日本社会で一番活躍しているのは、働き盛りのオジサンである。

その一方で、日本で一番嫌われているのも、もしかしたら「オジサン」かもしれない。

 

なぜ「オジサン」はイメージが悪いのか?

若い女のひとりであるわたしが、ちょっと考えてみた。

 

日本の大黒柱「オジサン」は嫌われている?

「オジサン」について書くのであれば、まず「オジサン」を定義する必要がある。

わたしはいま26歳で、親は50代半ば。わたしとしては、「自分より親と年齢が近い人」を「オジサン」と定義したい。つまり、40代以上で定年を迎える60歳以下の男性だ。

この年齢は、世間一般のイメージとも合っていると思う。

 

さて、日本を動かしているのは、このオジサンたちである。

オジサンと同年代の女性の多くは寿退社しているだろうから、必然的に管理職ポジションにいるのは男性、そしてオジサンである。(日本に女性管理職が少ないのは周知の事実だ)

 

ところが、日本の大黒柱であるオジサンは、なんだかイメージがよくない。

オジサンの典型的なイメージといえば、高圧的だとか頭が硬いだとか、説教が好きで古い武勇伝にしがみつくだとか、女に酌をさせたがるだとか顔をおしぼりで拭くだとか、あげくの果てに下品でクサイだとか、とりあえずポジティブな言葉は浮かばない。

 

メディアでは、オジサンは時として若者を追い詰め足を引っ張る戦犯のように扱われるし、パワハラ・セクハラの加害者は往々にしてオジサンである。

日本で一番活躍しているのは「オジサン」であるはずなのに、さんざん否定されているのもまた、「オジサン」なのだ。

 

オジサンは本当に若者の敵なのか?

でも、なんだかおかしい。

わたしのまわりには、そんな極悪非道なオジサンは、まったく存在しないのである。

 

一番身近にいるオジサンであるお父さんは、ノリが良くて冗談も通じるし、オシャレだし、博識だし、ドイツにいる娘のために自撮りをするお茶目な人だ。

お父さんの仕事仲間のオジサンたちと何度か食事に行ったことがあるが、例外なくユーモアがあって頭がよく、気さくだった。

 

最近は仕事でオジサン(と表現するのは失礼だろうが)と一緒になる機会も増えてきたのだが、どの人もとにかく優しい。

知識や経験のないわたしの話をちゃんと聞いてくれるし、必要となれば現実的なアドバイスをしてくれる。

 

頭ごなしに「ダメだ」と言ってくる人や、理不尽で横暴な説教をしてくる人、若いときの武勇伝をダラダラ話してくる人、酒を勧めてくる人もいない。

むしろ「最初は大変ですよね」「僕も昔は苦労したので気にしないでください」「記事おもしろいです」なんて、優しい言葉をくださる方ばかりだ。

 

もちろん、わたしが幸運で出会わなかっただけで、典型的な頭の固い説教オジサンもいるだろう。でもそういう人は、年齢や性別に関わらずどこにでも一定数いる気がする。

あれ? じゃあ、若者の敵ともいえる「オジサン」は、どこにいるんだろう?

 

「オジサン」は中年男性ではなく概念である

若者の宿敵である「オジサン」とは、いったいどこのだれのことなのか。

こういった文脈で使う「オジサン」という言葉は、「この年代のこういう男性」という具体的な人を指すのではなく、もはや概念なのだと思う。

 

朝から晩まで働いて、結婚してマイホームを買うことが当然とされた時代。

残業はあたりまえ、上司は男の部下を怒鳴るし、女の部下に酌をさせる。飲み会は仕事の一環であり、年齢による絶対的な序列主義。

 

昭和的(とまとめていいのかわからないが)な価値観は、いまの社会には合わない。

現在ではワーク・ライフ・バランスが大重視されるし、結婚するかどうかは自由だし、マイホームを買える経済的余裕がない人も多い。

怒鳴ればパワハラ、酌をさせればセクハラ、飲みを強要すればアルハラになる。

 

時代は変わった。

でも社会の価値観はなかなか変わらないし、変化した価値観に柔軟に対応できる人ばかりではない。

 

わたしはそういった、自分にとって都合の悪い昭和的な価値観を凝縮したイメージ像を、「オジサン」という言葉になすりつけていたんだと思う。

 

都合の悪い価値観をまとめて「敵」にする

それは、「これだから若者は」論と同じ構図だ。

 

わたしたちゆとり世代は、オジサンたちの決定でゆとり教育を受けたのに、さんざんな言われようだった。

ヤル気がない、根性がない、付き合いが悪い、礼儀がなっていない……

 

そして結論として、「若者はやっぱりダメだ」というレッテルを貼られる。

ゆとり世代のひとりとして、そういう論調を見るとちょっとムっとしそうになるが、よく考えてみれば若者が「オジサン」を否定するのとたいしたちがいはない。

 

わたしたちが昭和の価値観を「オジサン」に押し付けて批判しているのと同じで、理解できない新しい価値観を「若者」に押し付けて批判しているだけなのだろう。

 

今回はオジサンと若者という構図を使ったが、たとえば女と男でも同じだ。

「男はどうせ浮気する」「女は感情的で話にならない」なんて言われたりするけど、浮気する女もいるし、感情的な男もいる。

それでも「男だから浮気する」「女だから感情的」だということにすれば、うまいこと相手のせいにできる。

 

「オジサン」にしても「若者」にしても、「男」にしても「女」にしても、自分に都合の悪い価値観を否定して自分を正当化するための、「仮想敵」なんじゃないかと思うのだ。

 

「オジサン」は、わたしが勝手に作り上げた実在しない敵

わたし自身、多少なりともオジサンに対して「古い価値観を押し付けてくる厄介な人たち」というイメージを持っていた。

オジサンにひどいことをされたわけではないし、むしろ優しいオジサンに囲まれているにも関わらず、だ。

 

それはたぶん、わたし自身に「古い価値観を押し付けられたくない」という願望がまずあって、敵となりうる典型的な人物像を「オジサン」に当てはめていたのだと思う。

でもその「オジサン」は、わたしが勝手に作り上げた実在しない敵だ。

少なくともわたしは、「オジサン」というネガティブな言葉のイメージに合うような、古臭いオジサンに出会ったことはない。

 

自分のイメージが先行して都合のいい敵をでっち上げ、攻撃の対象にする。

そういったことは、多くの人の心のなかで無意識に起こっているのかもしれない。

 

自分が否定したい価値観を、だれか・なにかに押し付けて、勝手に敵を作り上げてはいないか?

存在しない敵を相手に戦おうとしていないか?

 

いま一度、考えてみるといいかもしれない。

 

 

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【プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

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(Photo:tokyoform)