という考え方ではなく、むしろ高度に具体化された究極の鍛錬という考え方に基づいている”
という。
「究極の鍛錬」の条件は以下のとおり。
1.実績向上のために、特別に考案されている
業績を上げるのに改善が必要な要素を、鋭く限定し、認識することが求められる。これにはしばしば教師の手を借りることが必要となる
2.何度も繰り返すことができる
相当な数を繰り返すことで、改善が行われる
3.結果へのフィードバックが継続的にある
「自分の何が悪いのか」が明確にわからない限り、上達しない
4.精神的にはとてもつらい
とても高い集中力を必要とするため、究極の鍛錬の練習時間は一日に4~5時間が限界である。「こころをこめて、練習しなければならない」
5.あまりおもしろくない
不得手なことにしつこく取り組むことが求められる。一回繰り返すたびに、どこが悪いのか指摘を受ける。これは全く楽しくない。
これを原則として採用するならば、企業における人材育成を、「一般的な研修」で行ったり、「フィードバックを個別に行わない」であったり、習熟の度合いを「練習に費やした時間」で測ったりすることは全くのムダであるということである。
まだまだ、人材育成に関しては工夫の余地が残されているということなのだろう。
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