前にBooks&Appsさんでアルバイトに関する記事が連載されていた。この記事を書くにあたって再び読み直してみたのだけど、なかなか面白かった。
アルバイトを30種類近くやった、と言う学生が「アルバイトはやめとけ」と言う理由。 | Books&Apps
個人的には条件付きだけど、アルバイトはやった方がよいと思っている。
その条件とは、短期間で多種類の職種を経験するというものだ。
あまり1つの分野に長くいても、正直あれは面白いものではない。長くても1ヶ月位やれば十分だろう。
実は僕は学生時代にいろいろな分野でアルバイトの経験をしたことがある。
塾講師、家庭教師、飲食店の給仕、ホテルの清掃、イベントスタッフ、大手百貨店のレジ打ち、などなど。ずいぶんいろんな場所に出没して汗をかいたものである。
なんでこんなに色んな分野で働く事ができたかというと、派遣会社に名前を登録した時に事務の人に
「時給はどうでもいいからとにかく色んな種類の現場に送ってくれ」
と相談したからだ。
こういう事を申し出てくる人は結構珍しかったようで、非常に驚かれたのをよく覚えている(今はこういう事ができるかどうかはわからないけど、個人的にはアルバイトをするのならばこの方式が一番良いような気がする)
いろんな現場にスタッフとして立ち会うことで、ずいぶんとモノの見方に変化が出たものである。
上にリンクを貼った記事の中の人もアルバイト経験を通じて得るものがあったようだけど、僕もアルバイト経験を通じて2つの新しい考えを身につけることができた。1つは立ち振る舞いに関する事で、もう1つは実際の職業選択に関する事だ。
1つ目の立ち振る舞いについての変化だけど、端的にいうと非常に謙虚になった。
アルバイト経験をする前はサービスされる事を「お金を払っているのだから当然」だと思っていたし、声を荒げたりはしなかったけどもサービスに粗があったりすると顔をしかめたりしていた。
それが一旦現場に立ってみて辛い思いをすると、とてもじゃないけどそんな事はできなくなってしまった。
アルバイト経験以降、僕はサービスを受ける時は必要以上に感謝の言葉を述べるようになり、ミスについては全力で同情し逆に「大丈夫?疲れてない?」と声をかけるようにすらなった。”就労経験を通じて人にやさしくなれる”というのは非常に新鮮な感覚であった。
働いてみるとわかるが、サービス関連のお仕事は本当に過酷だ。
たかだか時給1000円程度であんなキツイ仕事をさせられるだなんて、世の中はなんて厳しいのだろう。
時々「金を払ってるんだから当然だ」とか「お客様は神様だろ?」というおぞましい言葉を聞くが一度現場で働くと、とてもじゃないけどそんな言葉は出せなくなる。
僕はそれまでも比較的勉学によく励むタイプの学生だったが、アルバイト経験以降はより一層真面目に勉強に取り組むようになった。
「あの場所に永遠に居続けなくてはいけないようになったら人生がメチャクチャ辛そうだ。しっかりと勉強して知識を身に着けて、身体ではなく頭脳が評価されるような面白い職場を選べるような存在にならないといけない」
と思ったのがその理由だけど、そういう点では、ある意味アルバイトは勉学にキチンと取り組む強いインセンティブとなったといえるだろう。
2つめの変化である実際に仕事を選ぶ際の基準についてだけど、これは本当に重要なポイントだと僕は思うで是非人生観の1つとして取り入れて欲しいと思う。
端的にいうと”仕事を選択するにあたって、就労中に時計を早く終われ終われと眺めるようなタイプの仕事には絶対についてはいけない”という事だ。
みなさんも退屈な学校の授業中に「あと授業時間が40分もある。早く終わらないかな」と思った経験があるだろう。
退屈なアルバイトの仕事中に感じる辛さは、あの感覚を100倍ぐらい煮詰めて濃くした感覚に近いものがある。
具体的なエピソードをあげると、僕がかつて新宿にある某百貨店でレジ打ちをしていた頃、全くお客さんが入ってこない事があった。
はじめのうちは「今日はヒマで楽だな」と思っていたのだけど、徐々に徐々にヒマであることが非常に苦痛になってきて気が狂いそうになっていった。
しばらくして「30分はたっただろう」と時計を見ると、3分しかたってなく、あーこれがあと7時間も続くのか辛い~と非常に鬱々としたのを今でもよく覚えている。
その時、僕は強く思った。”勤務中に時間経過をただ待つだけの仕事はどんなに楽でも絶対に選択するまい”と。
実際に自分が就職活動を行うにあたって、こういう考えがあったという事もあり、暇そうにしている研修医が多い病院は「楽だよ~」と誘われても絶対に職場の選択肢に含めないことにした。
そういう病院は確かに身体的には楽だったかもしれないけども、某百貨店で味わったあの地獄の苦しみの再来がうっすらと予期されたからである。
いくら肉体的に楽でも、精神が楽とは限らない。結局その後、僕は超ウルトラハイパー激務病院で働く事になったのだけど、某百貨店で味わったあの苦しみと比較すれば、随分と精神的には楽だったな、と今では思う
ちなみに超ウルトラハイパー激務病院での時間の体感的な速度だけど、これはもう異様に早かった。
裁量が結構あって自由にやれたという事と目の前にやらなくてはいけない仕事が刻一刻と時間がたつにつれて増えていったという事もあり”月曜日が来たと思ったら、気がついたらもう次の月曜日だった”という日が何度も何度も続いた。
裁量がない形で拘束されると人は時間の流れが非常に遅く感じるが、裁量がある状態で目の前に仕事が山積みになると、人は時間の流れるスピード感覚が消えるのである。
たぶんブラック企業で激烈に働いている人の10年は、一瞬なんだろうな、という事がよくわかったのも今ではよい思い出だ。人生が摩耗するから、正直もう2度と経験したくないけれど(笑)
とまあこんな感じで結構いろんな事が学べるので、多職種・短期間限定でのアルバイトは結構オススメです。学生さんは文字通り様々な経験をして、人生観を広めましょう。
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(Photo:Phalinn Ooi)