この前友人に会って、会っていない間に会社でものすごくつらい思いをしていたという話を聞いた。
その直後に友人から「あなたの会社はどう?」と聞かれた。
誰にとっても完璧な会社なんてきっと幻だ。記事にはしていないけれど不満に思うことは当然あるわけで、会社の愚痴なんて言おうと思えばいくらでも言える。
しかし、誰が見ても「私の不満<友人のつらさ」という状態、いや、「私の不満<<<<<<<<<<友人のつらさ」くらいの状態で不満を言えるかというと、それはちょっと厳しいものがある。
私が正直にそう伝えると、友人はこう言った。
「そんなこと思う必要はないよ。その人にとっての悩みは悩みなんだから。他の人と比べてどうだとか思わなくてもよくて、自分にとって大きい悩みならそれは大きい悩みなんだよ」
自分がつらい思いをしていながら、こう言える友人はすごいと思った。こう言ってもらえたことによって、私は“大きな”不満を語ることができたわけだが、ここで言いたいのは不満のことではなく、友人の言葉についてである。
自分にとって大きい悩みならそれは大きい悩み
悩みは人と比べなくていいという意味で、まさにその通りだと思う一方、これはこの友人だからこそ言える言葉なのだ、とも思う。
というのも、世の中には比べたがる人がたくさんいて、安易に「つらい」なんて言おうものなら「その程度のことでつらいだなんて……もっとつらい思いをしている人はたくさんいるのに」と言ってくる人がいるからだ。
「いやいや、そんなことわかっていますよ。私よりつらい思いをしている人なんて数えて切れないほどいるでしょう。でも、現に私は今つらいんです」というのは通じないらしい。
自分にとってつらさが100ならそれは紛れもなく100であるはずなのに、
「世間には500とか1000のつらさが存在しているのだから、それに比べたらあなたのつらさは10、20くらいですよ」
と言われてしまう。
まぁわからなくはない。
私だってお金持ちのお嬢様に「毎日デザートに食べている高級なお菓子が今日は家にないみたいで、食後に出てこないのがつらい(つらさ100)」とか言われてもピンとこなくて「え、それ、つらさ0.01くらいじゃない?」と思ってしまう。
でも、だからといって私がそのお嬢様に「いやいや、そのつらさは0.01程度だからね。全然つらくないでしょ」と言うのはちょっと違って、その人にとってつらいのであればつらいのであり、つらさ100なら100なのだ。
難しいな、と思うのは、「人は比べたがる生き物である」という現実と「人と比べるな」という正義が両立していることだ。
友人のように心から「比べなくてもいいんだよ」と思っている人は少数派だろう。(心から思っていなかったとしても、あのように言える優しさを持ち合わせている人はあまりいない。)
私自身、人と比べながら生きている。“持っている”人を見たら「いいな~私もそうなりたい」と羨ましく思うし、他人のちょっと不幸な、自虐的な話は心から楽しめてしまう、そんな人間だ。
ここでふと思う。
そういえば、つらさ100のときに「つらさ1000の人もいるんだよ」と言ってくる人はいるけれど、幸せ100のときに「幸せ1000の人もいるんだよ」と言ってくる人はいないなぁ……。
たとえば顔があまり恰好良くなくて、身長は低め、年収も低めの男性と結婚した女性がいたとして、本人が「幸せ(幸せ100)」と言っているのを、「いやいや、高身長でお金持ちのイケメンと結婚した人もいるんだよ。それに比べたら幸せ10でしょ」とは思わないだろう。
幸福感なら主観を肯定できるのに、つらさの主観は肯定できないのは一体なぜなのか。
ちょうどいい言葉を思い出した。
「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」
どこかで聞いたことがあるこの言葉。これがつらさの主観を肯定できない理由の答えの1つではないかと思う。
「幸福の形は主観と客観が一致するからいつも同じだが、不幸の形は主観(1人)と客観(無数)が一致しないからそれぞれ違う」と解釈すると、とてもしっくりくるのである。(もともとはトルストイの言葉から来ているらしく、正式な言葉・文脈・解釈ではないことはご了承いただきたい。)
都合よく言葉を持ってきて、都合よく解釈しているだけなので、詳しい人からは怒られてしまいそうだが、妙に納得してしまった。
ただ、「うん、だから仕方ないよね」とはならなくて、「一致しないのは仕方ないけど、他人のつらさは否定しないでほしいな」というのが本音である。
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[著者プロフィール]
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「[STUDY HACKER]数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」」(マイナビ、2015)
(Photo:Leonid Mamchenkov)