先日、メールマガジンを長年運営しているという方にお会いした。

メールマガジンというと古いイメージがあるが、実際にはまだまだ需要はあるとのこと。彼は会社員でありつつ、個人でメールマガジンを運営し、それなりの規模まで育てている。

 

そんな彼と話したとき、一つ悩ましいことがあると教えてくれた。

「メールマガジンの運営と集客ののコツを教えてくれ、と私のところへ来る人が結構いるんですが……一つ、悩ましい、というか困ったことがありまして。」

「どんな話ですか?無料でノウハウを教えてくれ、とか?」

「いやー、無料で教えるのは別にいいんです……10分、20分、自分のやっていることを伝えるだけですから。私も立ち上げに苦労しましたから、気持は良くわかります。だから「こうすればいい」は簡単に伝えられるんです。」

 

とてもいい人である。

「お金の話ではないのですね。」

「いやー、別にこれで稼いでるわけじゃないので。読者の方へのサービスと思ってやってます。ただ、ノウハウをお伝えするとあまりにもシンプルなので、まあ大抵「え?それだけですか?」という顔をされますけど。」

「例えば?」

「読み手をイメージしているか?とか、配信の頻度は月2回程度でも十分、出す前に誰かに読んでもらえ、とかそんな感じのことです。まあルールとしては20個位ですかね。」

 

確かに普通かもしれない。でも大事なことだ。

「結局普通のことをやるのが重要なんですね。」

「そうです。当たり前のことを、改善しながらしつこくやるだけなんですけどね。こう言うと、みなさん大体「そうですよね」と言ってお帰りになります。」

「別に悩ましい、というわけではなさそうですが……。」

彼は溜息を付いて頷く。

 

「ここまではいいんです、後は実行するだけなんですが……やらないんですよね。殆どの人が。」

「教わったことを実行しないということですか?」

「そうです。もちろん「教わったけど自分には合わないな」とか「ちょっとイメージとちがうんでやめた」っていうのなら私も納得です。私のノウハウが響かなかった、というだけですから。こっちとしては出来る限りのことを教えたので、まあ後は好みの問題です。」

「それでは、何が困るんですか?」

「いやー、それなんですけど、その後1、2ヶ月して「また教えてくれ」って同じ人が来るんですよ。「どうもピンとこないので、もう一度ディスカッションさせてください」と。」

「ほう。」

「こちらとしては、やらなければならないことを既に全部伝えているわけです。だから、これ以上特に話すことはないんですよ。それでも「今考えていることを話したい」って言うんです。」

「そしたらどうするんですか?」

「こっちも彼らの考えていることの妥当性なんてわかりません。だから「実行してみては?」というんですが……。アドバイスが欲しい、の一点張りでして。」

「……なるほど」

「とりあえず自分でやってみて、どこがやりづらいとか、困ったとか、実際に作ったものを見てくれとか、そう言った具体的な質問なら答えられるんですが……。」

「確かに……。」

「もちろん、それぞれに事情があるでしょうから、それは察します。でもやはり、手を動かしていない人には、アドバイスのしようがないんですよ。」

 

——————

 

確か、ブロガーの方々と話をした時にも、同じような話題があった。

 

それなりにブログが読まれてくると、

「ブログをやりたいのですが、やり方について教えてください」

という方がちらほら来るのだそうだ。

自らを「ブログコンサル」と名乗り、そう言った方々からお金を集める人もいるようだが、大抵の人は無料でアドバイスしているという。

 

ブロガーの多くの方は

「まあ、良い記事をコンスタントに出すだけですよね」

と言う。

「でも、そう言うと「良い記事ってどんな記事ですか?」という質問と、「ネタはどこから持ってくればいいんですか?」という質問が来るんです。」

「なるほど。」

「でも、「良い記事とは何か」を伝えるのは、書いたことない人には難しいんですよ。ネタも、結局その人の得意にするものに依りますし。まず「書いてみては?」と言うんですが、まあ、書いて持ってくる人は少ないですよね。」

「そうなんですね。」

「それで、ブログコンサルを有料化する人の気持がわかりました。結局、手を動かさない人が何回もくるんで、「お金を払うんなら何回も同じことをいいますよ」という気持ちなんだと思います。」

 

 

両者に共通するのは、

「手を動かさない人」へのアドバイスは、とても難しい。」

という事実だ。

人にアドバイスを求めるなら、まず作品を作ってからにする必要があると、彼らは言っている。

 

起業も同じかもしれない。

個人的に経験があるのは、「起業しようと思っているんです」という人には世間は冷たいということだ。「さっさとやれよ」という目で見られる。

だが「起業してしまいましたが、うまく行かなくて困っています」という人には「見せてみ」というアドバイスをしてくれる人がいて、比較的世間は優しい。

 

結局、手を動かしている人しか。真剣なアドバイスはもらえない、ということなのだろう。

 

私はメルマガの彼に

「おっしゃるとおりですね。まあ、おそらく悩むだけ損ですよ。」

と言い、別れた。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

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