フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略多くの方が読まれていると思うが、「FREE」という本がある。私もかなり前に読んだが、内容について忘れてしまっている部分も多いので、もう一度読み返してみた。

 

この本は、最も強力なマーケティング手法の一つである「無料」について、その歴史と分類、効果、適用の方法をある程度体系的にまとめたものだ。

その中で、最も面白いと感じたのが、「無料」と「安い」はどの程度違うのか、という調査だ。

 

著者のクリス・アンダーソンは

「無料」と、「たった1セントであっても支払いが生じる」の間にはとてつもなく大きなギャップが有る、と述べる。具体的にはこのような調査が引き合いに出される。

 

”ファースト・ラウンド・キャピタル社のベンチャー・キャピタリストのジョシュ・コペルマンは、お金を払うことに対するこの心理的障壁を調べて、世間で教えている価格戦略が全く間違っていることを知った。

需要供給曲線は従来の経済学で言われていたようなカーブを描くことはなく、実際には2つの大きな異なった市場があるのだ。それは無料の市場とそれ以外の市場だ。”

 

”ペンシルヴェニア大学ウォートン校のカーティク・ホサナがー教授は次のように言う。「価格がゼロにおける需要は、価格が非常に低い時の需要の数倍以上になります。ゼロになった途端に、需要は非線形的な伸びを示すのです」”

 

”コペルマンはそれを「ペニー・ギャップ」と呼んだ。彼のもとにはよく起業家がビジネスプランを持ってやってくるという。そのプランは、サンプルを試した人の5%が製品を買ってくれれば商売になるものだが、実際にうまくいくことはめったに無い。その理由をコペルマンはこう説明する。(中略)実際に売上を5ドルから5000万ドルに増やすのは、ベンチャー事業にとって最も難しい仕事ではありません。ユーザーになにがしかのお金を払わせることが最も難しいのです。すべてのベンチャー事業が抱える最大のギャップは、無料のサービスと1セントでも請求するサービスの間にあるのです”

 

 

売れないものを、いくら価格を引き下げても売れないことには変わりない。お金を請求しているから、というのが著者の主張だ。著者の言うように、

 

”値段ゼロは単なる価格ではない。ゼロは感情のホットボタン、つまり引き金であり、不合理な興奮の源なのだ”

 

 

このことから「有料にする」という行為は、「無料版が良ければ、もっと機能の優れている有料版も使ってくれるだろう」と楽観的に考えるのではなく、

「わざわざ有料のものを使おうという明確な理由を商品提供側が作らなくてはいけない」ということになる。

 

特にソフトウェアのように、コピーにかかるコストが限りなくゼロに近いものは、ユーザーが有料のものを利用する障害になるものは、心理的障壁だ。

 

例えば、無料には以下の様なコスト以外の代償が伴うと、ユーザーにはっきりと認識してもらう必要がある。

  • リスク(保証、サポートなど)
  • 罪悪感(違法行為など)
  • 求めている機能が実現できない(美観、速度、容量など)
  • 時間的損失、面倒なこと、煩わしいことをやらなくてはいけない(手続き、広告表示、回線速度など)

 

 

Webを利用して、多くのユーザーにアプローチするために、「無料に関する心理学」を使いこなす知識は、非常に重要だと感じる人には、非常におすすめの本だと思う。

フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略

フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略

  • クリス・ アンダーソン,高橋 則明,小林 弘人
  • NHK出版
  • 価格¥1,047(2025/06/05 20:34時点)
  • 発売日2009/11/21
  • 商品ランキング46,486位

 

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


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<2025年7月14日実施予定>

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2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
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・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
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3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)