「ウチの部下、すぐに言い訳して、何も動かないんです……どうしたら、素直に動けるようになりますかね?」
と、彼は悩みを吐露した。
かつて私が人材育成のコンサルタントをしていた頃、上のような悩みを持つ管理職は非常に多かったと記憶している。その中で特に深刻だったのが彼のケースだ。
彼は事業会社からの転職組で、前の会社でのプロジェクト経験を買われ、マネジャーとして今のポジションに招かれた。
だが、転職後、彼は大きな壁に突き当たる。自分の指示が、きちんと実行されないのである。彼はその原因を、「素直ではない部下」に置いていた。
「1つ指示を出しますよね、すると必ず反論されるんです。それは効果ないと思います、無駄だと思います、って。それに対して、いや、やって見なくちゃわかんないだろう、というと、しぶしぶ動くんですけど、まあそんなんですから、だいたい上手くいかない。」
よくある対話不足なのではと思い、
「彼らに意見を出してもらったらどうですか?」
というと、
「もちろん、上から言われるのが嫌なのだと思って、話を聞くようにしたんですよ。どうしたいのか、どうすればいいと思っているのか。ところが、彼らに聞いても意見は特にないんですよね。ため息出ちゃいますよ。」
と答えていただいた。
確かによくわからない。
とはいえ、彼が困り果てているので、私は部下の一人に話を聞いた。このような時は、双方から話を聞き、何が起きているのかを客観的に知る必要がある。
何名かと面談し「チームの状況について、どう思いますか?」と質問する。
すると、ある部下がいう。
「うまくいってないです」
「何故そう思ったのですか?」
「成果出てないですし、雰囲気も良くないです」
「原因はなんだと思いますか?」
「ウチのマネジャー、頑張ってるんですけど……」
と、口ごもる。あからさまに上司への批判をすることには抵抗があるようだ。
だが、じっくり聞くと、彼は言った。
「マネジャーとは、考え方が合わないんですよ」
「具体的に、どこがですか?」
「現場を知らないっていうか、前の仕事で効果があったことをやらせようとするんですが、そのままやっても上手くいかないですよ。指摘しても全く聴いてもらえなくて……。」
「いままでのやり方の方がいいですか?」
「いえ。変えないといけないのはわかってます。要するに、行き詰まってるんです。」
つまり、マネジャーの新しいやり方には納得いかないが、アイデアはない、という状態である。
気持ちはわからないでもないが、このままでは何も進まない。
私はマネジャーに部下の意見を告げた。
「私が部下の意見を聴かない人物だ、と思われているんですか。」
マネジャーは驚いたようだった。
「聴くようにつとめていたんですが……」
幸いなことに、マネジャーは柔軟な思考をする方だったので、これを受けて本質的な課題は、部下の素直さではない、とすぐに認識していただいた。
そして、マネジャーは一計を案じた。
「多分問題は二つあって、1つは私がまだ「よそ者」と思われていること。あと1つは良いアイデアがないことです。この二つをいっぺんに解決する方法が必要なんですよね。」
「どうするつもりですか?」
「まあ、見ててください。すぐに結果を出そうと焦って、大事なことを見落としてました。」
そして後日。訪問すると、チームの様子はすっかり変わっていた。
まだぎこちなさは残るが、マネジャーとメンバーの協力関係が出来上がりつつある。マネジャーの指示も、実行されているようだ。
「何をしたんですか?」とお聞きする。
マネジャーは言った。
「まず、ちゃんとメンバーに素直に謝りました。「きちんと施策が実行されないのは、素直じゃないメンバーのせいだ」と思っていましたから。それは改めようと、「施策が実行されないことを、あなたのせいにしていた。申し訳ない」と正直に伝えました。そしたら、メンバーたちも話す準備ができたようで。」
「それは良かったですね。」
「はい。ただアイデアは依然としてありませんでしたから、そのまま突き進んでもまた信頼を失ってしまうでしょう。だから少し工夫しました。」
「工夫とは?」
「大したことじゃないんですが、私のアイデアを思う存分、批判してもらったんです。ここがダメ、あれがダメと。」
「今までと同じじゃないですか?」
「いや、前はそこで、「じゃお前らの意見はどうなんだよ」って、私がケンカ腰になってたんですよ。今回は私がとことん、アイデアを出しました。じゃあこれはどうだ、あれはどうだってね。すると、中には「OK」もあるわけです。そしたら皆で行動できる。」
「なるほどー。たしかにそうですね。」
「本当は、素直じゃなかったのは私の方だったんです。で、先に私が素直にならなきゃって思ったんですよ。」
相手の素直さは、変えようのない性質ではない。むしろ、
「相手の素直さは、自分の素直さの写し身」
という事実に、気付きさえすれば良いのだ。
「素直じゃないやつだ」と相手のせいにしない「素直さ」を、彼のように身につけたいものだ。と思う。
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