「何も話すことがない・・・」
筆者が医者になってまず面食らったのは、日々会う膨大な数の患者と、何を喋ればいいのかがサッパリわからなかった事だった。
日々刻々と入れ替わる入院患者+外来で出会う人達。初めの1人とくらいなら「今日はいい天気ですね」でいいけども、さすがに全員にそれをやるのは気がひけた。
僕はどちらかというと人と話すのはそんなに嫌いじゃない人間だ。なので漠然と、医者になってからも患者との会話には困らないだろうと思っていた。けれどそれは、とんだ間違いであった。日々出会う患者の数は、想像以上に膨大だった。
何らかの身体の不調を抱えて病院にやってきているわけだから、病気についての会話は滞りなく行える。だが、いわゆる人間味のある会話が全くといっていいほどできない。どうすれば出来るようになるのか、皆目検討がつかなかった。
そもそも患者さんとは病気という機会がなかったら、全く縁がなかった人達である。そういう人と打ち解けて会話ができるようになるのは、日常で必要とされるコミュニケーション能力とは随分異なった技能なのではないか、という事には薄々とは理解していた。だけどどうすればいいかは暫くの間、全くわからなかった。
結局、その後ずいぶんと長い間、患者さんとの会話が苦手だったのだが、とある小児科医の患者診療を通じて、僕は割と誰とでもうまく話せるようにとなった。今日はその話をしようかと思う。
小児科医はアンパンマンが必須教養
小児科病棟を回ってまず驚いたのが、そこらに溢れんばかりに存在するアンパンマンだった。
はっきり言うけど、子供は医者が嫌いだ(大人だって好きではないだろうが・・・)診察室に入ってくるなり、泣き出す子供もかなりいる。
そんな中、大活躍するのがアンパンマンである。医者の顔をみるのが嫌な子供も、アンパンマンは大好きだったりする。
「アンパンマン、かっこいいよね」
この魔法の言葉でサクサクと子供の意を掴んでいく先輩小児科医の姿に僕は深く感動した。つまり図解するとこうなる。
・子供×小児科医=(´;ω;`)
・子供×アンパンマン×小児科=(⌒▽⌒)
間にアンパンマンが挟まれるだけで、この変わりっぷりである。アンパンマンは偉大だ。今日も全国の小児科でバリバリ大活躍している事だろう。
こうして僕はアンパンマンの八面六臂の大活躍にかなり衝撃を与えられたのだが、考えてみると僕達大人もこういう事は多々ある。気難しいと思っていた人と、好きな作家が同じだとか、野球の応援しているチームが同じだとか、そういうしょうもないキッカケを通じて、思いがけない人と仲良くなる事なんてよくある事である。
「仲良くなるためには、共通の知識を持てばいいんだ」
こうして年代別にある程度役に立ちそうな知識を触りだけでもつかんでおくことが、人とのやり取りで非常に有用だという事を僕は深く理解する事となった。
価値観に同意を示すだけで驚くほど人間関係がうまくいく
そして小児科診療を続けていくうちに、僕はアンパンマンから卒業した子供たちと、この小児科医がどういう風にうまくやっていってるのかについて興味を持つようになった。
当たり前だけど、アンパンマンがずっと好きな子供は比較的稀だ。成長するとともに、その後、男の子はサッカーとか妖怪ウォッチを嗜むようになったり、女の子はアイドルやプリキュアが好きになる。
ある程度の年齢にもなると、子供も結構専門家顔負けの知識量を誇るようになる。小さい頃なら「アンパンマンかっこいいよね。ドキンちゃんかわいいよね」程度の簡単な知識量ですんでいたが、成長した子供はそんな浅薄な知識で気をひこうとしても、かえってこちらが見下されることにしかならない。
「妖怪ウォッチが好きなの?俺もジバニャン知ってるよ」
こういう中途半端な知識のひけらかしは本当によくない。こういう時子供は「何だこいつ・・・俺の方が全然知ってるし」と思っているものである。
では件の小児科医はどうしていたのか?まさか小学生に負けないようにせっせと妖怪ウォッチを全話みるわけにもいくまい。彼はある日診察室を訪れた男の子とこのような会話を繰り広げた。
「Aくんはなにが好きなの?」
「妖怪ウォッチ!」
僕は次に彼が何をいうのか、期待に胸を鳴らしていた。すると彼はこう話しかけた。
