一般的に、ここ数年で最も目立ったAIに関するニュースは、Googleの開発したアルファ碁がプロのチャンピオン棋士に勝利したということ、そしてIBMのワトソンというコンピュータが、アメリカのクイズ王に勝利したことでしょう。
アルファ碁、最終局も制す 最強・李九段に4勝1敗(朝日新聞)
コンピューターは“ヒト”になれるか(前編)、IBMワトソンがクイズ王に勝てた理由(日経トレンディネット)
ですが、これらの実績は、確かにトピックとしては面白いですが、AIという技術の本質については、ほんの一部の可能性を見せただけ、と言っても良いのではないかと思います。
IBMやグーグルの技術にケチをつけるわけではないですが、はっきりいうと、まだこれらのAIと呼ばれるプログラムは「よくできた探索プログラム」の域を超えてはいないと言えます。
なぜそう言えるのでしょうか。
たとえば「ジェパディ!」というクイズ番組で勝利したワトソンですが、勝負においては、明らかにコンピュータが有利な条件で勝負がなされているのです。それは、問題文全文が与えられている、という条件です。
クイズは司会者が問題文を全文読み上げてからの早押し形式で行われる。問題文はほとんどが短文あるいは数個の単語であり、日本のクイズ番組で見られる「日本で最も高い山は何でしょう?」といった質問文形式ではなく、「これは日本で最も高い山です」といった事実の形で書かれている。(Wikipedia)
アルファ碁も同じです、相手の手が見え、すべての情報がコンピュータの手に入った状態での勝負です。
ですから、単純により多くの知識を蓄え、計算能力が高い方が勝つのは当たり前です。「よくできた探索プログラム」と言うのは、そのためです。
実際、IBM東京基礎研究所の森本所長も、上の日経トレンディネットの記事でこう触れています。
ちなみに裏話をすると、Watsonがクイズ王にまず絶対勝てないタイプの問題というのがあるんです。どういう問題が絶対勝てないタイプかというと、「問題文が極端に短いもの」なんです。
富永: ヒントが少ないから。
森本: ヒントが少ないこともあるんですが、もっと単純な理由です。日本の早押しクイズだと司会者が問題文を読み上げている最中にボタンを押すのですが、この番組では解答者の一人がジャンルボードから選んだ問題が表示されると司会者がこれを読み上げ、解答者は司会者が問題を読み終わったあとに早押しで解答します。
そうすると勝てないんですよ。人は直感的に解答できることを分かったうえで早押ししますが、Watsonは計算する時間を1秒ももらえないので、ほぼ100%、人間のクイズ王が答える。
医療分野のAIも、検索エンジンも、サイト分析のAIも、その点では等しく「よくできた探索プログラム」といって差し支えないでしょう。
しかし、森本氏が触れているように、人間の知性というのは間違いなくもっと高度です。
たとえば、次の動画をみてください。かつて日本で行われた「伝説」と呼ばれたクイズ番組のチャンピオンのパフォーマンスを示した、数秒の動画です。短いので、ぜひみて下さい。人間の能力に驚嘆するはずです。
彼の圧倒的な凄さは、問題文の最初の数文字で、正解を強烈な推論で導き出している点です。
どうしてこんなことができるのか?
このクイズの最初はアマゾン川で……から始まります。
彼はこれを聞いた瞬間、推論します。
問題文にはこんなパターンもあるはず
アマゾン川に…
アマゾン川が…
アマゾン川は…
アマゾン川で…、で始まり、クイズになるような事象はポロロッカしかない、と。彼はその推論にかけ、驚くべきスピードで解答をするのです。これが、人間の知性の本質的な凄さです。
しかし疑い深い方は、「いやいや、こんなことができるのは、チャンピオンの彼一人で、特殊能力だろう。人間の知性と言うには特殊すぎる」という方もいるかもしれません。
しかし、これは特殊能力ではありますが、彼一人しかできない。というわけではありません。
たとえば、BSスカパー!の番組で、BAZOOKA!!!という番組があり、そのコンテンツの1つに「地下クイズ王決定戦」という番組があります。
こちらは「番組のスポンサーがいない」という特性をフルに活かし、「北朝鮮」「薬物」「殺人鬼」「宗教」など、地上波では扱いにくいテーマをクイズにしよう、というハッチャケた番組です。
そして、この番組の出場者は、上の映像のクイズ王と同じような、いや、それより更に高いパフォーマンスを見せます。(参考:第5回地下クイズ王決定戦”座談会”での能町みね子さんの発言より)
例えば第二回クイズ王決定戦で、「北朝鮮国内で……」という問題が流れた瞬間、出場者の渡辺氏はボタンを押します。
そして彼は
「チョコパイ!」と叫びます。
正解です。
周囲も唖然。
この正解のスゴさは、渡辺氏が「北朝鮮国内で」という僅かな情報から
「これはクイズ番組として面白い回答になるだろうか?」
という極めて高度な推論によって正解にたどり着いている点にあります。
単なる正解を導くだけではなく、「このクイズ番組を見ている人にとって面白い正解」になるような回答をしているのです。
これは我が社が開発する大喜利をする人工知能の機能に通じるところがあります。
「人の意識」や「主観」を推測し、現実をうまく切り取って「予断」すること。
これはクイズ番組だろうと、大喜利だろうと、絵画などの芸術の世界だろうと、文学だろうと同じです。
この「予断」する能力こそ、現在の「探索するAI」には存在せず、我々が作ろうとしているAIの本質的な機能なのです。
*竹之内がやっているのは、地下クイズ王のお一人「しみけん」さんの早押しクイズの構え、「フォロースルー」のモノマネです
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