以前ご紹介した本に「みんなの意見は案外正しい」がある。

この本は「集合知」について書かれたものであり、一定の条件下では「どんなに賢い人物であっても、集合体としての知恵にはかなわない」という趣旨の本だが、読みなおしてみたところ、その中に会議に関する面白い知見があったので紹介する。

 

作者が疑問を投げかけたのは、「衆知を結集するために会議をする」ことの有効性である。

結論から言えば、彼は「衆知を結集する道具として、従来の合意形成をするような会議は無駄である」という。

彼は、こう述べる。

私達は議論を通して合理性と中庸が生まれると考えているので、意見を交わせば交わすほど人々は極端に走りにくくなると思いがちだ。ところが30年におよぶ様々な実験や陪審の経験から得られた知見は、多くの場合全く逆の事態が生じることを示す”

 

この現象は「集団極性化」と言われる現象であり、人々が集団の和を乱さないように行動した時だけではなく、正しい答えを求めようとして最善を尽くした時にも生まれる。

特に、集団のメンバー同士が知り合いだと、地位が発言のパターンを規定する傾向にあり、大体地位の高い人が地位の低い人よりも発言量が多くなる。

(中略)

発現量の多さを心配するのは意外かもしれない。だが、発言量は小さな集団が達する結論にとても大きな影響を及ぼす。集団の中で発現量が多い人は、ほとんど無条件に他のメンバーから影響力が大きいとみなされる”

航空兵の研究が示すように、自分がリーダーであると思い込んでいる人は自分の知識を過大評価し、全く根拠もないのに専門家として自身に満ち溢れた雰囲気を醸し出す。

さらに言えば、だいたいにおいて過激派のほうが穏健派より自分の正しさを確信しているし、頑固なので、議論を重ねると集団全体は極端な方向に引っ張られがちだ”

これによれば、多くの場合会社における会議は「正しさ」よりも、「発言量」や、「地位」によって議論の結論が決まってしまうので、「会議は無駄」なのである。

 

しかし、仮に会社の中で会議に次のような条件を付け加えることが可能なら、「最も賢い社員よりも、会議が出した結論のほうが優れたソリューションを出せる可能性が高い」と著者は述べる。

・意見が鋭く対立する

・すべてのメンバーが発言する

・議案が明確である

・自分の知らないことについての知識を尊重する

 

そして、企業においてこのアプローチを運用するために最も必要なことは、「合意形成をしない」ということだ。

集合的な意思決定は合意形成と一緒くたに考えられることが多いが、集団の知恵を活用するうえで合意形成は本来的には必要ない。

合意形成を主眼に置くと、誰かを刺激することもない代わりに、誰かの感情を害することもないような、どうでも良い最大公約数的なソリューションになりやすい。合意嗜好のグループは慣れ親しんだ意見ばかり大事にして、挑発的な意見は叩き潰すからだ”

各人が「意見を尊重されている」と感じれば、合意形成は必要ない。このアプローチが取れるかどうかこそが、「集合知」を使える集団か、使えない集団なのかの境界線なのだろう。

 

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【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)