知人から、「不快な出来事があった」と聞かされた。
彼があるファーストフード店に入ったところ、新人と思しき店員が接客にもたついていた。
だが彼が不快に思ったのは、新人がもたついていたからではない。
彼が不快だったのは、新人の指導にあたっているおばちゃんに対してである。おばちゃんは接客中の新人にかなりキツい言葉を投げかけていたという。
「新人さんがおそいことにぼくは決して不満はないです。でも、新人さんを見ているおばちゃんは、どんどんイライラするんですよ。言葉キツイし。で、ぼくはおばちゃんにイライラする。
僕が単純に気分わるかったですね。ほら、先におかねをとって、商品すぐにわたしなさい。とかいっててその相手ぼくだし。ゆっくりでもいいし別に新人ならむしろ「がんばって」と思うし。まあ、でもそれをゆるさない客もいるんだろーなって。」
軽口を叩いているが、内心は相当不愉快だったのだろう。
「最低ですよ。」と穏やかではない。
だが一方で、私があるホテルからの依頼を請けて仕事をしていたとき、そのサービス員の方からこんな話を聴いた。
「中には難しいお客さんもいるんです。」
「例えばどんな方がいるんですか?」
「宴会の直前に会場の視察に見えたのですが、いきなり「左右対称じゃない!」と、かなりお怒りになられまして。」
「左右対称とは?」
「その会場は、インフラの都合上、それを隠すためにほんの少し中心から演壇がずれるんです。でも、お客さんは「ぴったり真ん中」でなければ許さないと言っていまして……。開場までわずかですし、こちらが平謝りでもお客さんの怒りは収まらないですし……途方に暮れました。」
「大変でしたね。」
「もちろん私が悪いので、自業自得なんです。で、その後、会場責任者が駆けつけてきました。」
「かばってくれたんですか?」
「いえ、逆です。私も設営をやっていたメンバーも、お客さんの目の前で、「何やってんだお前ら!早く直せ!」と、凄まじい剣幕で怒鳴られました。」
「おー……。泣き面に蜂、ですか。」
「いえ、実はそうじゃないんです。責任者が私たちを怒鳴りつけたので、お客さんはすっかり機嫌が直ってしまって。「いや、もういいですから……」って、むしろお客さんが私たちをかばってくれるような感じになりました。」
「…!」
「ええ、その責任者、我々にあえて怒鳴ったんですよ。そういう人なんです。上には感謝です。でも、後で「あー、責任者に大声を出させてしまって本当に申し訳ない」と反省しました。」
上の二つの事例、ファーストフード店と、ホテルの対応はいずれも
「部下がミスをした時、客の目の前で上が叱る」
という点では共通している。しかし、お客さんの反応は全く異なる。なぜここまで反応が異なるのだろうか。
おそらくそれは「誰のために怒っているのか」だろう。
前者のファーストフード店のおばちゃんは、単純に「自分がイライラしたから怒った」のである。
「早くしないと、お客さんに私たちが怒られるでしょう」
という観点で部下を叱っている。
ところが、ホテルの会場責任者は、「お客さんと、部下のために怒った」のである。
「お客さんの怒りを鎮めるためには、私から言わなければ収集がつかない」
とその場の状況を判断し、的確に叱ったのである。
よく管理職研修などで「客の前で部下を叱ってはいけない」と言われる。
だが、それは正しいことを言っているようで、実はそうではない。
マニュアル通りにやればよいのなら、管理職などだれでもできる。
そうではなく、そういうことを「様々な人の視点で、状況に応じて考えて判断できる」から、管理職なのである。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
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