「へー?妖怪ウォッチが好きなの?みんな妖怪ウォッチいいっていうよね?僕はあまり詳しくないから教えてほしいんだけど、どういう所が面白いの?」
その次に、この子供が浮かべた嬉しそうな表情は今でも覚えている。彼は拙い言葉で妖怪ウォッチの面白さについて語りだした。そしてそれを一通りニコニコと聞いた小児科医はこういった。
「ありがとう。面白かったよ。よく知っているね。」
ここで診察終了である。子供はニコニコとして病院を後にした。
この何気ないやり取りを分析した後に、僕は彼の会話テクニックに驚愕した。なぜならこのやり取りは、形を変えて全てに通用する技だったからだ。
上の妖怪ウォッチをプリキュアに変えるだけで、この会話は同様に成立する。現にこの小児科医はその後もサッカー、野球、プリキュア、ポケモンカードと様々なジャンルを愛好する子供たちを一様に手なづけて、診察を円満に終了されていた。
この手法の何が優れいてるのか?これを大人に置き換えて説明するとこうなる。
あなたの目の前に外国人がいたとする。何かの拍子であなたが日本人だという事を彼が知り、もしこう言ったらあなたはどう思うだろうか?
「フジヤマ!ゲイシャ!スキヤキ!」
なんとなくだけど、イラッとくるのではないだろうか?むこうは多分、わたし日本の事知ってるよという事をアピールしたいのだろうけど、こういった中途半端な知識は大体裏目にでる。
逆にこう言われたらどうだろうか?
「ああ日本の方なんですね。日本はとてもいい国だと聞いています。よかったら日本のどういうところが素敵か、私に教えてもらってもいいですか?」
これだと不快に思う人はかなり少なくなるはずだ。
つまり相手の所属する価値観に対して、自分が好印象を抱いている事を示し、そしてそれについて相手を敬いつつ教えを請うというスタイルは、自分から喋る事なしに、相手が勝手に色々喋ってくれるという魔法のテクニックなのである(その話をキチンと聞くことで、相手がこちらに好感を抱いてくれたりもする。一石二鳥である)
またその後も某小児科医の診察をみていて、彼が全員にこのテクニックを用いているわけでもないという事もよくわかった。自信満々で喋りたがりな子供には上のような質問を投げかけるのに対して、うつむきがちな女の子などには、可愛い服着ているねといった持ち物や所作を褒めるにとどめ、必要以上にしゃべらせる事はなかった。
これがまた絶妙な手法で、持ち物を褒めるという事も、相手の価値観の肯定になるのである。
「そうか。共有の話題がないならないで、相手の価値観が現れるモノを褒めるようにすればいいんだ」
このことに気がついてから、僕は随分と外来が楽になった。疲れた顔をしている人には「今日はひょっとしてお疲れですか?」といい、いい時計を身に着けている人には「その時計、凄くかっこいいですね」という。
こんな単純な事で結構、人は気分がよくなり、そして勝手に色々話してくれるものである。それを肯定的に聞くだけで、相手がこちらにいい印象を抱いてくれる。こうして僕の患者嫌いは随分と緩和される事になった。
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長くなったので最後にまとめよう。あなたがもし、目の前の人との会話に困ったとしよう。そういう時は
1.共通しそうな話題がありそうならそれを探り、いいですよね、といえばいい。
無いなら
2.相手の価値観につながるものを褒めればばいい。
これだけで随分と会話がしやすくなるはずだ。
これは逆を考えればわかりやすい。全く共通する話題がなく、また何を話しても否定しかしてこないような人間と、果たして仲良くなれるだろうか?
会話もしっかり分析してみれば、大切なのはこの2つの要素に集約されるのだ。
子供も大人も、会話の基礎はかわらない。この2つの単純な原則を遵守するだけで、会話の7割ぐらいはうまくいく。ぜひうまく活用して欲しい。
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著者名:高須賀
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