先日、部門ごとに昨年度の振り返りと今年度のスローガンをどうするか、話し合いが行われた。
今年度のスローガンを決めるにあたり、まずは部門のメンバーが1人1人考えたことを言っていったのだが、最後に言ったリーダー(取りまとめ役の人)の意見が興味深かったので、ここに書いておく。
私は人事部に所属している。リーダーは人事のメンバーから出た意見をまとめ
「一歩先を行く」
「言われる前に提案する」
が総意になるね、と言った。リーダー自身も同様のことを考えていたらしい。
「それで、“一歩先に行く”や、“言われる前に提案する”をスローガンに落とし込むためにはどんな言葉が良いか考えていて、なかなかピッタリな言葉が見つからなかったんだけど、最後に辿り着いた言葉は“ホスピタリティ”だったんだよね」
「ホスピタリティ?」
「そう。ホスピタリティっていうと(2013年の流行語大賞になった滝川クリステルさんの)『お・も・て・な・し』をイメージする人が多くて、“何でも要望を受け入れる人事”とへりくだった想像をしてしまいがちだけど、ホスピタリティの言葉の意味を調べるとイメージとは異なることがわかった。ところで、ホスピタリティとサービスの違いって何かわかる?」
メンバーみんながわからない、というリアクションをすると、リーダーは説明してくれた。
「ホスピタリティは実は、提供する立場の人と受ける立場の人が対等の関係にあるんだって。サービスは対価を求めるけど、ホスピタリティは目先の報酬/対価を求めているのではなく、おもてなし/喜びを与えることに重きをおいているから、対等の関係がちゃんと成立するってこと。
一方、対等ではなくて主従関係があるのがサービス。サービスを受ける立場の人が主、サービスを提供する立場の人が従と、サービスは対価があるから主従関係ができてしまう。調べたところによると、サービスという言葉はラテン語のServus(奴隷)から来ているらしいよ。語源から考えるとまさに主従関係だよね*1」
まとめると
【サービス】
・対価を求める
・主従関係がある
【ホスピタリティ】
・対価を求めない
・対等の関係
ということ。サービスは対価を求めるからこそ、「もっとお金を出すから、もっと良いサービスをしてほしい」といった要望が出てくるが、ホスピタリティは対価を求めず、対等の関係であるため、「もっとお金を出すから」が通用しない。提供する側が自主的に、相手のことを考えて提供するのがホスピタリティである。
「こうやってサービスとホスピタリティの違いを踏まえた上で、私たちが目指すべきものって何だろうって考えると、やっぱりホスピタリティなんだよね」とリーダーが言った。
この説明を聞いて、メンバーみんなが納得していた。ただ、次のような意見も出た。
「この説明を聞いたから私たちはホスピタリティの真の意味を理解したし、人事部のスローガンにふさわしいと思うことができた。でも、説明を聞かないと主従関係のあるサービスを想像してしまうから、説明を聞いていない他の多くの社員には誤解されてしまうかもしれないですね」
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少し話は逸れるが、もう何ヶ月も前、先輩に「結局、優しい人が損をする世の中なんだよ」と言われたことがある。
正直なところ、全くピンとこなかった。というか、「いや、そんなわけないでしょ」と思っていたし、今もそう思っている。でも、先輩が「優しい人は損をする」と言った背景を理解してからは、同意はしないものの、「そういうことね」と納得はできた。
優しいと損をするとはどういうことか。はっきりと言われたわけではないから私の想像も入っているけれど、紐解いていくとおそらくこういうことだと思う。
・自分は気が弱い
・さらに嫌われたくない、好かれたいという気持ちが強い
・だから頼まれたら断らないし、頼られたら助けたくなる
・また、気が強い人に強く言われると言い返せず、飲み込んでしまうことが多い
・その結果、本来の仕事以外にやるべきことが増える
・本来の仕事ではないから評価されず、負担だけが増えていく
つまり、「気が弱い人が嫌われることを恐れた結果、何でも受け入れる“優しい”人になり、負担やストレスがたまっていく」を言い換えて「優しい人は損をする」になったのだ。「正直者がバカを見る」の優しさ版で「優しい人がバカを見る」と言いたかったのかもしれない。
でも、私は優しい人が損をするとは思っていない。
何が言いたいのかというと、先輩の言う優しさは私の中の優しさとは違っていて、だから同意できなかったということだ。
言葉の持つ意味を皆が正確に把握しているわけではないし、言葉からイメージするものも1人1人違う。だから、言葉を伝えただけでは伝わらないことも多く、その言葉が持つ意味やその言葉を発した背景を説明しないと本当に伝えたいことは伝わらない。ホスピタリティも優しさもそう。スローガンや先輩の何気ない言葉を通して、「説明しないと誤解されてしまう」という当たり前かもしれないけれど、普段あまり意識していなかったことを強く認識した。
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「これくらいわかるでしょ」と説明なしに済ませてしまうことが多い面倒くさがりな性格は、これを機に変わっていくのでしょうか。「誤解されたりうまく伝わらなかったりするくらいなら、ちゃんと説明しようよ」と自分に言い聞かせました……。
ではまた!
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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
[著者プロフィール]
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
*1 一部記憶が曖昧だったため調べたところ、リンク先に記載 http://www.hospitality-gokui.com/a1.html